STAGE 6-24 幻想郷防衛戦・3
7月23日 12:29
「お久しぶりです。村正殿」
「…………」
階段脇、真田幸村は旧知の怨霊と顔を合わせていた。
彼女だけではない。幸村は元々、楽園入りを拒まれた怨霊を監視していた。博麗神社に攻め込む敵は、全て顔見知りと言えよう。
その中でも『稀代の鍛冶師』と『紅蓮の戦神』の関係は深い。史実でも幸村は村正所有説を持ち、今回の異変でも……彼女の刀は因縁を持つ。
「……正直に言う。こうなる気はしていたよ」
「……残念です」
鍛冶師村正が『村正』を構える。弾幕戦ならともかく、近接戦闘なら幸村の方が圧倒的に上だ。勝ち目のない相手へ、それでも『稀代の鍛冶師』は……いや怨霊たちは止まらない。
彼らを突き動かすのは、勝てる勝てないではない。復讐をせずにはいられない。それ以外の選択肢を失った、憐れな亡者の群れなのだ。
ならばせめて、今は全力で戦うのみ。それで晴れるかはわからないが、手を抜いても、情けをかけても、絶対に怨霊たちは止まらない――
「後は任せましたよ。私の刀を――」
ここにいない誰かに呟き、『稀代の鍛冶師』が正眼に構える。
彼女の無念から来る太刀筋を、幸村は一つ残らず受け止め続けた。
***
「妖刀『タタリゴロシ』」
夜闇より濃い暗黒を宿した刀身が、宣言と同時に翻った。
まだ遥か遠くで抜刀された剣に、幻想郷側は少々拍子抜けしている。
しかし魔理沙が鋭く指示した。
「まずい! みんな避けろぉーっ!!」
実力者たちが反射的に散開した直後――剣が巨大なレーザーの如く延長し、同時に大量の弾幕を四方に散らしながら、伸びきった暗光の刃がぶぉん! と中空を切った。
何人か切り払われ、堕ちていく妖怪たち。動揺する最中に二撃目が襲う。
「な、な、な!」
「フランの『レーヴァテイン』みたいなもんだ! 懐に飛び込め! あと刀の方向に気をつけろ!」
加速して距離を詰める魔理沙。続いて射命丸と聖が後を追い、接敵した白黒魔法使いが八卦炉を構えた瞬間。
悪寒。凶悪なまでの悪寒。このままだと絶対に殺されるという確信を抱く。霊夢ほどではないが……場数と経験、そしてスペカ研究を重ねた魔理沙も、論理的思考な直感を持っている。負荷を無視して直角に上昇した刹那、魔理沙がいた位置に暗刃が閃いた。
箒の尻尾を切られ、パラパラと散る。安堵する余裕はなく、そのまま魔理沙目がけて刃が追いかけて来る。執拗な追撃に、右へ左へ体をひねって避け続けた。
「風神『風神木の葉隠れ』!」
気を取られた男へ、射命丸がすかさず弾幕を連打。何発が命中したが怯みもしない。じわじわと魔理沙を狙う暗剣が迫り、追いつかれる直前にカバーが入った。
「超人『聖白蓮』」
魔理沙と剣の間に入った聖が、握りしめた拳を妖刀にぶつける。金属同士が擦れるような音を生じさせ、剣と拳が鍔迫り合い。きりり、きりりと軋む両者の均衡が、尼僧の気迫で崩れる。
肺深くから吐き出す呼気に合わせ、拳で剣の軸を捉え正拳一発。妖刀を粉々に砕き、ふーっ……と息を整える聖。白黒魔法使いが、感嘆の声を上げた。
「つっよ!?」
「怪我はないですか? 魔理沙さん」
敵から視線を外さず、臨戦態勢のまま彼女に問う。一枚スペルカードを破られた男は、口を吊り上げて次を使う。
「珍品『行き止まりの兵器達』」
壊れた刀をしまい、宙に浮くのは――真次も扱っていた武器、銃だ。
彼のリボルバー銃にそっくりだが、サイズと長さが桁違い。皆が反応する前に、重く大きな火薬音が鼓膜を震わせた。
「っぅ!?」
肉体を強化した聖の肌を、薄くとはいえ貫いている。連射されては致命的と、聖は距離を置いた。
幸い、連続で撃てないのか……二発目まで間が大きい。凶悪な弾丸を被弾せぬよう、間合いを広げた途端……
「パンコロォ!」
奇天烈な叫び声を上げると同時に。両方に車輪をつけた、自走式の爆弾が大量に出現。巨大な車輪付きの爆弾が動き出すと……誰も予測不能な挙動で、めちゃくちゃに走り出した。
「うわわわわっ!?」
「なんじゃこりゃあ!?」
迎撃しようにも、予想不可では迎撃出来ない。しかも時折、怨霊側に突撃して同士討ちまでしている。
「味方もお構いなしですか!?」
「ひええぇぇ!」
敵も味方も大混乱。その隙間を潜るように西本真也が前線を抜ける。
男が視界に博麗神社を捕え、獲物を見つけた獣が、口を大きく開けて猛進する。咆哮と共に突撃する男の脇腹へ、巫女の放つ針状の弾幕が突き刺さった。
直進をやめ、荒々しく息を吐いて怨讐の獣が睨む。
「行かせると思った?」
「くくく……そう来なくてはな」
楽園の素敵な巫女。博麗霊夢の冷徹な眼差しに、男が一つぶるりと震える。全身を沸騰させ、歓喜する化け物がそこにいた。
「勝負だ幻想郷。そして今度こそ……」
「はいはい、退治してあげるわ!」
紛れもない強敵を前に、博麗霊夢は怯まない。
この日のために備えて来た彼女は、その実力を存分に発揮した。
7月23日 12:49
スペカ解説
妖刀「タタリゴロシ」
村正が、西本真也専用に急ごしらえした妖刀。本人は本調子でないため、代わりに刀を献上した。それでも十分脅威
珍品「行き止まりの兵器達」
製造が中止されたり、後継機を作られなかった兵器を運用するスペルカード。
巨大リボルバーは「プファイファー・ツェリスカ」と呼ばれる銃。象をも仕留めるライフル弾ぶっぱなすハンドガンである……酷い字面だ。ちょっと何言ってるかわからない。
もう一つ出てきた車輪付き爆弾は……ザ・英国面こと「パンジャンドラム」原作に忠実な性能のせいで、本人の制御すら受け付けないポンコツ。……でもランダム弾幕って避けづらいよね(白目)
……本当はハボクック出したかったなぁ。




