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STAGE 6-14 それぞれの思い 3

 その日、八坂神社は物々しい雰囲気に包まれた。

 一人の武者が八雲の使いとして、八坂 神奈子の下へ来訪したからだ。

 真紅の鎧は物珍しく、哨戒中の天狗が名を訊ね、彼が真面目に答えたものだからさぁ大変。露骨な警戒を顕わにするものと、逆に好意を示すものが集まり、ちょっとした騒ぎになった。


「申し訳ない、神奈子殿、諏訪子殿。こうも大事になるとは思わなんだ」

「あーうー……それはおあいこだよ。早苗に色々良くしてもらったし……」

「す、すみません……でも諏訪子様? 幸村様ですよ? BASARAですよ? ゲームほど若くないですけど……超ダンディーで紳士なイケオジですよ?」

「いい加減にしないか! もう下がっていなさい」

「はぁい……」


 東風谷 早苗 は幸村を見るや否や、握手に始まり、サインを求め、最後は携帯電話でツーショット。嫌な顔一つ引き受けた幸村に、神奈子としては逆に頭を下げたいぐらいだ。

 とぼとぼと広間を去る巫女服の女性に、どこか遠い目つきで幸村が問う。


「現代のおなごは、皆ああなのですか……?」

「うーん……あれでも控えめな方じゃないかな? 肉食系の子だったら、もっとがっついてくるかも」

「時代は変わりましたな……」


 ゲームや小説で、現代でも多大な人気を誇る武将、真田幸村。

 現代女子が彼と直接会えたのなら、冷静さを失うのも仕方ない。周囲の天狗たちが警戒と興味を抱くのも、彼の武勇による所が大きい。一目見ようとする野次馬や、スクープを狙うパパラッチの影もちらほら見える。


「長引くとややこしい事になりそうだ。要件に入って欲しい」

「それでは……ごほん。今日の新聞で、異変の首謀者に挑発を行いました。まず確実に三日後の正午に攻め入ってくるでしょう。その際に参陣をお願いしたい」

「うむ。同意した」

「そしてもう一つ……参陣の際、拙者を神奈子殿の配下に加えて頂きたいのです」


 二柱が互いに顔を見合わせる。幸村が自ら、神奈子の下で参戦したいと告げたのだ。


「そちらが本題か……理由を聞いても?」

「はい。拙者の本領は『武将』としての能力。前線で兵を率いてこそ真価を発揮できます。しかし……妖怪は我の強い者が多く、統制された動きが難しい。幻想郷内で唯一、組織として動けるのは……」

「妖怪の山……と言うことか。理には適っているが」

「何か問題が?」


 腕を組み、黙考する神奈子に代わり諏訪子が答えた。


「天狗たちは余所者が好きじゃないんだ。排他的と言うか……いきなり下につけと言われて、素直に従うかなぁ……」

「……難しいですか」

「貴方の武名があっても、ちょっとね……」


 他の名のない人物と比較すれば、多少は付き従う者も出てくるとは思う。

 けれどやはり、『ポッと出の人間の命令は聞けない』と大半の天狗たちは言うはず。以前流れ着いたニアも、河童たちが好意的に受け入れていたが、天狗側はつい最近まで、余所者に向ける目つきだった。

 閉じた目を開き、神奈子が顔を上げる。先程とは打って変わって剣呑な目つきだ。


「真田幸村……今から一戦交える覚悟はあるか?」

「どしたの急に?」


 会話の空気を崩さない諏訪子と異なり、武者は神妙に背を伸ばす。凛と精練された所作を返事にして、彼は静かに次の言葉を待った。


「丁度野次馬の天狗たちが周囲にいる。どうだろう? 彼ら彼女らを巻き込み、模擬線を執り行うのは如何いかがか?」

「なるほど。拙者に力を示せと」

「私も貴方に示さねばなるまい? 貴方が私に、槍を預けるに値するかどうかを。この一戦で……互いを試し、見定めようではないか」

「心使い、痛み入ります」


 一礼を終え、武者がもう一度目線を合わせた時、完全に別人と化していた。

 ぴり、と皮膚の表面が炙られるような、既に戦時の気を宿している。ほんの数瞬で戦の気迫に切り替え、抜き身の刃物の如く、足運びが鋭さを帯びていた。


(もうこの時点で、合格だと思うけど……)


 諏訪子がちらりと神奈子を見るが、軍神たる彼女もすっかりる気だ。冷静さを失ったのは、早苗だけではないらしい。

 

「二人とも……あんまり怪我人出さないでよ?」

「「善処する」」

(あ、これダメな奴だ)


 激しい模擬線になると踏んだ諏訪子は、早苗と協力し戦闘後に備える。

 事実、負傷者を多数出してしまったが、存分に互いの武勇を発揮し、幸村の能力を肌で理解した妖怪たちは、彼の存在を受け入れた。

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