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STAGE 0-17 お見舞い

気がついたら、大量に書いている不思議!


6月20日 17:55



 八雲 藍からの連絡があったのは、彼を連れてくるよう指示してから、半日以上が経過していた時のことであった。

 彼女――八雲 紫はスキマ内部でホッと一息つく。

 最悪、アレに襲われて死亡しているのも想定していたので、こうして連絡がとれただけマシである。だが、悪い予想は当たっていた。アレが抜け出すタイミングではち合わせてしまったらしい。

 今回の連絡手段と言うのは、式とのつながりを利用したものなので、無事かどうかの確認ぐらいにしか使えない。何があったのかは、直接聞き出す必要がある。念のためスキマで彼女の容態を確認したところ、思ったよりは大したことがなかった。


(橙も連れて行ってあげようかしらね)


 橙とは、藍が溺愛している式だ。いつもはまじめで頼りがいのある藍だが、橙のことになると途端だらしなくなる。といっても、きちんと教育は施せているので、特に文句はない。

 スキマを開き、一瞬で橙が一人でいるマヨヒガへ移動。

 それを察知した橙が、紫を出迎えた。


「紫さま~どうしたんですか?」

「ちょっと藍が怪我しちゃったみたいなのよ。だからこれからお見舞いに行こうと思って」

「えっ! 大丈夫なんですか!?」


 橙は橙で、藍に懐いているので、かなり心配しているようすである。


「私の予想よりだいぶ良かったわ。普通に喋れると思うわよ」

「そっかぁ……よかった……」


 橙は胸をなでおろしている。それだけ彼女のことを案じていたのだろう。


「さ、行くわよ」


 もう一度スキマを開き、今度は永遠亭へとつなげる。

 移動した先には、藍と真次がいた。正直、彼の生存は絶望的と思っていたのだが、どうやら無事だったらしい。そのことは表情に出さず、まだこちらに気がついていない二人に話しかけた。


「二人とも、無事で何よりだわ」


 藍と真次が、こちらを見る。


「紫様……連絡が遅れて申し訳ありません」

「おお、ゆかりん! 久しぶり……でもないか」


 藍の真面目な態度に対し、真次の気楽さは浮いている。紫に対してここまでフランクな態度をする人物は珍しく、彼女は思わず噴き出しそうになった。


「で? そっちのネコミミの嬢ちゃんは?」

「初めまして! 藍しゃまの式の橙といいます」

「……えっと、部下みたいなもんか?」

「大事な家族だ」


 真次の問いに、大真面目で答える藍。もうスイッチが入っているらしく、いつものだらしない状態になっている。


「藍しゃまー大丈夫ですかー?」

「ああ、平気だよ橙。真次先生に治してもらったから、今傷は塞がっているよ」


 満面の笑みを浮かべる藍に対し、真次が苦言する。


「あー藍、さっきも言ったかもしれねぇが、組織がまだつながりきってないだろうから、あんまり負荷かけるのは厳禁な。それと、永琳先生の鎮痛剤で痛みを抑えてるだけだから、実はなんとか大丈夫な範囲にしているだけだったりする」

「あら、結構重症だったのかしら」

「処置しないと危険な程度には。もう山場越えたから、無理しなきゃ大丈夫」


 紫の問いに、真次は安心させるように言った。藍が無理をするとは思えないし、当然紫としても、大事な部下に危険な真似をさせるつもりはない。


「藍しゃまー……この前の壺割っちゃってごめんなさい」

「ああ、あの壺か。かなり古い品でしたが……紫様、復元は終わりましたか?」


 真次は話についていけない。なぜならこのことは、彼が幻想郷に来る直前の話だからだ。同時に、紫の急用の理由でもある。


「七割ほど終わったわ。流石に私が生まれるより前の物……それも、呪術のついたものだとそっちも復元しなくちゃいけないから、時間がかかるのよね」

「紫様でも時間のかかる品物なのですか……」


 普通の壺が壊れた所で、紫の能力があれば簡単に復元出来てしまう。ところが……今回割れたのは、紫が生まれるより前に作られた品物だ。紀元前より作られた、太古の呪物である。しかも、


(忘れ去られたとはいえ、神々の品物だものね)


 幻想郷ができて間もないころ、偶然紫が発見し、同時に起こるであろう問題に対処するために、それを使用した封印を施したのである。

 と、そこで紫は思い出したように、藍の手に触れる。境界制御の応用で、『傷と健全の境界』を操作し、彼女の傷を治せると思ったのだ。

ところが――


「っ!?」


 干渉しようとした途端弾かれてしまった。いや、より正確に言うならば、これは弾かれたというのは不適格だ。どちらかというと……能力自体に干渉され、打ち消されたと言った所だろう。


(まさか……『境界を操る程度の能力』を無力化できるの!?)


表情には出さず、紫は焦ると同時に納得がいった。アレは壺での封印と、紫のスキマを応用した結界内に封じてあったはずである。先述の通り壺は割れてしまったが、それならまだスキマの結界内に居るはずである。外に出たということは、そういうことなのだろう。


「ゆかりん……? なんかヤバイことでもあったのか?」

「……なんでもないわ。それより、あなたたちを襲った奴の詳細を教えてくれる?」

「え? ああ……アイツな」


 紫としては、正体自体は知っている。だが、現在どのような形状でいるのか、あるいは、どのような形態になれるのかだけでも知っておく必要がある。

 話を聞いたところ、鎖を纏った狼に擬態出来るらしい。もしかしたら鎖は、別の何かの象徴なのかもしれないが……

 そして、狼は空間を破壊して外に出たらしい。恐らくは――


「幻想郷に、入りこんでるわね……」

「となると……まさか、あの惨状もあいつが原因なのか?」


 何事かと真次に聞くと、どうやら妖怪たちが物理的に殺されていたらしい。しかも、復活する兆しも見えないとのことだ。……彼ら二人が生きて幻想郷に来れたのを考えると、最悪の事態は避けれたかもしれないが、依然状況は悪いと言わざるを得ない。


「その狼、早めに退治したいけど……私たちじゃ相性悪そうね。霊夢や魔理沙に頼んでみるわ」

「妖怪退治屋か? まぁ、専門家に頼むのが一番だろうな……俺も情報収集ぐらいはしてみるぜ。やられっぱなしってのも嫌だからな」

「あら、協力してくれるの?」

「美人たちが困ってるのをほっとけねぇって」


 冗談めかして、彼はニシシと笑いながら言った。またも不意打ちに、紫の心臓は高鳴る。


「あ、相変わらず上手なんだから……死なないでね」

「ふふ、なるほど。たち……か」


 美人と言われて、不機嫌になる女性などいない。藍も紫も上機嫌になる。


「そうだ真次、まだ藍を治してくれたお礼してなかったわね」

「あ~……いいよんなもん。護衛してもらって、無事にこっちに来れたんだ。それだけで御の字さ」


 だから、報酬か何かで応えようとしたのだが、彼はにこやかに断った。……どうやら兄弟そろって、お人よしは変わらないらしい。


「そう言わずに、なんでもいいのよ? 例えば、持ってき忘れたものとか、持ちだせなかったものとか……」

「ん~……そう言われてもな~……あ、じゃさ、あれ持ってきてくれると助かるな。現代の魔法の糸と、モノフィラメント」


 藍も紫も首を傾げたが、その正体は現代で使われている手術用の糸のことらしい。

 消耗品な上、こちらでは入手はほぼ不可能と言っていい品物だ。流石に、本番で使う糸までは持ちだせなかったらしい。


「君は、本当に……なんと言うか、医者馬鹿だな」

「うるさい。わかってるんだよんなこと」


 こんな時まで、人を助けることを考えている真次に、藍は感心したような、呆れた様な声を出した。最も、紫も同意見である。

 だから……きっと面白い反応をすると思って、こんな冗談を言ってみた。


「わかったわ。ついでに、藍も貰っていいのよ?」

「ゆ、紫様!?」

「へーそうか……は?」


 慌てる藍に、何を言ってるんだこいつと、心底呆れた表情の真次。

 ……意外だった。真次の反応は妥当の範疇だとして、藍が取り乱すとは思ってなかった。


「あのなゆかりん。姫さんにも言ったが、日が経ってなさすぎる。早々くっつけようとするんじゃない」

「そ、そうか……」


 何故か、真次の言葉にがっかりしている藍……これはもしや……


「藍、あなたこの人間に惚れてるの?」

「は!? いえ、そんなことはっ……! 確かに、皇帝たちと違っていやらしい目つきで見ませんし、私のこと助けてくれましたし、そこそこ顔たちもいいですけど……!」

「皇帝……? あー……確か九尾の狐って、中国や日本で内政をぐちゃぐちゃにしてたような……」

「い、いや、今はそんなことはないぞ!? 当時はその、やんちゃ盛りだったというか……!」


 ここまで必死になるのは、橙のこと以来ではないだろうか? まだ惚れてるとまではいかないものの、まんざらでもないようである。


「まぁ、ずいぶん昔の話だし、そのことは信用してもいいか」

「う、うむ。そうしてくれると助かる」


 その必死っぷりがおかしくて、紫は傍らで大爆笑。しかし橙は、何のことかわからず呆然としている。


「藍しゃまー……昔何があったんですか?」

「橙ちゃん、君ぐらいの歳の子が聞くには早い。もうちょっと大人になったら、きっと藍姉ちゃんが教えてくれるさ。それはそれは悪名高い九尾の狐の伝説をな」

「……妙な脚色を、しないでもらえるか?」

「それはあれだ藍、自業自得ってやつだろ。それと、間違っても俺なんかに惚れるな。不幸になるぞ」


 一方真次の方は、藍の事をただの患者としか見ていないようで、全くあたふたもせずに、冷静のままであった。

 

「あーおかしい。ホント、真次は私を愉快にさせてくれるわね」

「そうか? ゆかりん。俺としては、至って普通に医者やってるつもりなんだが……」


困ったように髪を掻く真次。その様子がまたおかしくて、紫はまた笑いだす。

この二人が生き残ったのは、予想以上に幸運かもしれない――

 これから嵐のような日々を送る紫にとって、このひとときは癒しになるのであった。

 


6月20日 18:24


今回真次君の言った糸は、現代技術の最先端の糸になります。

魔法の糸は、この糸が出来た時に、そんな名前で呼ばれてたような気がします。しばらくすると人の体内で吸収され、消えてしまうという特殊な糸です。

もうひとつの糸は、細菌がつきにくい糸だったかな? そういう構造になってる糸だったと思います。(うろ覚え)

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