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STAGE 0-23 妹紅と真次

……おかしい。そろそろ予定ではステージ1に行く予定のはずだったのに……

6月22日 14:26



「妹紅、入るぞ~」


 こちらの世界での外科医のあり方をおおむね理解した真次は、ふと、妹紅の様子が気になり、病室へとやってきた。……もっと言うなら、やることが無くなって暇になったのである。弾幕戦の練習でもいいかと思ったのだが、昨日は輝夜と妹紅が喧嘩したので、ほとんど彼女の話が聞けていない。なので、情報収集も兼ねてである。


「ああ、真次先生か……ん……」


 妹紅が、胸を押さえる。痛がっているようではなさそうだが、医者としては気になった。


「どうした? 調子悪いのか?」

「……真次先生を見ると、胸がどきどきする。身体に異常はなかったのよね?」

「永琳先生の診察によると、もうきちんと不老不死の効果は発揮されているようだ。身体の健康状態を維持する効果もあるって言ってたし、異常があるなら俺の時以外でもなってなきゃおかしい……となると、問題があるとすれば精神の方だな」


 彼女、藤原 妹紅 は不老不死の人間らしい。どういう仕組みかはわからないし、なんでか知らないが永琳がやたら詳しい。なので、主な診察は彼女担当だった。


「確か、俺に似た奴に襲われたんだよな? それだと、この姿形自体がトラウマになってるのかもしれねぇな……あんま居ないほうがいいか?」

「大丈夫よ、別に。確かにキツイ死に方だったけど……」


 ……全身を内側から焼かれて死に続けるという死に方をしたのだ。トラウマにならないほうがおかしい。にもかかわらず、妹紅は平気そうな顔をする。


「普段から輝夜にグロい死に方とかさせられてるから。まぁ、私もやり返してるけど」

「……そうかい」


 それが日常になってしまっているのか、なんでもないことのように妹紅は言った。あんまりな日常生活である。そこで、真次は気がついた。


「ん? 姫さんも不老不死なのか?」

「……知らなかったの? あの医者もそうよ」

「へー……じゃあなんだ? 今ここにいるメンツの中じゃあ、俺が一番年下ってことか?」

「多分ね」


 ……どうして教えてくれなかったのかは、なんとなく察しがつく。精神は健全のままに見えたから、不老不死であることが真次にバレて、距離をとられるのが嫌だったのだろう。真次としては、そんなのは気にも留めないことなのだが。


「いや、全く持って気がつかなかった。見た目じゃわからんからな」

「こっちの妖怪とかは、若い女性の姿をしてるからね。見た目と年齢が一致しないなんて、珍しいことじゃないわ」

「あの射命丸とかいう記者も、俺より歳上か? 喋り方が若い奴のそれだったんだが……」


 すると、妹紅の表情がたちまち曇った。


「ブン屋に会ったの? 取材はちゃんと拒否した?」

「いや、普通に受けたが……そんなに評判悪いのか? あの妖怪」

「非常にたちが悪いわ」


 出会った感じ、そこまで悪い印象は受けなかったのだが、射命丸に苦手意識を持ってる人物は多いらしい。とはいえ、新聞として発行してくれるなら、あの話に関しては効果がある。


「まーでも、あの狼のことを広めたかったから、取材を受けたってのはある。ああ、安心しろ? 妹紅と藍の名前は出してない。これで少しは対策になるだろう」

「微妙ね。あいつの新聞はまじめに読むものじゃない。お茶でも飲みながら適当に流すものよ。はたて……とかいう新聞記者の方が、購読者は少ないかもしれないけど、しっかりした新聞を出してるわ」


 良かれと思って取材を受けたのだが、どうやら失敗だったらしい。


「あわよくば、退治屋が動いてくれるかもとは思ったんだがな……その様子じゃ無理か」

「ありえないとは言わないけど、そんなことはほぼないでしょうね」

「……文が情報を掴んでくれることを期待するしかないな」


 現状、あの狼の情報はあまりにも少ない。居場所も特性も能力も、所属も目的も不明であった。


「退治するつもりなの? やめておいた方がいいわ。真次先生じゃ三秒も持たずに殺される」

「そんなに強いのか?」

「私の攻撃が全然通用しなかった……それに、あれだけの妖怪相手に疲労も全くしてない。第一、弾幕ゴッコのルールを無視して相手を殺すような奴よ? こっちに来たばっかの先生じゃ話にならないわ」


 真次は妹紅の実力をよく知らないから、いまいちしっくりきていないが……彼女、藤原 妹紅 は幻想郷でも力を持っている方である。もし射命丸に彼女がやられたことを伝えていたら、そのことを大々的に報じたであろう。


「そりゃ、いきなり仕掛けたりはしないさ。相手の行動目的とか読んで、弱点がないかどうか探して……とにかく、きっちり調べたりとか、準備してから戦闘だな」

「情報不足だったのは認めるわ。だけど、それでも危険よ。先生は専門じゃないのだから、無理しなくていいのよ?」

「そうは言われてもな……自分にゃ手が出せないから、退治屋にパスってのも気にいらねぇ。あんなのがいるって知った以上、野放しにはしたくねぇな」


「……そういうことなら、私が退院したら何戦かやらない? 私に勝てないようじゃ、話にならないわよ」

「むぅ。勝てる気がしないんだが……」


 真次には圧倒的に、実戦経験が足りていない。だから、この申し出はありがたいのだが、ウドンゲのように手加減してくれるとも思えなかった。事実……


「そんな弱気でどうするのよ。言っとくけど手は抜かないから」


 と、妹紅が宣言。さすがに死んだりはしないとは思うが、それでも悲惨な目に合いそうなのは明らかだ。


「あと二日でどれだけ鍛えられるかだなー……仕方ない。暇そうにしてる姫さんにでも頼むか。


 ウドンゲはあれでなかなか忙しそうにしているので、そう何度も頼むのは気が引ける。永琳も似たようなもので……となると残りはてゐと輝夜のみ。あまり話したことのないてゐを誘うよりは、一緒に遊んだことのある輝夜の方が話しやすい。


「何? アイツと仲いいの?」

「まだ会って二日しか経ってないから、仲いいも何もお互いのことをよく知らないな。今のところ嫌ってもないが好きでもない。まぁ、ゲーム仲間ではあるがな。向こうも同じ認識なんじゃねぇの?」


 露骨に機嫌の悪くなる妹紅の言葉に、真次は何事もなかったように答える。実際、一緒にゲームをしたぐらいであり、現に妹紅と輝夜の関係についても特に話してくれた訳でもない。


「げぇむ?」

「外の世界で大流行りの……遊具でいいのか? 子供から大人まで幅広い層が遊んでる」

「なんで自信なさげなのよ……」

「最近のはゲームだけじゃなくて、インターネット……って言ってもわかんねぇよな。とにかく、遊ぶだけじゃなくて、色々便利な機能が追加されてるもんでな。それで迷った」

「それを輝夜としたのね?」

「妹紅もやるか?」

「冗談」

 笑ったような声こそ出しているが、目が笑っていない。むしろ爛々と殺気を湛えていて、ここに輝夜がいたら飛びかかっていてもおかしくなさそうだ。


「妹紅、せめて冷戦にしといてくれよ?」

「その言葉も知らない。どういう意味?」

「あー長くなるからかいつまんで話すと、武器を向けたまま何もせず睨みあいを続けることだな。元は向こうの歴史上の出来事だ」


 歴史という単語に、少しだけ妹紅が反応した。


「意外だな。歴史に興味があるのか?」

「あ、いや……慧音……知り合いに歴史の教師をしているのがいて……それでよ」

「なるほど。俺が頭突きをした時もその名前呼んでたってことは……あれか、宿題忘れた奴にはおしおきでやってるとか?」

「そうそう、人里でも有名になってるのよね」

「で、妹紅は何やらかしたんだ?」


 妹紅は、「しまった」と小さく口にした。だがもう遅い。この様子だと「慧音」という人物はおしおきなどの際に頭突きをしているらしい。ということは――


「何もしてないんじゃ、頭突きされる理由なんてないよな?」

「うっ……あ、会ってばっかのころは私も結構、その、暴れん坊だったから……」

「ふーん……ちなみに、どっちの頭突きの方が痛かったか?」

「慧音ね……」


 即答であった。顔にはもうこりごりだと書いてある。真次は結構、頭突きに自信があった方なのだが、どうやら慧音という人物はそれ以上に上手く頭突きができるらしい。


「頭突きの弟子になろうかね? その慧音って人物の」

「先生のも十分痛いわよ……これ以上はやめて欲しいわ……」

「そりゃどうも。もちろん、さっきのは冗談な」


 ちなみに、真次が頭突きが得意なのは、幼いころからの兄弟喧嘩での得意技だったからである。いつの間にか特技になってしまっていた。


「それじゃ、俺はこれで。弾幕ゴッコの時はお手柔らかに」

「……頭突きの分も上乗せしておくわ」

「あれはお前らが悪いだろ!? ちょっと子供じゃないですかね妹紅さん!」

「うるさい。倍返しにしてあげるから楽しみにしてなさい」


 不幸だぁあああ! と言いながらも、真次は妹紅の病室を去る。

 静寂に包まれた病室の中で、少女はぼそりと呟いた。


「まだどきどきしてる。なんなのよ。これ……」


 言葉は、そのまま虚空に吸い込まれる。

 けれども、その感じは、不思議と悪い気はしないのであった。



6月22日 14:55


 と、ここでもこたんと真次の弾幕戦の試合の約束がされました。それまでに真次君を強化したいなぁ……これ、予定外なんですよねぇ(またか)

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