表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/216

STAGE 6-7 異変解決への道

“これで私から言えることは全部。後はあなたたちの手札に合わせて、微調整して欲しい”


 まるでこちらの状況が見えているかのような……いや、事実ある程度予測済みなのだろう。紅魔館の魔女が残したメッセージは、怨霊集団の正体を的確に見抜いていた。その上で作られ、真次に提供されたナイフは「切り札」と呼べる性質を保持している。


“参戦しない身で、偉そうな事言えないけど……頑張って”

「パチュリー……」


 口惜しさを滲ませて、彼女の音声が途切れる。ありふれた言葉であっても、込められた思いは本物だった。真次が胸を打たれる中で、三人は刃物の性質を合議する。


「紫殿……これは……」

「確かに強烈ね……『当たれば』だけど」

「…………一応確認するが真次君。戦う意思はあるか?」

「勿論だ。が……タイマン張ってブチ込める自信はない」


 説明を聞く限り、直撃させればほぼ一撃で決着がつく。問題は使用者が『西本真次』に限定されている点で、彼の戦闘能力は「そこそこ」止まりだ。

 対する相手は「忘れ去られ、拒まれた怨霊の集合体」そしてそれを指揮する『西本真也』である。幻想郷に喧嘩を売り、今も我が物顔で闊歩する奴等と正面衝突など、無謀の極みと言えよう。


「不意を突くしかない……しかし隙を作るのさえ容易ではないぞ」

「暗殺は不可能でしょうな。裏の生業をこなしてた怨霊も、少なくありませぬ。好機があるとすれば……乱戦下か、数的有利を作り狙うしかありません」

「となると…………博麗神社での決戦に、賭けるしかないわね」


 極めてハイリスクだが、他にチャンスは得られない。いずれ怨霊たちはそこを目指し、こちらは各勢力からの援護も期待できる。各所を動き、今も所在が明確でない以上……最終目標とする箇所で、待ち伏せるのが最適だろう。


「何、前向きに捉えましょうぞ。博麗神社は高所の地の利に加え、藍殿の盟約があれば、戦力は十分。加えて世界を守るためとなれば、背水の陣の心境……勝機もより多く生じましょう」

「なんでだろうな……幸村さんが言うとスゲー頼もしい」

「ふ、戦慣れしております故」


 不敵な笑みさえ不快感が無い。これが人望を集める能力……かつて戦場に名を轟かせた、真田幸村のカリスマか。鋭い鷹のような眼光で、つらつらと状況を武将が読む。

 

「しかし、敵の仕掛け時が不明なのが……四六時中博麗神社に、戦力を張りつけることは不可能。かといって、戦の時に駆けつけられねば意味がない……霊夢殿の実力を拙者は存じませぬが、増援が来るまで持ちこたえるかどうか……」


 約束を取り付けた藍に、幸村が視線で問う。彼女は腕を組んで唸った。


「話はつけたが、参戦の時期までは微妙だ。各勢力の状況や意識による。日によっても異なるだろうし、時の運としか……」

「それでは困ります。運任せにするにしても、少しでも出目を良くする工夫が欲しい」

「とは言ってもな……あなたに何か案は?」

「即座に思いつく手は、挑発ですな。罵倒し、蔑み、『悔しければ、この日この時間に博麗神社に攻めてこい』と、怨霊どもを煽ってやるのです」

「引っかかるかしら……?」


 八雲の苗字をもつ、二人の反応は芳しくない。チーフな、使い古された手に乗ってくると思いもしないのだろう。けれど真次は、口の端を吊り上げる。幸村も同様で、男二人は確信した様子だった。


「普通は引っかかんねーよな。けどあのクソ兄貴ならまず乗ってくる」

「何でよ?」

「アイツな……生前はクソザコナメクジのクセして、無茶苦茶沸点低かったんだ」

「「…………………………えぇ?」」


 脱力した困惑を漏らす女性二人と裏腹に、幸村も真次の言葉に続く。


「いやいや真次殿。己の弱さを薄々自覚しているが故に、必死に虚勢を張る輩は数多い。貴殿の兄は力を得て増長しておりますが、心の面では大して成長しておらぬ」

「やっぱりか? 俺も同じ印象を覚えた」

「何より真次殿。貴殿は何度もあの兄と喧嘩している。怒りのツボは存じておりましょう?」

「そりゃもう、嫌と言うほど」


 皮肉たっぷりに、好戦的な笑みを浮かべる真次。勝手に納得する二人に流されかけるが、藍が疑問を投げかけた。


「君達しか知りえない事だし、理解が及ばないが一応信用しよう。だがどうやってアイツに伝える?」

「そうですな……奴等と、藍殿と盟約を結んだ相手にのみ伝わる文面で……幻想郷各所に雑誌の類を配るのはいかがかな?」

「だからどうやって……」

「いいえ藍。さほど難しくないわ。書き出しは『博麗神社で○月○日の○○時に、宴会を開く』……これで通じそうじゃない?」


 なるほど宴会を催すとなれば、場所と日時を指定するのは不自然じゃない。加えて、予め博麗神社を守る盟約があれば、すぐに察しのつく文面だ。


「しかし誰が配るのです? ビラ配りなんて……」

「天狗の記者に頼んで、新聞として配ればいいでしょう?」

「射命丸 文ですか……彼女なら飛びつきますね」


 積み上がっていくアイデアに、徐々に管理者二人も乗り気に変わる。細部の調整は必要だが、大筋はこれで良さそうだ。


「後は……あなたの兄と、怨霊たちに判る煽り文を入れるだけね」

「ああ。トマトより顔真っ赤にしてやるぜ。添削は頼んだ」


 そのまま八雲の屋敷にて、兄と怨霊たちを挑発する文章を書き綴る。

 幻想郷の命運をかけた果たし状は、その日夜遅くまで練られ続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ