STAGE 1-9 ニア
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6月23日 16:23
戦闘を終え、真次はにとりの研究所内へと帰還した。
とりあえず床に寝かせるのも気まずいので、にとりに適当な敷物を持ってきてもらい、そこの少女を寝かせる。
「この子、付喪神だ」
その作業中に、ぽつりとにとりが呟いた。確か、弟の参真が彼女にしている妖怪の種類である。
「それはどんな妖怪なんだ?」
「道具やものに宿っている魂が、へそを曲げた姿――要は、壊されずに捨てられた道具が、妖怪になったものだよ。でもおかしいね。それなら本体……捨てられる前の道具もセットで付いてくるはずなんだけど……」
つまり、この少女は元々は何かの道具であったということである。おそらく、通信機を内蔵した何らかの。
「真次が戦い始めてから、『お母さん』と呼ぶ通信は聞こえなくなったから、この子が通信相手で間違いないね。いやぁ、不謹慎かもしれないけどわくわくするよ! きっとこの子、機械にすっごく詳しいんじゃないかな」
真次の銃を解体しようとしている時と同じように、目を輝かせるにとり。その可能性は十二分にあるが、彼はそんなことより、少女の正体の方が気になった。
「ん……お母……さん……」
と、少女がうっすらと目を開いた。一応真次は加減して撃ったとはいえ、ずいぶん回復が早い。こんな姿でも、妖怪のはしくれということか。
「……ここ、どこ? あっ……電波の発信源……」
少女の視線の先には、にとりの修復した通信機があった。――少女の目的地は、どうやらこの研究所だったらしい。
「お母さんは? もしかしてあなたがお母さん?」
にとりにそう問いかける少女。残念ながら――
「ええと、私は君のお母さんじゃないよ。うん。会うのも初めてじゃないかな」
「うそ……うそだよそんなの。こんなふうになってまで帰って来たのに……うっく……ひっく」
そのまま涙ぐみ、やがて大声で少女は泣きじゃくる。真次とにとりは訳がわからなかった。
「なぁ嬢ちゃん。名前は? 嬢ちゃんが誰か――いや、『何か』か。それがわかれば、母親と会う手伝いができるかもしれないからさ。聞かせてくれよ」
語調を和らげて、少女をあやしながら真次が聞いた。泣いている子供の扱いは、真次も職場でやったことがある。故に、にとりからすれば随分と手慣れた様子に映った。やがて、真次の言葉で落ち着きを取り戻したのか――少女はぽつぽつと、話し始めた。
「な、名前……なんだっけ……王様は『ニア』って私のことを呼んでいたけど……ごめんなさい。全部は……」
「……? 王様がいる時代に通信機なんてあったか?」
「えっとね。私、よくわからない場所に飛ばされたの。そこで、いろんな人を束ねてた人がいて――その人が、王様。あれ? よく見たらお兄ちゃん、王様にそっくり……でも、気配が全然違う……」
「俺のことは呼び捨てで真次でいい。お兄ちゃんなんて、気恥かしいぜ」
「……あの、ここは? まさか、ここは地球とは別の惑星で、あなたたちは知的生命体だったりするの?」
少し冷静さを取り戻した少女の疑問に、真次はどう答えたものかと考える。どうにも少女の話はスケールが大きいような気もしたが、にとりと真次は、この世界……幻想郷について説明することにした。
「え、ええっと……!? 大変! 学者さんたちに伝えなきゃ!?」
すべて話すと、ニアはひどく混乱した様子で、こう言った。予想はしていたが、彼女は外の世界から来たと考えていいだろう。普通、異世界を受け入れることは難しいからである。
「多分、ニア自体も妖怪だから、幻想郷から出れないんじゃないかな」
「そうなの!? でも私――元々は機械なんだけど……」
これも、予想の範疇である。通信機を内蔵している以上、何らかの機械であることは想像に難しくない。真次は推測の範囲を狭めるため、ある質問を投げかけた。
「なぁニア、俺と戦ってきた時スペルカード使ってきたよな?」
「うん。即興で作ったんだけど……上手くいかなかった」
「あれってさ、ニアにとっては重要なことだったりするのか?」
ニアは苦笑いをしながら答える。
「うん。あれが私のお仕事で、役目。一つは、途中で投げ出しちゃったけど」
少女の使用した、二枚のスペルカード。あれは、間違いなくニアの正体を知るためのヒントだ。
サターンリングは、真次にもわかる。直訳で『土星の環』だ。
だがもう一つがいまいちよくわからない。アースプレート……地球のプレート? 地層のことを言っているのだろうか? だがそれだと、人の形の弾幕や、図形の弾幕の説明がつかない。
「地球……土星……他に何か見なかったか?」
「木星も見たよ。すっごく接近して、重力を使って土星に向かったの」
にとりは頭に? を浮かべている。だが真次は、この言葉で大分彼女の正体が絞り込めた。
「真次、この子は何を言ってるの? 木星に近づくなんてできる訳が――」
「――いや、向こうの技術ならできる。この前小惑星から星の欠片を回収するプロジェクトが成功したぐらいだからな」
だが、燃え尽きたアレが幻想入りするとは考えづらい。確かに本体は消滅してしまっているが、日本どころか世界中が注目した話である。となるとニアの正体は――
「人々が忘れちまうくらいには古く、それでいて宇宙に関係する機械……か?」
真次は、そう結論を出した。だが、残念ながら真次は宇宙に関することにはそこまで詳しくない。知っているのはアポロ11号のことと、少し前話題になったハヤブサぐらいである。
「あ、あの……」
「ん? どうしたのニア?」
頬を赤らめて、非常にばつが悪そうにニアが声を発する。
無言で二人が続きを促すと、顔が赤いまま俯いて話した。
「おなかがすいたの……電気をもらえますか? ……もうほとんど電池が残ってなくて」
「あん? 電池駆動なのか?」
「……うん」
真次とにとりが、顔を見合わせる。少女は電気を必要とするらしい。
「じゃあ、ここよりさらに下の部屋にある発電室に行こうか。そこでなら充電もできると思うよ」
「……となると、ニアはここに置いていくのが正解か? 永遠亭にも電気は通っているが、こっちの方が不便しないだろうしな」
「そうだね……あ、真次。銃の解体終わったから。紙にもまた書いといたよ」
ニアを案内するついでに、にとりは作業台の一角を指さした。そこには、真次の銃と紙が置かれている。
「おお……って早いな!?」
「こっちはばねの力で飛ばしてるだけだったからね。思った以上に単純だったよ。紙に書く方が時間かかったぐらいさ」
「そうかい。じゃあ、もうだいぶ遅いし、俺はこれで失礼する。ニアのことはこっちでも調べてみるぜ。何かわかったら、文辺りを経由して伝えあおう」
OK! と元気よく返事をして、にとりはニアを連れて地下へと潜る。
真次は爆発系のスペルカードが作れないかと考えながら、ゆっくり永遠亭へと帰っていった。
6月23日 17:21
さあさあ、今回でたっぷりと『ニア』の情報が出ました。
好きな人なら、もう正体わかったんじゃないかなー?




