STAGE 0-18 最悪の目覚め
さーて、前回が長かったから、今回は短く感じるかも?
6月21日 10:03
……声が聞こえた。
呆れた様な、驚いたような、そんな声色。
だが……妹紅には間違いなく、その声に聞き覚えがあった。
心臓が鼓動を早める。理由は知らないが、アイツがここにいるなんて――! あるいは、目が覚めるまでずっとここにいたのだろうか? だがそんなことはどうでもいい。
(早く! 早く起きて逃げないと……!)
身体はだるく、瞼は重い。全身を内部から焼かれたという死に方は初めてだったし、被害が身体全体だったせいか、はたまたアイツの能力なのかは不明だが、いつも通りに全快になっている訳ではなさそうだった。
(……動いて……! 動け!!)
泥沼から抜け出すように、ようやく妹紅の意識は覚醒しきった。
世界が開け、見覚えのある天井が視界に入る……永遠亭の天井だ。
「……は?」
妹紅は拍子抜けした。てっきりアイツがまだそばにいて、もう一度拷問じみた殺され方でもするのかと思ったからだ。だが、それはつかの間の安堵であったことを思い知らされる。
「あっ! 真次先生、妹紅さんが起きましたよ!」
「そうみたいだなウドンゲ」
「っ~!?」
聞き間違えるはずがない。アイツの声だ。
「オイオイ、どうした? まだ目ぇ覚ましたばっかだろう。無理すんな」
「……!?」
その男の姿は、白衣を着ていることを除いて、背丈、顔つき、声色、何もかもがこの前妹紅を焼いた奴と合致していた。だが、性格や喋り方がかなり異なる。しかし、とんでもない苦痛を味わされた妹紅としては、だからと言って油断も隙も見せたくなかった。
「お、お前……! お前……!!」
「……さっきからどうしたんだよ? ああ、目が覚めたばっかで意識が混濁してんのか? ウドンゲ! 永琳先生呼んできてくれ!」
男がそういうと、素直にウドンゲは出て行った。いよいよ男と二人きりになる。……これで何かするつもりなのだろう。
「お前……どうして……」
「俺と……えっと、妹紅だっけか? は、初対面のはずなんだが……」
……あくまでも、白を切るつもりらしい。あれだけのことをしておいて、よくもまぁ、ぬけぬけとこうして出てこれたものだ。
「ふざけるな! それだけそっくりで、誤魔化すなんて無理が……」
「まぁ落ちつけよ。とりあえず永琳先生が来るから、言いたいことはその後で。な?」
男はどうも、何もするつもりはないらしい。それどころか妹紅をなだめる始末だ。どういうことなのだろう?
やがてここの主治医である永琳が現れ、男といくつか言葉を交わす。そして診察しながら、妹紅にも話しかけてきた。
「調子はどうかしら?」
「最悪な気分よ。目覚めにそいつがいたせいでね」
「なぁ、俺が何かしたのか?」
「まだ白を切るか。お前が私を燃やしたくせに!」
永琳と男は、顔を見合わせる。
「……間違いないの?」
「ここまでそっくりで見間違える訳ないでしょ!? あんな強力な弾幕やスペカまで使ってきて!」
「いやちょっと待て。俺は数日前に幻想入りしたばっかで、空はなんとか飛べるが、スペルカードどころか、弾幕なんて撃てやしないぞ?」
「はぁ!?」
完全に食い違う言い分に、妹紅はいらいらしてきた。しかし……何故だか、男が嘘をついているようにも見えない。
「どういうことなのよ……?」
「……話を整理するわ。あなたを襲ったのは、彼……真次で間違いないの? どれぐらいの時間に襲われた?」
「間違いない。時間帯は深夜だった」
「なら無理よ。彼が弾幕ゴッコを知ったのは、姫様の話によれば昨日のお昼。それより前に襲われている以上、彼は犯人じゃないわ。それに――」
「深夜は妖怪の時間なんだろ? なら、弾幕ゴッコの出来ない俺なんか、逆に妖怪に襲われてジ・エンドだ。他に特徴はなかったか?」
どうやら、アイツに瓜二つなだけで、別人だったようだ。こうして話してみると、纏っている雰囲気がまるで違いすぎる。アイツは宵闇そのものが意思を持っているような、昏響きだったのに対し、この男は逆に明るく温かい感じかした。
「初めは、鎖を纏った狼だった」
「……! おい、そいつは――! 炎で攻撃してこなかったか!?」
「……そんな気もする」
「ゆかりんの言った通りか……永琳、悪い知らせだ。俺を襲ったヤツ、幻想郷に侵入しているらしい。妖怪が治らないって特性を聞いた時から、嫌な予感はしていたが……」
男は渋面を作った。どうやら、妹紅を襲った犯人を知っているらしい。
「どういうことよ?」
「現代からこっちに移動するとき、俺たちもそれに襲われた。おかげで藍は重症だ。俺は能力のおかげかどうか知らんが、ほぼ無傷で済んだが……」
……完全に人違いだったようだ。
にしても、あまりにも似過ぎている。まるで――双子か何かのようだ。
「アンタ、自分にそっくりな奴に心当たりはないか? 本当に……声から見た目、背丈までそっくりだ」
すると男は、意外な答えを出した。
「ある。が、あり得ん。そいつは七年前に現代で自殺してる」
「……そうか。悪いこと聞いたな」
「気にするな。そんなに仲良かった訳じゃねぇし」
ニカッと笑って、陰りなく男は言う。
そして、男は最後にこう付け加えた。
「それと、お前でもそいつでもアンタでもなく、俺のことは親しみを込めて、あんし……じゃなくて、真次先生と呼びなさい」
「あ、ああ……そう言えば私も名乗ってなかったわ。私は藤原妹紅。よろしく、真次先生」
ようやく誤解も解け、妹紅は態度を軟化させる。
なのに、なぜだろう。
まだ心臓の鼓動は、早いままだ。
「真次先生……何言おうとしたんですか?」
「いや、外の世界のネタを言おうとしてな? まずついてこれないだろうと思ってやめた」
カラカラと笑う真次。とそこに、新たな人物がその場に現れる。その人物とは――
「あら、目が覚めたの妹紅?」
「輝夜……!」
彼女にとって、憎い相手、蓬莱山 輝夜がそこにいた。
6月21日 10:19
という訳で、無事にもこたん復活。そして輝夜とさっそくぶつける作者。次回はカオス回になるかもしれません。いや、予定では超絶カオス回用意してあるんですけどね~




