STAGE 6-25 幻想郷防衛戦・4
7月23日 12:50
置いて行かれた妖怪たちも集まり、異変の首謀者を取り囲む。
周囲では暴走する爆弾が飛び回り、爆発音と破砕音が続いている。包囲を敷く幻想少女たちの圧を受け流し、異変の首謀者はゆっくり霊夢に近寄る。
一触即発の緊張感の中……先に動くはがしゃどくろ、西本真也。
称賛を受ける音楽家の様に、天を仰ぎ手を広げると……空中に小さな気球がいくつも浮かび、ふわふわと漂い出す。
かち、かち、歯車か噛んだような金属音を立てて、風に煽られゆらゆらと揺れる小型気球。興味本位で手を伸ばした妖怪が、第一の犠牲者になった。
接触と同時に、気球が爆発を起こす。墜落する妖怪に背筋が凍り、皆が風船爆弾から距離を放した。
不規則に揺れる爆弾は、狙いをつけた弾幕と異なる。使用者本人の制御下にないために、完全ランダムの動きは読みずらい。しかも鈍間な挙動で中空にとどまり、ともかく逃げるのに邪魔だ。
そして足を止めれば――高威力の銃弾が飛んでくる。防御手段ごと貫く弾丸を、おっかなびっくり回避した。
しかし楽園の巫女は止まらない。
「『夢想天生』」
無謀にも、霊夢は目を閉じたまま前進する。放つ弾幕が首謀者を狙うが、逆に男も銃口を向けた。
銃声。放たれる凶弾。真っすぐ巫女の眉間目がけ直進する弾丸が――透過して素通りした。
「……何?」
確かに命中したかに思えた。事実彼女の後ろにいた妖怪が、流れ弾に倒れている。にもかかわらず霊夢は無傷のまま。
不審がる西本真也を無視し、浮遊する爆弾の中を霊夢が飛び回る。瞳を閉じたまま正確に弾幕を張り、気球に触れても幽霊の様に素通りしていく――!
「ははははは! 出鱈目だな!!」
幻想郷最強候補は伊達ではない。無敵のまま弾幕を連射し、誘爆と直撃弾が悪霊に直撃した。煙で覆われても霊夢は手を緩めず、やりすぎと妖夢が止めようとした。瞬間、煙越しに弾丸が発射され、妖夢の鼻先を掠め傷を作る。半人半霊は慌てて構え直した。
出鱈目とはどの口が言うのか。霊夢の猛攻を受けて、平気な男に言われたくない。攻撃が当たらないと判断した真也は、霊夢を無視し周囲の者に攻勢を強める。
「距離を取りましょう! 霊夢が何とかしてくれます!」
弾丸を切り払いながら妖夢が後退し、剣士の動きに倣い、妖怪たちが間を作る。遠巻きに見ても地獄絵図の中、一対一の戦いは終わりが見えない。
「誰か! こっちに来れる!?」
「今行くから待ってて!」
「一体何体いるんだ!」
数で押してくる怨霊の群れが入り乱れ、敵と味方の位置がぐちゃぐちゃの乱戦となる。
果たして幻想郷は、彼らを退けることが出来るのか……
7月23日 13:01
***
黒い牧師服を風に靡かせ「叡智の牧師」は弾幕を張る。
別の時代、別の文明の怨霊と肩を並べ、忘れ去られた世界の中で戦い続ける。
「聖女」は少し前に落ちた。本人曰く「半分心が折れているから、使い捨ててくれ」と王に懇願し、西本真也は渋々それを受け止めた形だ。
「刀鍛冶」も復帰が間に合わず、牧師の彼と別ルートの怨霊を指揮している。最も彼女は素人なので、周囲の仲間たちに刀を配る役割だった。
けれど職人の意地で、妖刀を一本献上していた。先程西本真也が行使していたが、急ごしらえであの性能とは恐れ入る。
「おらたちも進むべ」
「立ち止まらないで下さいな。牧師様?」
「不和」と「生贄」と呼ばれる怨霊に背中を押され「牧師」はスペルカードを使用する。
「断罪『簒奪の容疑者』」
否定された三つ法則は、約30年の間歴史に埋もれた。
再発見に至るまでの間……検証を行わず、成果を盗もうとした者たちを想起する。ただ文章を繰り返すだけで、理解していない故に質問に答えらず、口ごもり自滅し自爆する者たち。
メンデルにとって、許しがたい者たちだった。同じ過程を踏み、自分の頭で考え、検証した上で評価されるなら最善。評価されないにしても、理解不能と距離を取るならまだ良し。何も解さず、成果だけを奪い取ろうとする『学者のような何か』を想起して……
「滅び去れ」
知識人を騙る者に、自分を賢いと思い込む者への悪意を形にして、メンデルが弾幕を多量に放つ。確実に怨霊集団が迫る中、中心に突撃した主導者は……果たして霊夢に勝てるだろうか?
『行き止まりの兵器達』の続きで真也が使用したのは、日本軍が使用した風船爆弾です。アメリカまで届いていたのだから恐ろしい……
スペカ解説
断罪「簒奪の容疑者」
『メンデルの法則』が再発見がされるまでの間、埋もれていた研究レポートを盗み、その成果だけを手にしようとした者がいたという。
なお、ちゃんと理解せず資料コピペのせいで、質疑応答に答えられず自爆したとか……




