STAGE 6-13 それぞれの思い 2
長らくお待たせしました。もう覚えている人も、いないかもしれませんが
湖畔に佇む赤い館、紅魔館の主が窓越しに外を見つめる。
吸血鬼は夜行性、昼間起きているのは珍しい。赤い瞳の方角は、博麗神社の位置と同じだった。
「お嬢様……本当によろしいのですか?」
主の憂いを察して、咲夜が窓の隣に寄り添う。ちらと視線を外したが、再びレミリアが窓を見つめた。
「……フランを危険に晒したくない」
「妹様を……」
「あの子、怨霊たちと戦えないのよ。一番上の兄に同情してる。けれどあいつらは……きっと私達に容赦はしない」
「……お嬢様と私だけでも参戦できませんか?」
「無理ね。私が出ると言ったら、パチェや小悪魔も参加するはず。そしたらフランを止められない」
唯一門番として残るであろう美鈴では、フラン相手に押し切られてしまうだろう。実力面もそうだが……彼女はきっと、フランに泣きつかれたら許してしまう。その光景は咲夜にも想像がついた。
「しかし大丈夫でしょうか。幻想郷は」
不安な顔を見せる従者に、レミリアは運命を……否、宿命を告げる。
「断言できるわ。絶対に大丈夫」
「……その心は?」
根拠が全くないはずなのに、運命を操る吸血鬼は断言した。
眉を寄せる従者に、秘密を打ち明けるように耳打ちする。
「彼らの……『西本』の家の人間は偏るのよ」
「偏る?」
「『何かに特化する』と言い換えれるかも知れないわ。尖った人間、極端な人間が生まれてくる血統……良し悪しの関係なく、異常に特出した人間が生まれてくる血筋……」
西本参真は、絵を描くことに
西本真次は、医者であることに
彼らの父親は不明だが、きっとどこか……壊れているに違いない。
当然、西本真也も。
「いるのですか? そんな人間……そんな一族が」
「……この目で見るまで信じられなかったわよ。でもあの一族の人間は……運命ははっきり見えるのに、絶対に曲げられなかった」
「どうして……」
「私の生きた年月より長く、異常な特性を引き継いできたからだと思う。少なくとも……五百年以上前から」
「…………異常者の一族なんて、すぐ駆逐されそうですが」
メイド長の懸念を肯定して、否定する。
「人が気にするのは有用かどうかよ。極端な異常は、時折極端な有益になる。時代や環境もあるのでしょうけど、『西本』の一族はきっと……極端な有害か有益かの、どちらかの人間しか、生まれてこれない」
彼らの一族に限らず、稀に現れるのだ。常識を塗り替える異常な存在が。一つ分野を極め尽くし、定説や記録を粉々に粉砕し、その分野に多大な恩恵をもたらす一個人が。
しかし極点に到達した人間は、結果として常識が破損、欠落している場合も少なくない。偉人と呼ばれる人々は、一歩間違えれば異形となりうる。
『西本』の一族は……生まれた時から『欄外』にいる。恩恵か厄災かは時の運。波乱の生を宿命つけられている極端な血統……
「……お嬢様。最初の質問に答えて下さい」
話しが逸れている事に気づき、咲夜がもう一度尋ねる。『極度の方向性』を持つのなら、放置するのはむしろ危険ではないだろうか? 危惧するメイドに、まるで悪戯をする子供の様に囁く。
「ん……内緒よ?」
妖精メイドに聞かれぬよう、背伸びして咲夜に耳打ちする。
「西本真也の方向性は……『悪役』なのよ。平和を脅かして、当たり前にある世界を壊そうとする方向性。けれど決して、彼の願望は叶うことはない」
「えぇと……つまりどういう?」
いまいち理解の及ばない咲夜に、やはり謎めいた言葉を残した。
「悪者は最後、退治されてめでたしめでたし。それが昔からの決まり事でしょ? 西本真也は悪役……だから必ず、最後は負けるのよ」
レミリアが語る『西本家の異常性』は、前作の裏設定です。もう九年前になるんですね……遅筆でスイマセン(汗
当時『解かせない』ぐらいの気持ちでブチこんだのですが、かなり解答に近い場所まで踏み込んでくる方がいて焦りましたよ……




