STAGE 2-1 情報交換
6月27日 14:14
真次が幻想郷に来てから、一週間が経過した。
この一週間は過ぎて見ればあっという間だったが、実に濃厚な一週間であった。
異世界に連れらると思いきや、謎の獣に襲撃され、藍を治療することになり……弾幕ゴッコ習得、幻想郷の把握、妖怪の勉強、呪いの正体の解析、ニアとの遭遇、妹紅戦、輝夜と添い寝……これが濃厚でなくて、何なのか。
なので、昨日は一日ゆっくりと休養していた。今日は妖怪の怪我人がちょくちょく来ていたので、その対応をしていたのである。
というのも、ここ最近妖怪の怪我人の数が、急激に増えている。しかも、迷いの竹林だけでなく、他の場所でも起こり始めたようで、様々な妖怪たちを手当てするために、永琳一人では回らなくなり……真次も対応しているというわけだ。
「ところで文、お前にこの怪我をさせた奴、黒い狼か?」
幻想郷に入って比較的すぐ出会った人物である文の手に、ガーゼを当ててやる。幸い軽傷なので、消毒とガーゼさえ当ててればすぐ治るだろう。
「いえ、それが……確かに黒い狼たちもいたのですが、その中心に人影……あれは怨霊だと思いますが、とにかくそれがいました。取材を試みたのですが、話しかけた途端攻撃されこのザマですよ」
やれやれと首を振りながら、文はそう言った。
「しかし厄介ですねぇ……普段なんともないだけに、煩わしく感じます」
「人間だとそれが当たり前なんだがな。ところで、ニアの様子は?」
「ニア? ああ、河童のところに居ついた付喪神のことですね。騒動の時に真次さんも居合わせたんでしたっけ。相変わらず正体はわからずですが、にとりさんのことを母親と呼んで懐いてます。引き離すのもかわいそうだということで、にとりの研究所で住まわせることになりそうです」
「そうかい……処置終わったぞ」
文が伸ばしてた手をひっこめ、一つ伸びをしてその場を立った。
「そう言えば、人間は来ないんですか?」
「人間にとってはここ立地悪いし、普段通りだが」
「あやや? それも妙ですね……」
真次が続きを促すと、文は情報を教えてくれた。
「いえ実は、人間も襲われているようなのですが、狼たちは弾幕を浴びせるだけ浴びせたら、撤退してしまうそうなのですよ。人里の村人が、複数人証言していたので間違いありません」
「なんだそりゃ?」
「しかも、弾幕自体に衝撃などはあるのですが、傷も残っていないという……」
「……それって攻撃する意味があるのか?」
「わかりません。ただ、意味もないことをするとも思えませんよね?」
「知能が低いとかか? いや、それだったら本能に任せて襲いかかってくるか……」
真次は今までの情報を元に考え込む。奴らは、幻想郷に敵対する勢力なのは間違いなさそうだ。
ならば人間に攻撃する際も、文の言うとおり意味がある可能性が高い。自身のメモ帳を文にも公開しながら、二人で話を続ける。しかし、次の患者も待っているということで、結局情報を交換するだけで終わってしまった。
「これからひと波乱、起きそうですね」
「それは間違いないと守矢の神様も言っていた。文、無理するなよ? ヤバイ情報掴んで消されたなんて最悪だからな」
「私は自他共に認める幻想郷最速ですよ? そう簡単には捕まらないのでご安心を」
最後にそうとだけ告げて、文は診察室を去る。
残された真次は、次々と来る妖怪の患者の対応に追われた。
6月27日 14:20




