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STAGE 6-5 明かされる真実『境界剥奪』『怨霊意志統一』

「境界を……奪う……?」


 八雲紫が関わってるのは確かだが、他は想像も及ばない。魔術に疎い彼のために、極めて大雑把に紫が説明した。


「強引に一まとめにして、幻想郷への反乱に力を割けないようにしたの」

「さっぱりわからん。一つにしたら意思統一もされるんじゃ……?」


 真次には体験したこともないし、実際に仕組みを把握していない。数回唸るような声を出してから、スキマ妖怪が話を振った。


「真次……人と人との和解には、長い時間が必要と思わない?」

「まぁ、そりゃそうだ」

「ましてや国も違う、時代も違う、文化が違う相手なら?」

「ものスゲー大変だよな……で?」

「全くの別人同士から境界を取り払うと……精神の在り方が違いすぎて、なのに強引に融合が進んでいくと、お互いに頭がパンクするのよ。最悪の場合自分が誰なのかさえ忘れて、ぐちゃぐちゃの崩壊した魂になる」

「……グロいな。そこまでする必要あるのか?」


 表現から恐ろしさが伝わってくる。はみ出し者にした怨霊へ、さらに鞭打つような仕打ちに疑念を持つが、紫は涼しい顔だった。


「もちろんよ。この式を組み込んでおけば、怨霊は自分自身の事で手一杯になる。自我が強靭な個体や、英雄のような……特徴的な経緯があれば多少融通は利くけど、それでも意思統一なんて不可能。反乱を起こす前に、内側から崩壊を引き起こす」

「唯一の例外は拙者でした。紫殿に自我の境界を保護して頂いた上で……拙者は封印の内部に潜り込み、不穏な動きを監視する……」

「ならなぜ、異変に発展するまで報告しなかったんだ? 役目に嫌気が差したのか?」


 藍が発した言葉は棘がある。見張りをサボったように感じたのだろう。

 恥じ入る様子を見せたが、藍から目線を外さずに彼は解答した。


「向こうが一枚上手でした。表向き敵対を装いながら……その実西本真也の下に着々と集っていたのです。時々怨霊同士で、血で血を洗う闘争を引き起こしながら……裏で意思を統一していた。今にして思えば、派手な対立や抗争は陽動だったのでしょう」

「ならば西本真也は、恐ろしい速さで怨霊たちを掌握していたことにならないか?」


 忘れられた怨霊の数は膨大。加えて元英雄の魂まで含まれ、対する西本真也は弱小怨霊だ。順当に考えれば、一番上の立場になる事はあり得ない。

 それを可能にするとしたら――『この世を地獄』と呼ぶあの思想。


「紫殿……あの場にいた怨霊たちは、一人残らず地獄を見ていたのです」

「なんですって?」

「封印された怨霊たちは、現実世界で怨みを抱いて死に、死して怨霊となって現世を彷徨った。しかし怨みは晴らせず、それどころか忘れ去られ……本来なら幻想入りするはずだった」


 一人ひとりの過程は異なるのだろう。けれど怨霊と化した以上、この世に怨みと未練を残し死んだ所は、共通項と言える。怨霊になって成仏も出来ず、怨みを晴らすことも叶わず……誰からも忘れ去られてしまい、現実から遠ざかった。


「けれど怨霊は幻想郷に入れなかった。出口のない隔離された壺の中で、怨霊同士で争い続ける羽目になった。それは……控えめに言って『地獄』でございましょう?」

「「「あっ!?」」」


『パンドラ壺』へと隔離された者たちは、地獄へ堕ちずとも地獄を見ていた。

 怨霊としてこの世に留まり……人か、物か、あるいは運命か……生前の怨みつらみを晴らすべく、あの世へ逝くことわりを裏切ったのに、

 自分の怨念を浄化できぬまま、現実世界に忘れ去られ、

『全てを受け入れる』と自称する、楽園への入場を拒まれた挙句

『パンドラの壺』の底の中で、他者の怨みと終わらない戦い明け暮れる……

 羅列してようやく、幸村以外の三人も同じ結論に到達した。

 積み重なった散々な惨い仕打ち、地獄の責め苦を受けた彼らは『西本真也の思想を受け入れる下地が出来ていた』


「だから兄貴は平気だった……」

「地獄を見ていた怨霊たちにとって『この世は地獄』の精神性は受け入れられ……」

「逆に西本真也にとっては『壺の中の地獄は、自分の思想を補強する材料』でしかなかった……のね」

「この偶然が……西本真也を中心とした『がしゃどくろ』を生んでしまった。貴殿の兄の異常性が、拒絶された怨霊を余さず肯定してしまった」


 見張り役の幸村が、対処できぬのも無理はない。八雲紫の想像外も残念ながら当然。

 現実を地獄と定義し、生き続け、死してなお怨霊としてとどまった狂人は

 楽園の外で初めて肯定され、幻想郷の脅威となる怪物として越境を果たしたのだ。

 

「……皮肉が過ぎる」


 藍が吐き捨てる。真次も頷く。幸村が苦虫を噛み潰し、紫が頭を抱えて俯いた。

 希望のない壺の底で、怨念を溜め込んだ壺の中で、

 投げ込まれた希望は、現実での狂気だった。

 拒まれた幻想を受け入れた西本真也は

 怨霊たちの総意を受け、幻想郷の破壊を目論む。

 彼らにとって『嘘』をついた世界に

 楽園を築く代償に、自分たちを虐げた世界へ……

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