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STAGE 1-12 小屋の中の二人

今回軽めの食事シーンあるんで、おなかすいてる時、あるいは深夜に読まない方がいいかも?

6月24日 19:02



 特に何事もなく二人は妹紅の小屋へとたどり着いた。

 外見も中身も、古い日本家屋と言ったところだ。永遠亭は割としっかりしていた作りなのであまり意識しなかったが、生活水準の違いを思わせる辺り、やはりここは異界なのだと実感する。


「妹紅、幻想郷ではこれぐらいの小屋が一般的なのか?」

「そうね。人里だと瓦屋根の家も何軒かあるわ。……どうかしたの?」

「いや、やはり現代と大分違うんだなぁって」

「どこがどう違うの?」


 妹紅に質問され、どこから説明したもんかと考える。とりあえずコンクリート製な所など、挙げ出せばキリがない。一つ一つ細かく説明していた真次だが、途中で妹紅が理解できなくなって「も、もういいわ」と切り上げた。


「じゃあ晩御飯作るわね」

「そうだな。手伝うぜ」

「えっ」

「えっ?」


 真次が料理を手伝うと言ったところ、妹紅が硬直した。何か変なことでもあるのだろうか?


「真次、あなたって料理人じゃないわよね?」

「そうだが」

「なのに、料理できるの?」

「……向こうじゃ、男が料理できるのも珍しくないぞ。てか、俺一人暮らしだったし」


 主夫なんて言葉もある。と説明したところ、妹紅は目をぱちくりさせていた。


「元は同じ日本だったはずなのに、ずいぶん文化が違うわね……」

「ああ、それは同感。言語が通じるだけでもありがたいと思うべきなのかもな」


 妹紅の小屋には水道がない。なので井戸水を汲んでくる必要があるのだが、幸い小屋の近くに井戸が掘ってあり、小屋に入る前に妹紅が汲んでいたのでそれを使う。泥の付いた大根を洗いながら、真次は現代とこちらの違いについて、妹紅が興味を惹きそうな話題を選んで話した。


「キッチン……台所周りだけでも大分違う。ツマミを回すだけで火が出せて調節も簡単なガスコンロ、モノを楽に温められる電子レンジに、蛇口をひねれば水が出てくる水道、食材を保存する冷蔵庫……」

「……現代って、すごいのね」

「生活は楽だな。冷凍食品とかあるし。俺は自分で料理しないと気が済まないタチだったから、あまり使わなかったが」


 妹紅が妖術で火をつける。……これではガスコンロがいらないと思ったのは内緒だ。

 火をくべる場所は二か所あり、片方は釜でご飯をたいでいる。もう片方は味噌汁の予定だそうだ。

 大根をテンポ良く刻みながら、真次は煮立った鍋に具材を放りこむ。その手際の良さに妹紅は目を丸くした。


「……もしかしてかなり慣れてるの?」

「職業柄、刃物を扱うのは得意でね。一人暮らしの時間も長いし、慣れてる方なんじゃねぇの?」


 妹紅が味噌を足し、味を調整しながら具が柔らかくなるまで煮込む。

 釜の方もいい感じになったとこで火を止め、二人分盛り付けた。

 その間に、妹紅が奥から机を引っ張りだしてきて、居間の中央に置く。

 後は、ご飯の盛りつけられた茶碗と、味噌汁の入ったお椀を置き、箸を並べれば完璧だ。


「大して作れなくてごめんなさいね。朝食も作り置きしたものになっちゃうけど」

「遅かったし仕方ねぇさ。さ、冷める前に食おうぜ」


 いただきますと二人は手を合わせ、食事を始める。

 ……釜で炊いたご飯は大変おいしく、炊飯器で炊いだご飯とは何だったのかと真次は思い知った。旨みと甘みが段違いである。

 味噌汁の具は油揚げと豆腐、そして大根とその葉っぱだ。やや薄味気味だったが、真次は健康を気にして普段から薄味の味付けにしてあるので、特に問題はない。と言うより、食材の旨みが濃いので、全く問題にならない。幻想郷の食材は、みんなこうなのだろうか? ふと、妹紅に真次は質問する。


「なぁ、妹紅。もしかしてこれ、いい食材使ってるか?」

「え? 普通に売ってるのを適当に買ってきただけよ? どうして?」

「向こうの飯より美味いからさ、なんか特別なことでもしてんのかな。と」

「別に普通だと思うわ」


 などと、会話しながら食事を終え、真次は後片付けを、妹紅は寝具の準備を始めた。しかし、ここで一つ問題が発生する。


「ねぇ真次先生。……布団一つしかないんだけど」

「……マジで? 来客用のとかねぇのか?」

「ごめんなさい、持ってないわ。……一緒に寝ちゃう?」

「……………………はい?」


 真次は耳を疑った。うら若き乙女が男と一緒に寝るなど、間違っても言っていい言葉ではない。


「妹紅、それは流石にまずいだろ。色々と」

「……私は嫌じゃないけど」

「何か言ったか?」

「何でもないわ」


 慌てて何かを否定する妹紅。どうしたものか、と真次は思考する。


「掛けるものとかあるか? 六月下旬だし、俺、布巻いて壁で寝るわ」

「お客様にそれは悪いわよ。風邪引かれたら困るし。私がそうするわ」

「いや、女差し置いて床で寝るのもなぁ……」

「私は不老不死だから、風邪を引く心配もないし、真次先生が寝て」


 強い語調で言われ、真次はおとなしく布団に潜る。

 弾幕戦の疲労もあってか、睡魔はすぐに襲ってきて、1分もたたずに彼は眠りに落ちた。



***



(……もう寝ちゃったの? 早いわね)


 ぐっすりと眠っている真次の横顔を見ながら、妹紅はそう思った。

 まだ数分しか経ってないが、ちょっとやそっとで彼は起きそうにない。


(やっぱり、そういうことなのよね、きっと)


 高鳴る心臓を押さえながら、妹紅は思考する。

 ……弾幕戦が終わった時、妹紅は真次に肌を見られて「恥ずかしい」と明確に感じた。

 一見、普通の反応かもしれないが、彼女の場合は事情が異なる。

 永い時間を生きてきた彼女にとって、肌を見られるなどどうということはない。輝夜相手にも、他の異性相手にも見られて特に恥ずかしいと感じることはなかった。彼だから、「恥ずかしかった」のである。


「……はぁ」


 ため息をつかずには、いられなかった。

 妹紅の父親は、色恋沙汰で恥をかいたし、輝夜にご執心になって、だらしのなくなった父親は情けなかった。だから、どうにも恋愛というものに対してよくないイメージを彼女は持っている。

 そんな自分が――


(一緒に寝てもいい、だなんて)


 真次はまずいだろと断ったが、もし彼が構わないと言ったら、きっと一緒に床についていただろう。……今だって一緒に寝たいぐらいだ。


(先生も先生で、私のこと全く意識してないのよね……)


 彼は「医者として」自分のことを心配してくれている。それは妹紅としても嬉しいのだが、異性として見られてないと考えると気が沈む。鼓動が早いと伝えた時も、「病気かも」だったし、一緒に寝る? と提案しても簡単に断ってしまっている。……普通の若い男なら、もう少しドキマキしてくれてもいいのではないだろうか?


(真次先生、起きないわよね……?)


 体にかけてあった布を余所へ投げ捨て、真次の寝顔をのぞきこむ。

 ……こうして近くで見ると、顔つきは案外整っている。少なくてもブサイクではない。子供のような印象は、きっと彼の性格だろう。

 ほっぺたを軽くつつくも、彼が起きる様子はない。

 彼女は意を決して……彼に意識してもらうのと、自分の願望を果たすために――

 彼の眠っている布団に、潜りこんだ。

 少々暑苦しくなったが、そんなことは気にしない。むしろ彼の温もりを感じられて、妹紅としては幸せである。

 もし真次より先に目が覚めてしまっても、明日は寝たふりをしていよう。

 その時の反応を楽しみにしながら、やがて彼女も眠りについた。



6月24日 23:34


はい。小屋でのシーンでした。作者の目安だとこの分量は、砂糖ひと匙ぐらいかなー? 妹紅側からのアプローチでしたね。真次! そこ変われ!!

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