表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/216

STAGE 5-25 地底解放作戦・10 死闘決着

くぅ~疲れました! 地底解放戦、これにて決着です!

 二つの必殺が激突した瞬間……地底中の大気が爆ぜた。

 発生した突風は、上空に展開したお空とこいしを吹き飛ばし

 橋上と地底の街で戦闘を行っていた、さとりにパルスィ、キスメとお燐を震撼させ

 地霊殿前の攻防を繰り広げていた、怨霊たちと妖怪軍に直撃した。


「~~~~~~っっ!?」

「ぐぁ……っ! 耳がっ……!」


 両軍は戦闘どころではない。急激に膨張した空気が三半規管を揺さぶり、聴覚越しに脳をかき混ぜられたような感覚だ。誰も彼もが耳を押さえ、直立することもままならない。


「何が……起こった……?」

「真次……! 大丈夫!?」

「二日酔いの二十倍キツい……うっぷ」


 片手で自分から離れるように示した直後、真次が激しく嘔吐する。しばらく胃の内容物を、路肩の下水に吐きだし続けていた。

 無理もない。妖怪でさえ悶絶する衝撃を人間が受けたのだ。よくこの程度で済んだと言えよう。


「ぁぁクソ……最悪……」

「こりゃしばらく動けそうにないね。怨霊たちも怯んでる」

「今のって……さっき話してた必殺技じゃ……?」

「多分ね。決着ついたのかな?」


 脳を揺さぶられ、身悶える面々。戦いは中断されたまま、両軍ともに呆然としている。

 何人か頭の回る怨霊と妖怪は、大将の身を案じ地霊殿へ駆け寄っていく。敵味方の境が薄れた彼らが目にしたのは……満身創痍の二人だった。

 真田幸村は鎧のほとんどが粉々に砕かれ、槍も刀も暗器をも粉砕されていた。身体を大の字にして天を仰いでいる。瞳を閉じ、唇を薄く開き、胸を上下させ深く呼吸し、どこか満足げに微笑んでいるように見えた。

 星熊勇儀は両膝をつき、右腕を左手でかばっていた。腕は己の力に晒された挙句、幸村の一太刀を受けたせいで……右手は筋肉と血管と神経と骨が、ぐちゃぐちゃのペースト状に潰れて混ざっていた。いっそ切り落とされていた方がマシだ。辛うじて手の形をしているだけで、ぴくりとも動かせない。

 それだけの傷を負いながら……やはり勇儀も笑っていた。狂気も他意も感じさせない、快活な笑みだった。


「全く……見事なもんだね」


 鬼の四天王に正面から挑み、全力を引き出した上必殺技まで使わせ……利き手を完膚なきまで潰して見せた。勇儀が表舞台で暴れてた時期ならば、英雄と称された戦果に等しい。鬼側もその武勇に免じ、悪事をやめて去るだろう。

 しかし幸村は勝ち誇る様子はない。むしろ本心からこう言った。


「……拙者、潔く負けを認めるつもりなのだが」

「馬鹿言っちゃいけない。これで勝ったなんて言った日にゃ、他の四天王にアタシが袋にされちまうよ」

「何を申すか。拙者も刀折れ矢尽きた有様。これで勝ち鬨をあげるなぞ、とてもとても」


 互いに意地を張り、相手に勝ちを譲り合う両者に憎しみはない。疲労の中にも充実感があり、燃焼しきった心地よさがこの場を包んでいた。


「ははは……でも、満足できる戦いだった。アンタは?」

「うむ……実に良い、闘争であった。だがあえて、一つ心残りを上げるのなら……勝ち負けが明白でない事が、惜しい」

「アタシは負けを譲る気はないよ」

「同じく」

「……いじっぱりめ」


 傷んだ身体を起こし、幸村が勇儀と視線を交わす。何故か男は覚悟を決めたような、剣呑な眼差しをしていた。男気溢れる言葉で、一生の願いと土下座し勇儀に乞う。


「しかし戦として、けじめは必要でありましょう……勇儀殿、介錯を頼みたい」

「あん!? 何言ってるだアンタ!?」

「戦に敗北した以上、大将は腹を切るのが当然でしょう。貴殿の立ち合いの下なら申し分……」

「……アンタもう死んでるじゃないか。腹切ったって死なないよ」

「……………………そう、ですな」


 本気で切腹する気概だったようだが、勇儀の一言で正気に戻る。ズレた発言と自覚した彼は、少々顔色を赤くしていた。

 笑って流した勇儀は、重い脚を引きずって幸村の傍による。長年の友に寄り添うような、いたわる手つきと言葉で彼に触れた。


「それにね。幻想郷じゃ派手に戦った後は、敵だ味方だと、つまんないこと言いっこなし!どんちゃん呑んで騒ぐもんなのさ」

「は、はぁ……ずいぶんと変わった習わしで」

「アンタならすぐ慣れるさ。あ、それともアタシと飲むのは嫌かい?」

「まさか! ありえませぬな。是非その宴に招いて頂きたい。いや招かれずとも参ります」

「よぉし! それでこそ漢だ!」


 軽く肩を二度叩いた所で、衝撃が右手に走り勇儀が顔をしかめた。やれやれと首を振った侍が立ち上がり、死闘を繰り広げた相手に肩を貸す。再び勇儀が笑い、そして何か思い立ったように後ろを見た。

 今まで二人の死闘を見届けた怨霊たち。最後まで逃げ出さなった馬鹿どもへ、裏表のない笑みで告げる。


「あんたらも飲みに来なよ?」

「え? は? いい……のか?」

「良いに決まってんじゃないか。逃げ出した卑怯者はともかく、あんたらだってイイ男だよ。ま、幸村ほどじゃないけどね」


 実に勇儀らしい言い草だった。あるいは、幻想郷らしい展開と言えるかもしれない。憑き物が落ちた大将につられ、彼の配下たちも二人の足取りに続く。

 ……二つの必殺が激突した余波で、各所の戦闘は中断されていた。その後、ボロボロになりながら肩を並べる大将たちを見て……怨霊側、妖怪側共に武装を解除。晴れて地底は解放された。

 かくして、地底を揺るがした大規模な戦闘……いや、大きな騒動はこれにて決着。いつもの幻想郷らしく、全員参加の宴会に向けて、妖怪も怨霊もなく、そこに居る誰も彼もが奔走した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ