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STAGE 1-16 添い寝

6月25日 23:09



 その日の夜、真次に割り当てられた部屋は、普段とは違う様相を見せていた。

 まず一つ、身体を拭くものが用意されていること、次に一つの布団に、枕が二つ置かれているということ。そして三つ目は――輝夜がいるということである。


「あの時の会話……本気だったのか……」

「当たり前でしょ! 妹紅がやって私がやらないなんてあり得ないわ!!」


 元気いっぱいに輝夜は、真次を指さしながらそう言った。

 セッティングは全部永琳がやってくれたらしく、夕食と風呂を終えた真次が部屋に戻ったらこの状態だったのである。意味深に「ごゆっくり」などと言って通り過ぎたからまさかだとは思ったが、本当にこんな展開になってしまうとは……


「姫さん。もう一度言うが、俺はあんたには絶対に手を出さないからな!」

「なんでよ! しちゃえばあいつより先に既成事実作れるから悔しがらせられるのに!!」

「そんな理由で男に抱かれるんじゃねぇ!! てか、いつ妹紅の気持ちを知った!?」

「真次が出かけてる時に、あいつの病室行ったのよ。したらあいつ、「真次先生じゃなくて残念」みたいなこと言ったからね。表情も恋する乙女のそれだったし~?」


 流石かぐや姫、色恋のことは妹紅より彼女の方が上手らしい。


「てか、永琳も永琳だ……会って一週間経ってない人間とくっつけようとするなよ……」

「私が人間を気に入るなんて珍しいし、永琳も真次のこと悪く思ってないんじゃない?」


 評価が高いのは嬉しいが、だからと言ってこの扱いはどうなのか。


「さー真次、一緒に寝ましょ?」

「拒否権は」

「ある訳ないでしょ」


 その後も、真次は抵抗を続けたが、ウドンゲの言うとおり輝夜はこと妹紅のことになると頑固なようで、まるで引く様子がない。仕方ないと青年は諦め、おとなしく寝ることにした。

真次が布団に入った後、輝夜も同じように布団に入る。途端、真次はそっぽを向いた。


「な、何よあんた! ずいぶん失礼じゃない!?」

「勝手に人の布団に入りこむのも十分失礼だと思うんだが!?」

「レディーに恥かかせるのもどうかと思うわよ!?」


 ……あまりにも輝夜の抗議がうるさいので、しぶしぶ真次は輝夜の方を向く。


「……これでいいのか」

「初めからそうしなさい! まさか、妹紅の時もこんな態度だったの?」

「いや、夜布団で一人で寝てたら、朝起きた時点で布団の中に妹紅がいた」

「……あいつ、大胆なことするのね」

「こっちはいい迷惑だ。おかげて姫さんとも寝る羽目になったしな」


 言わなきゃよかったと後悔しつつ、さっさと寝てしまおうと真次は目を閉じる。


「えっ! ちょっとあんた、本気で私に手を出さないつもり!? 据え膳食わねば男の恥と言う言葉を知らないの!?」

「俺は女に飢えてねぇ! そんな状況で食いたいもんでもないのに食えるか!!」

「あっ、ひっどーい! やっぱり私に魅力を感じない訳!?」


 どう説明したものかと、真次は考え込む。多分説明したところで、輝夜は納得しないだろうし、下手をすれば誤解を生みかねない。迷った末、彼が話したのは――


「そもそも、魅力とはなんだ?」

「えっ……見た目とか、性格とか……あるいは、その人間の持ってる能力?」

「まあ、おおむねその通りだな。でも、今挙げたものって個人によって何が良いか違ったり、環境や文化的な影響って少なからず受けるよな?」


 ……わざと話をこじらせ、少しだけ真実を混ぜつつ、誤魔化すという方法だ。

 案の定輝夜は、小難しい話に頭を絞っている。


「ええっと……つまり、何が言いたい訳?」

「まずな、住んでる世界が違うんだから、何が魅力的かって基準そのものがズレてたりする訳だ。例えば、こっちの世界なら『弾幕ゴッコが強い』とかだな。こっちでは一目置かれるかもしれないが、向こうじゃそんなものはない」

「まぁ……そうね」

「だから、そう言った摩訶不思議パワーが使えることはさほどステータスにならない。真面目にそんな力が使えますなんて言っても、『何言ってんだこいつ』ぐらいにしか思われないだろう。言語が同じとはいえ、既にこんだけ違うんだ。姫さんの言う『魅力』と、俺の考える『魅力』にズレが生じてないとは言い切れないだろう?」

「仮にそうだとしても……男なんてみんな同じなんじゃないの?」


 身も蓋もない発言に誤魔化しきれなかったとがっくりしつつ、真次は自身の事情を話す。


「で、俺個人の評価基準ってのはな……実は一般的なそれとはだいぶズレてると思われる。診断結果は異常なしだったが、そうでもないと説明がつかない」

「何よそれ? 意味わかんない。……アブノーマルってこと?」

「だいたいあってる。診断されて出るようなものじゃないだけで、判断基準そのものはズレてるというのが俺の――いや、親父の見聞だ」


 輝夜がわかったようなわからないような表情を作る。だが、真次も真次で嘘は言っていない。


「じゃあ聞くけど、妹紅と私はどっちの方が魅力ある?」

「両方同じ評価で、女性としてあまり意識したことはない。ああ、でも安心しろ? 知り合いとしては輝夜の方がつきあい長いから評価上だな」

「ふ、ふーん……ちなみに、今までで一番評価高いのは? これは向こうの世界含めての質問よ」


 女性としてあまり意識したことないという発言にはへこんでいたが、妹紅より評価が高いと言われて持ちなおしたようだ。続けての質問に真次は思案したが、これに関してはあっさりと答えが出た。


「八意 永琳……だな」

「ファッ!?」


 変な声を上げて、輝夜は驚愕した。


「わ……私より評価高いの……?」

「ああ、だって……医者としてスゲェじゃねぇか。ありとあらゆる薬を作れて、外科医としても機能できる。おまけに患者の支払いも適正な価格より少し安いぐらいで、それでいて無理にとりたてない……素晴らしい医者じゃないか。向こうじゃ、俺は理想になれなかった……なろうとして失敗した」

「……? 真次?」


 その時のことを思い出して、彼は苦虫を噛み潰す。それが輝夜に伝わってしまったのだろう、彼女は不安げな顔をしていた。


「……昔話さ、理想に殉じようとして、現実に阻まれた。それだけの話だよ」


 小さく苦笑いをこぼす真次。輝夜は、それ以上は踏み込んでこなかった。しばらく無言の時間ができたが、やがて輝夜が、


「なんだか、色々話したら眠くなってきたわ……結局、ただ一緒に寝るだけになっちゃったわね」

「俺は元々一緒に寝る気さえなかったんだがな」

「なんというか……堅物ねぇ……」

「よく言われる」


 そして輝夜は小さく笑って、あくびを一つした後眠りについた。

 ようやく静かになったと愚痴りつつ、真次も彼女を追って夢の世界へと入っていった。



6月25日 23:32


一緒に寝るシーンのはずなのに、全然甘くないなぁ……まぁ、今作主人公側がその気無しだから仕方ないね。

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