STAGE 6-32 一件落着
どこか遠くて、人々の寝息が聞こえた。
寝息、と表現したが……そう呼ぶには少々汚い音かもしれない。酒の入ったいびきは、どうしても濁った音になってしまう。大きな騒音に真次は目を覚ました。
全身がダルい。眠りから醒めただけじゃない、心臓の鼓動に合わせて、鈍い痛みが身体中に広がる。肉体についた傷が痛覚信号を送ってくるのだ。
「あいててて……」
夜は既に深く、時計を見るとAM 01:23 を指している。どうやら一日過ぎてしまったようだ。
最後の記憶は、兄とこぶしを合わせたこと。当たった感触は覚えているが、同時に意識を手放してしまった。
あの後どうなったかわからない。けれど状況を見るに、無事に丸く収まったのだろう。恐らく『本当に』宴会の流れになったのだ。異変解決を祝して。
その一番おいしいタイミングを、気絶して逃してしまうとは。近くから聞こえてくるいびきは、幻想郷を守った安堵から……きっと誰もが飲み過ぎてしまったのだ。妖怪さえ飲み潰れてしまうほどに。
「はは全く……もうちょい早く目覚めろよ、俺」
きっとみんなでどんちゃん騒いでいたはずだ。どうせ目が覚めるなら、いびきの騒音よりそちらで目覚めたかった。
上半身を起こそうとすると、妙な重さ腹部にある。寝ぼけ眼をこすって、闇の中に目を凝らす。色が見えないが、彼女の輪郭は良く知っていた。
永琳だ。八意永琳が彼の上で寝息を立てている。ここで診てくれていたのだろう。真次の身じろぎを感じ取り、彼女もぼんやりと目覚めた。
「ぅうん……」
「あー……起こしちったか」
月明かりを頼りに、永琳の表情を探るも良く見えない。彼女の瞳だけが、反射させたほのかな光で輝いていた。
「ん……いえ……寝てたんですね」
「そりゃあ寝ちまうさ。永琳もちょっとは飲んだんだろうし……それにこんだけ人と妖怪がいるんだ、暴れる馬鹿を抑えるストッパーやってたんだろ?」
「えぇ、まぁ……」
加えて真次の手当てをすれば、疲れ果ててしまうはず。彼はいたわるように頭を撫でると、くすぐったそうに目を細めた。
「お疲れ様」
「真次も。異変解決、お疲れ様」
あぁ、ようやく終わったのだ。永琳の言葉でやっと真次は自覚を持てた。この長い異変、長い騒動は、遂に一件落着で終えれたのだ。
そしてこれからは、この世界、幻想郷で自分は暮らしていく。別れた兄と弟がいるのは想像していなかったが……何にせよ退屈することはあるまい。
「あぁ……マジで疲れた。もうちっとだけ寝かせてくれ。永琳も、な?」
「……そうします」
「俺より眠そうじゃん。色々話したい事あるけど……また明日」
「はい……また明日」
本当はもう『今日』なのだが、無粋な事は言わない。真次と永琳は疲労に身を委ね、異変解決の安堵を噛み締め、もう一度深く眠りについた。
STAGE 6 END
これにて全ステージ終了! 次回EDです!!




