STAGE 6-21 この世界を、愛する皆で
7月23日 11:11
博麗神社、宴会当日――
永遠亭を出た人々が、暑い日差しに焼かれつつ境内に歩みを進める。
輝夜は永遠亭に留守番。代わりに妹紅が合流し、この場に参列している。
竹林に囲まれた屋敷を出る直前、妹紅はわざわざ輝夜の所に顔を出しに来た。彼女が参戦しない事を見越してたのだろう、一言だけ輝夜に告げる。
「アンタの分も殴ってくるから」
「やられないでよ? あんたがまた長い事入院したら、こわーい真次に頭突きされちゃうから」
「ばっ! 馬鹿! 本人の前で言わないでよ……」
妙にしどろもどろになる妹紅へ、ぎろと鋭く白衣が睨む。
「騒がなきゃ平気だ。騒がなきゃ、な」
「勘弁して……」
「あと輝夜? 俺そんな恐い事してないはずだがなぁ」
「そういうとこで凄むところよ?」
「医者はナメられたら終わりなんでね。これは必要悪だ」
軽口を一通り飛ばし一区切りつくと、かぐやが軽く頭を下げる。
「力になれなくて悪いわね。ちゃんと帰って来なさいよ? 私は留守番してるから」
「あいよ」
そうして輝夜を置いて出た一行は、竹林を飛んで神社を目指す。
まだ二時間前にも関わらず、博麗神社には人妖が集まってきていた。
賑わいを見せる境内。事情を知らなければ、本当に宴会前に見えるだろう。
最も……面子が凄すぎて、人によっては卒倒するかもだが。
「にとり! 早いな!」
「あっ! 真次! 久しぶり!!」
初めて真次が遠出した時、この世界で最初に出会った少女が手を振る。設置された機械をいじっていた。
「そういやニアは?」
「上から見てるはずだよ。話す?」
調整してた機械は見覚えがある。にとりの地下室で動いていた、古い通信機だ。
ボタンを押してから、マイクに声をかける。
「あーもしもし~? 聞こえるかー?」
『え!? お兄ちゃん!?』
「それは気恥ずかしいからやめてくれって……言わなかったか?」
『そうだっけ……久しぶり』
「あぁ、ホント久々だな。どのあたりにいるんだ?」
一旦マイクから離れて空を見上げ、視力外の彼女を探す。
『もうちょっと右』
「右? あー右ね……ダメだ全然わからん」
流れる音声の指示に従っても、昼間の空ではとても見えない。大げさに両手を広げてから、通信を再開した。
『あはは……私から皆はよく見えるよ。上から援護するね』
「そりゃ頼もしい。あー……にとりに通信戻すぞ。さっきから目線が……なんかその、怖い」
『もう……過保護なんだから』
軽い調子で話すニアに、出会った頃の弱弱しさはない。心配なさそうとマイクを譲り、にとりに手を振って他の場所に移動する。
周囲に目を配ると、にとりだけでなく……妖怪の山の妖怪たちが詰めていた。その集団の中に一人、意外な顔を見つける。
「お空……? 来てくれたのか! 地底は復興で大変だろ?」
「幻想郷だって大変だもん! さとり様が『地底代表で行って来なさい』って!」
「ありがてぇ……!」
無邪気な笑顔が眩しい。真次は心からの感謝を込めた。しかし続く言葉が、彼の感動をブチ壊す。
「そうしないと、勇儀さんが来ちゃいそうだったからね!」
「あぁ? したら俺はキれてたぞ」
「さとり様も同じこと言ってた! 息ぴったりだね!!」
「当たり前だろ……」
片腕を潰されている勇儀は、それでも戦力に数えることは出来るが……完治に一年以上かかる診断だ。医者として到底許可できない。
「ともかく、当てにしてるぜ?」
「うにゅ!」
次に出会ったのは、黒い帽子に桃を乗せ、長い蒼い髪を持つ少女だ。隣に付き人もいて、巫女の霊夢と喋っている。
「初めましてか? お嬢さん」
「ふぅん? 私を知っているのね! 関心関心!」
「いや、育ちがよさそうだなぁとだけ」
「てっきりワタクシと同じ能力かと……見事な空気の読み方です」
「はは、どうも……二人とも分かった上で参加を?」
今回の『宴会』は表向きの話だ。知らない誰かが参加する危険もある。念のため尋ねると、蒼い髪の女性が胸を張った。
「あいつらに言ってやりたいことがあるのよ」
「私の神社を倒した時に、紫に言われたセリフでしょ?」
「言わないでよ……」
霊夢の一睨みで縮こまる少女。青髪の彼女は何かやらかしたようで、博麗の巫女に頭が上がらないらしい。
そうして話を続ける内に、次々と妖怪たちが集まってくる。命連寺から聖の一行が、神子を含む三人の仙人が、魔理沙が、アリスが、妖夢が、チルノ、ルーミア、リグル、ミスティアの四人が集った。無数の人が、妖怪が、幻想郷を守るために集まって……この世界を壊そうとする怨霊に、正面から立ち向かう。
多くの者たちが集まったところで、広間の上空でスキマが出現した。
数日前に見せた弱気はなく、いつもの胡散臭い笑みを浮かべて、式の藍と共に彼女は降り立つ。
「幻想淑女の皆さま……本日はよくぞ集まって下さいました」
金の髪が風にそよぎ、八雲紫が優雅に一礼を決める。不満げに真次が口を尖らせると、笑みの中に皮肉が混ざった。
「あら、何人か紳士の方もいるようですね」
「紳士服の方がよかったか?」
彼が白衣を見せびらかすと、何人かが忍び笑い。大げさに落ち込むフリをしてから、医者の男が続きを促す。
「今日という日に集まって下さり、心から感謝いたします。幻想郷を愛する皆さま……」
もう一度、深く腰を折る紫。改めての謝辞に頷く人々。神妙な空気の中で、一部の人間はマイペースだった。
「にしてもすごい数ね。博麗神社がパンパンよ。いつもこれぐらい参拝客がいればいいのに」
「営業努力が足らないんじゃない? それに騒ぎになるだろ。こんなに……こんなに紳士淑女が集まったらさ」
霊夢の調子に魔理沙が合わせ、普通の魔法使いがくるりと見渡す。
いつもはこの世界で、どんちゃん騒いで好き勝手。別々の勢力に属する実力者たちが、今この場所に揃っているのだ。改めて考えると、なかなか壮観である。
「泣いても笑っても、今回の異変はこれで終わり……どうか力添えを、よろしくお願い致しますわ」
皆が、各々に返事を寄越す。
「了解」「はいはい」「任せとけ!」「そーなのかー」「フフン! 天人の私にまっかせなさーい!」「我ら道士の力」「存分に見せつけてやろう」「アタイ頑張る!」「宝塔の用意は?」「大丈夫、落としてません」「彼らの未練、今度こそ断ち切って見せます」「うにゅ!」「奇跡は起きます! 起こして見せます!!」「……決着をつけよう」「あやややや!」
戦意は十分、準備も万全。
最高に高まった彼らと……破壊の願望を胸に抱いた、怨霊たちが激突するまであと……
7月23日 11:59




