STAGE 1-2 河城 にとりの研究所
お、思ったより話が進んでない……
6月23日 11:17
にとりを先頭に、真次たちは水上をしばらく飛んでいくと、小屋らしきものが見えた。そちらに向かって進路を取ってるということは、あれが研究所らしい。
「ずいぶん小さいじゃないか。研究所って言うぐらいだから、もっと大規模なの想像してたんだが……」
「あれは入口だけなんだ。本命は地下室だよ」
小屋には、アンテナが一つとりつけられていた。通信機を運用するのであれば、確かにこの器具は必須だろう。地下に通信機本体があるのなら、なおさらだ。
少女が扉に手をかけ、真次を招き入れる。誘われるまま彼は中に入り、何もおかれていない小屋へと入った。いくつかコードが飛び出しているぐらいで、本当に何もない。その部屋の一角をにとりが踏むと、かちりと音がして地下へ続くはしごが床下から現れた。
「おお……こういうのっていいよな。ロマンというか」
「わかってるじゃない盟友!」
にとりは女性だが、どうやら機械的な仕掛けにグッとくる人種らしい。真次もこういう凝った作り物は大好きである。
二人は梯子に掴まることなく、ゆっくりと宙に浮いて降下していく。暗かった道中も、彼らが降りると自動で電気がついていった。
「……これ、まさか一人で作ったのか?」
「初めは、河童の技術仲間に協力もしてもらいながらかな。途中から一人で拡張してる」
「はー……河童ってすげー……」
一人彼が感心している内に、底へとついた。
研究所と聞いていたから、フラスコなどがあるのを勝手に想像していたのだが、乱雑に機械が散乱しているのを見ると、真次は研究所というより秘密基地に近いなと、勝手な感想を思った。
とはいえ、足の踏み場ぐらいはある。辛うじて整理はできているようだ。
「ところでさ真次。それって両方とも銃だよね? 普通にそれで弾幕撃ってたけど、どういう仕組みなの?」
何気なく、にとりが真次に聞いてきた。技術屋として、気になるのかもしれない。
「こいつ自体はおもちゃだ。本物の弾丸のイメージを込めて発射してるだけで、不思議な効果を持った道具とかじゃない」
「えっ! そうなの!? てっきり本物かと思ったよ! そういうことならさ、ちょっと分解してみてもいい?」
本物ではなく、おもちゃを分解してみたいとにとりは言った。真次にはいまいち理解ができないのだが、にとりは「エアガン」を見るのは初めてだったのである。
少々思案の末、真次は彼女に答える。
「分解して仕組み理解して元に戻してってやってたら、結構時間とられるだろうし、それに二丁同時に渡すのはちょっとな。丸腰は恐いぜ」
「そこをなんとか!」
「まぁ落ち着け。そこでだ、とりあえず一丁は今ここで預けて、その間に俺は守矢神社に行く。俺が用事を済ませるまでの間に、好きなだけいじくり回せばいい。で、帰りにまた俺がこっちに寄って戻った銃と引き換えに、もう一丁を渡す。それでどうだ?」
「うん。いいね!」
にとりは満足したのか、にんまり笑顔で銃をせがんだ。早速解体したいらしいが、真次はそれに待ったをかける。
「と、その前に、通信機の方を見せてくれよ。最初の目的はそれだろ?」
「とと、そうだった! いやぁ、すっかり忘れてたよ!」
彼女は一度興味がわくと、とことん追求したくなるタイプの人種らしい。研究者というのは、そういうのが多いと聞いたが、なるほどにとりは合致していた。
少し歩いたところに、その機械はあった。ノイズだらけの雑音の中に、確かに掠れた声のようなものが聞こえてきている。
「これなんだけどさ、操作とかわかる?」
青年は頭を掻いた。残念ながら……
「型が古すぎるな……こりゃ……」
「ああ、幻想入りしてきた機械だからね。どれぐらい古いの?」
「少なくても三十年前だろうな……」
「あれ、大したことないじゃない」
「いや、現代の進歩の速度はヤバいからな。二年ぐらい経つともう、機械類は一段階旧式になっちまうのも珍しくない。そのペースで進歩してるから、三十年だと相当古いってことだ」
にとりはひどく感心した様子だ。外の世界の話は、貴重なのだろう。
「妖怪にとって三十年なんてあっという間なんだけど、人間だと長いってことかな」
「そうとも言えるかもな。ところでにとり、一つ気になったんだがいいか?」
どんとこいと、にとりは胸を張った。
「銃があること自体は知ってたんだよな? 幻想郷って、どれぐらいの時期に現代と隔離されたんだ?」
「明治だったかな? だからマスケット銃とか、当時最新鋭だったリボルバー銃は知ってるよ。左手で使ってたのは初めて見たけど、なんとなくそうなのかなって」
あの坂本 龍馬も、リボルバー銃を携帯していたという話もある。江戸末期に開国した日本は、その時に大量の外国文化が流れ込んだ。その時代の少しあとに、幻想郷は隔離されたらしい。
「じゃあ、リボルバーより先に渡そうか?」
「楽しみは最後にとっておく派だから、後がいいかな」
「オッケーだ。ほれ」
グリップの方をにとりに向けて、リボルバー式のエアガンを差し出す。大喜びで彼女は受け取り、研究室の奥に消えて行きそうになった。が、またもや忘れていたことを、彼女は思い出す。
「そうだ、先に天狗も呼んでおくね。すく来るはずだから、ちょっと待っててね」
「おっと、助かるぜ」
その間に、真次たちはもう一度通信機を見てみることにした。一体何の電波を拾っているのかは不明だが、掠れた音声を聞く限り、女性……いや、少女と言った方が妥当かもしれない。とにかく、幼さを感じさせる声が聞こえてくる。何故だかは知らないが、悲痛な響きだ。
「にとり、マイクとかキーボードとかないのか?」
「両方あるけど……返事が聞きとれなかったよ。多分向こうもほとんどわからなかったんじゃないかな」
少女が残念そうに言う。こっちから連絡出来ないか試したかったのだが、既ににとりが実験済みだったようだ。
と、そこにアラームが響いた。
「ああ、来た来た。おーい椛ー!」
「にとりさん。哨戒任務中に呼びだすのはやめて下さいと何度言えば……」
愚痴をこぼしながら現れたのは、白い髪に、文の着ていた衣装に似た服と、頭の上に耳がついて、尻尾のある少女だった。
6月23日 11:39
地下の秘密基地ってロマンですよね! え? そんな風に感じるの私だけ?




