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STAGE 6-26 幻想郷防衛戦・5

7月23日 13:02



 霊夢『夢想天生』と、真也の『行き止まりの兵器達』と『レジェンダリーアーセナル』……以前使った伝説の武器を連打するスペカが相殺される。

 正しくは霊夢のスペカが切れるまで、真也が防戦に回っていた。伝説の武具を使い潰して、楽園の巫女の攻撃を防いだのだ。


「いいぞ……それでこそ倒し甲斐がある!」

「勝てると思ってんの?」


 弾幕を交えながら、近接格闘戦をこなす二人。お祓い棒で殴りつけると、空中に吹き飛ぶ真也。くるりと受け身を取り、空中で霊力を足場にして、拳を構えて逆襲した。

 霊夢は巫女服の裾を巧みに使い、衝撃を殺し腹部を蹴り上げる。格闘戦も巫女のたしなみだ。腰の入った中段蹴りが、男の内臓に突き刺さる。

 ダメージを無視して腕を突き出す怨霊。しかし霊夢は上手かった。わざとリボンを掴ませ、逆に腕を引き込んで投げ飛ばす。


「ぬぅっ!?」


 近接戦で遅れを取った真也は、空高く舞い上がり弾幕戦に移行する。激しく弾幕を撃ちあい、格闘距離から遠ざかった。


「虐殺『高効率無農薬農法』」


 宣言と同時に、大量の芋虫が召喚された。特有の移動方法でゆっくり迫りながら、弾幕をぽつぽつ発射する。糸代わりに口から吐き出す弾幕を回避し、表情一つ変えずに霊夢が芋虫共を打ちぬいた。

 それは過ちだった。被弾した芋虫の下半身が潰れ、ぺちゃんこになった皮膚を引きずりながら、恨めし気な眼差しで霊夢に迫る。速度はさらに下がったが、弾幕量は増えていた。

 

「来ないでよ気持ち悪い!」


 べろべろの皮。体液を垂れ流し、緑色の軌跡を残しながら、その怨みを弾幕にして吐き続ける。やがて弱った芋虫が、白い菌糸に覆われていく。

 病魔に侵食され、悶える芋虫。全身がカビ菌まみれになって絶命し、散り際に胞子を撒き散らしそれも弾幕として襲い掛かった。

 グロテスクな弾幕に、幻想少女の顔が引きつる。霊夢も顔色が優れないが、生理的嫌悪から来るものではなかった。

 霊夢の使う弾幕は、敵に目がけて自動誘導する。しかしこのホーミング弾は、細かく相手を指定できない。西本真也を優先して狙えないのだ。弾幕が芋虫に吸われる上、倒せば撃ち返し弾が飛んでくる。霊夢の立ち回りが巧みなため被弾していないが、この手の弾幕と相性が最悪だった。

 狭まる包囲、増える弾幕。じわりじわりと動ける範囲を狭められ、圧殺を狙う怨霊の芋虫たち。引き裂いたのは、稲妻を帯びたゴム弾だ。


「痺弾『ショックラバーバレット』!」


 非殺傷のスタン弾が芋虫を撃ち抜き、びりびりと痺れて動かなくなる。闖入者に驚くも、霊夢は隙を逃さず弾幕を集中させた。


「神霊『夢想封印』!」

「くうぅっ!?」


 砕け散るスペカ。宙を二回転程した後に……異変の首謀者が、自分そっくりの顔目がけて叫んだ。


「兄弟! またお前か! きょーだぁぁあいぃっ!!」

「やかましい!」


 霊夢の隣に並び立ち、二丁拳銃を構える男がいる。

 正面からにらみ合い、まるで異なる鏡像を打ち砕くべく……双子は全力で互いを潰しにかかった。



7月23日 13:33


***


 蟲を操る少女には、芋虫たちが放つ怨嗟の声が聞こえていた。

 現代世界で殺された彼らは、人間にとっての害虫だ。殺さなければ被害を被る。だから人は芋虫を殺す。蟲側の視点に立つリグルだが、人と蟲との戦いが起こる事は、やむをえないと理解していた。

 しかし――これは一体なんだ? 芋虫の怨霊の記憶と、人の声が聞こえてくる。農家が溜息を吐き芋虫に手を伸ばし……下半分だけを、ぶちゅっと潰した。

 即死ではなかった。けれどその芋虫の死は確定した。身体の半分を潰されたら、ほとんどの生命は死ぬしかなくなる。何故すぐさま殺さない? 芋虫の悲鳴と痛みと絶望をリグルは耳にし、記憶に残った言葉を拾う。


“これで無農薬の、安全な野菜が作れる”


 何を言っているのか理解できない。こんな惨い仕打ちをどうして? 無様にずりずりと動き回るが、隠れることも逃げることも不可能。体液が外に流れ続け、芋虫の体力は落ちていく。

 弱り目に祟り目、身体が弱れば免疫力も低下する。皮だけになった下半身から、カビの菌糸が湧いて出ていた。芋虫にとっての病気だ。

 重症のの痛みと、病に蝕まれる苦しみが芋虫を責める。確かに人間にとって、害虫は悪なのだろう。殺し合うしかない相手なのだろう。けれど、この仕打ちはあんまりだ。

 のたうち叫んで恨みを募らせ、苦しみと嘆きと絶望を吐き散らしながら、全身をカビまみれにして息絶える。芋虫の亡骸についたカビ菌の胞子が、人間が未発見の芋虫にも降りかかり、脅威となった。

 これが、最新の無農薬栽培法。見つけた芋虫を殺さないよう注意しつつ、身体の半分を潰して放置する。弱ってくれば病原菌の苗床になり、死骸は菌糸を撒き散らし、健全な芋虫や成虫も退治できる。

 そうやって作った無農薬の野菜を、安心で安全で良い物だと評価し、人間は笑顔で口に運ぶのだ。


「お……ぇっ!」


 気持ちが悪い。リグルは強烈な嫌悪感に囚われた。一思いに殺してくれ。いっそすぐに楽にしてくれ。怨みで嬲られるならまだ分かるが『効率良く安全な作物を作るため』という、合理的な理由に震えが止まらない。

 憎しみを抱いて当然の死に方。芋虫たちの呪いの言葉にくぎ付けになる。別の怨霊が迫ることに気づかないリグルに弾丸が迫り――


「危ない!」

「っ!」


 ルーミアが覆いかぶさり、辛くも弾幕から逃れる。正気に戻ったリグルは、囲まれていることに今更気がついた。

 気がついたが、気にしてはいなかった。ルーミアが頭に傷を負い、ぬるりと生暖かい液体が服を濡らしている。


「ル、ルーミア!? 頭が……」

「平気。リグルは?」

「大丈夫……でも」


 取り囲む怨霊の数があまりに多い。絶体絶命の危機に思えたのに……宵闇の妖怪はリグルの頭を優しく撫でた。

 何かが違う。リグルは確かに感じていた。幻想郷の実力者にも通じる、落ち着いた大人びた笑み。頭を打ったからだろうか? 被弾で千切れた友達のリボンが、リグルの手のひらの中にある。


「ルーミア……ちゃん?」

「私なら大丈夫……この程度の相手なら」


 みしみしと空気に満ちる力は、ルーミアの物に間違いない。けれど知らない。こんな膨大な力も、言葉の強さも、リグルは初めて目にしていた。


「……みんなには内緒だよ?」


 人差し指を立てて、ぱちりと友達にウインクを送る。

 迫りくる怨霊の群れの前に立ち、ルーミアは封じている力を解き放った。

スペカ解説

虐殺「高効率無農薬農法」

現代における、実際に行われてる最新の農法。その犠牲になった芋虫の怨嗟がこもったスペルカード。

無農薬、オーガニック栽培を消費者が求めた結果、天敵を利用して害虫を減らす方法が、大きな研究テーマとなった。

そして辿り着いた方法がコレ。見つけた芋虫の下半身を潰し、確実に死に至るダメージを与え、けれど即死はさせない。弱った芋虫は病原体の苗床になって、周囲の健康な害虫にも打撃を与えてくれる……そうやって作られた野菜を『安心、安全、無農薬』と言って販売している訳です。

 ……私、家庭菜園やってて、害虫に腹立つことはありますよ。見つけたら普通にブチ殺してますし、相容れない相手だとも思います。

 けれど一思いに殺してやるのが、せめてもの情けじゃないかと。少なくともこのやり方は、個人的にはですが……あんまりいい気はしません。消費者が求めていて高く売れるでしょうし、諸々の事を考えれば、現場はそんな事言ってらんないのでしょうけどね……

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