解説 神話の容器
今回登場した「パンドラの壺」ですが……調べてみると、諸説あります。
一般的には「パンドラの箱」の呼び方がなじみ深いでしょう。実際私も、調べてみるまで全く知りませんでした。
いつ頃「箱」と「壺」の呼び間違いが起こったのかは、ちょっとはっきりしません。おおそよ15~16世紀ではないか……との情報が多かったですが、確証の取れるソースはありませんでした。
最も……調査を進めていくうちに理解したんですが「パンドラの神話」に確証のある情報源は、ほとんどないようです。
例えば『容器が何か?』についてですが……本当に箱だった説もあります。
本編で「箱は当時の一般人に馴染みのない物だった(あるいは存在していなかった)。だから実は壺だ」「文明が発達し、容器としての立場を失った壺が、箱に置き換わった、誤訳された」とゆかりんが説明をしていますが……この説明だと、一番最初が箱だとしても成り立つんです。こんな具合で。
「箱」と説明しても、普段使いの容器が「壺」なので、当時の一般人には理解できない。
だから「壺のようなものだ」と説明したら、それを誤訳して浸透してしまった……
ところが、文明が発達するにつれ「壺」と「箱」の立場が逆転し、似たような経緯で壺から箱に切り替わった……
つまり「容器の誤訳」が、二回起こっているという説です。この説ですと二回目は「間違ったけど、間違っていなかった」「正しく修正された」と解釈も可能です。
それと他にも「壺」でも「箱」でもなく、「瓶」ではないかとの説もあります。
「瓶」も壺に近い道具ですが、こっちは主に液体を入れる容器です。境界の引けないあやふやな「厄災」を封じるなら、固形物を入れる「壺」より液体を入れる「瓶」の方が向いているのではないか……
他にもまだまだあります。
パンドラの神話で重要な場面……「容器を開封して、中身の厄災が世界に拡散した」ですが、ここに至るまでの経緯もバラバラです。
この話のメインの軸は三つ。「人間の女性」「神」「厄災を詰めた容器」ですが……本当にパターンが多い。例としていくつか上げます。
パターン1
色々な道具を保管している神様がいたが、ある日忙しくして留守にしていた。そこに人間の女性が留守の間に入り込み、神様の保管庫を色々見て回った。その時封のされていた容器を見つけ、興味本位で開けてしまった。それが「厄災の詰まった容器」だった。
パターン2
人間の女性が、嫁入りすることが決まった。神々に可愛がられていた人間は、神様から様々な祝福を受けたり、道具を授けられたが……とある神様がそれを快く思わず「厄災の詰まった容器」を送り、きっと良いものが入っていると信じた、人間の女性が開けてしまう。
パターン3
上記の経緯にそっくりですが、神様側に悪意がないパターン。嫁入りが決まり、祝福や道具も授けられた。そして「厄災の詰まった容器」も送られるのだが、神様はその時忠告する。
「これには良くないものが詰め込まれているから、決して開かないように」
しかし興味を持った女性は、ふとした時に中身を開いてしまう……
最後のは「浦島太郎の玉手箱」と経緯が似てる気がしますね……流石に同じ話ではないと思いますが、興味深い。他にも経緯はたくさん。ここで上げてるときりがない。
さらにさらに、他にも不明な箇所があります。「パンドラ」が何を差しているのか……実はここも不明瞭なんです。
一般的には「人間の女性の名前」が通説です。封印を解いてしまった人の名前が「パンドラ」だと。けれど「神様の名前」と言う説もあれば「人間でも神様の名前でもない、二人は別々の名前で、容器の名前が『パンドラ』だ」という説まで……
そして話の最後「容器の底には希望が残っていた」……ここは異論が多いことを、知っている人もいるでしょう。「希望があるせいで、絶望できない絶望が生じる」という異論。厄災を詰めているのだから、希望は希望のように見えて、それもまた厄災の一部とする説……
こんなのもありましたよ「実は希望なんてなかった」って説。
最後の一節が「世界に厄災が拡散した! 終わり!」だと、あまりに救いがなさすぎる。だから話を聞いた誰かが、この話の毒を和らげるために「大丈夫! 底には希望が残ってる!」と付け加えた……という説です。
こんな具合に……「パンドラ」の話は調べれば調べるほど、わからなくなる。遥か昔から「伝言ゲーム」やってるようなモンでして……どれもあり得そうな展開をしているのだから、非常にタチが悪い。
ただ、どのパターンでも「容器の封印が破られて、中身が世界に広がった」部分に変わりはありませんでした。人間の女性もかなりの高確率で出現し、どこかで神様が絡んでいるのも共通項ですが……
正直、この話の真実を探ろうとしたら、底なし沼に飛び込むようなものです。作者はこの作品に集中するので引き上げますが……もし本気で調査するつもりなら、ここから先は自己責任でお願いします。
と、ここで終わる予定でしたが……さらにちょっと調べたらとんでもないのが出てきました……
それは『容器に厄災なんて詰まってなかった』説。
……うん、真面目に頭おかしくなるかと思いました。経緯はパターン3に似ています
人間の女性が、地上に向かうことになった。その時神様は色々な祝福を女性に渡そうとしました。
女性は「容器」の中に、神様からたくさんの祝福を詰め込み、受け取って地上に向かうのですが、ドジッ子よろしく転んで、せっかくの中身をぶちまけてしまう。しかし容器の底の方には、希望だけが残っていた……
……あの、これだと本作の設定さえブチ壊れてしまうのですがそれは。本当に訳が分からないよ……




