STAGE 5-25 地底解放作戦・10 死闘決着
くぅ~疲れました! 地底解放戦、これにて決着です!
二つの必殺が激突した瞬間……地底中の大気が爆ぜた。
発生した突風は、上空に展開したお空とこいしを吹き飛ばし
橋上と地底の街で戦闘を行っていた、さとりにパルスィ、キスメとお燐を震撼させ
地霊殿前の攻防を繰り広げていた、怨霊たちと妖怪軍に直撃した。
「~~~~~~っっ!?」
「ぐぁ……っ! 耳がっ……!」
両軍は戦闘どころではない。急激に膨張した空気が三半規管を揺さぶり、聴覚越しに脳をかき混ぜられたような感覚だ。誰も彼もが耳を押さえ、直立することもままならない。
「何が……起こった……?」
「真次……! 大丈夫!?」
「二日酔いの二十倍キツい……うっぷ」
片手で自分から離れるように示した直後、真次が激しく嘔吐する。しばらく胃の内容物を、路肩の下水に吐きだし続けていた。
無理もない。妖怪でさえ悶絶する衝撃を人間が受けたのだ。よくこの程度で済んだと言えよう。
「ぁぁクソ……最悪……」
「こりゃしばらく動けそうにないね。怨霊たちも怯んでる」
「今のって……さっき話してた必殺技じゃ……?」
「多分ね。決着ついたのかな?」
脳を揺さぶられ、身悶える面々。戦いは中断されたまま、両軍ともに呆然としている。
何人か頭の回る怨霊と妖怪は、大将の身を案じ地霊殿へ駆け寄っていく。敵味方の境が薄れた彼らが目にしたのは……満身創痍の二人だった。
真田幸村は鎧のほとんどが粉々に砕かれ、槍も刀も暗器をも粉砕されていた。身体を大の字にして天を仰いでいる。瞳を閉じ、唇を薄く開き、胸を上下させ深く呼吸し、どこか満足げに微笑んでいるように見えた。
星熊勇儀は両膝をつき、右腕を左手でかばっていた。腕は己の力に晒された挙句、幸村の一太刀を受けたせいで……右手は筋肉と血管と神経と骨が、ぐちゃぐちゃのペースト状に潰れて混ざっていた。いっそ切り落とされていた方がマシだ。辛うじて手の形をしているだけで、ぴくりとも動かせない。
それだけの傷を負いながら……やはり勇儀も笑っていた。狂気も他意も感じさせない、快活な笑みだった。
「全く……見事なもんだね」
鬼の四天王に正面から挑み、全力を引き出した上必殺技まで使わせ……利き手を完膚なきまで潰して見せた。勇儀が表舞台で暴れてた時期ならば、英雄と称された戦果に等しい。鬼側もその武勇に免じ、悪事をやめて去るだろう。
しかし幸村は勝ち誇る様子はない。むしろ本心からこう言った。
「……拙者、潔く負けを認めるつもりなのだが」
「馬鹿言っちゃいけない。これで勝ったなんて言った日にゃ、他の四天王にアタシが袋にされちまうよ」
「何を申すか。拙者も刀折れ矢尽きた有様。これで勝ち鬨をあげるなぞ、とてもとても」
互いに意地を張り、相手に勝ちを譲り合う両者に憎しみはない。疲労の中にも充実感があり、燃焼しきった心地よさがこの場を包んでいた。
「ははは……でも、満足できる戦いだった。アンタは?」
「うむ……実に良い、闘争であった。だがあえて、一つ心残りを上げるのなら……勝ち負けが明白でない事が、惜しい」
「アタシは負けを譲る気はないよ」
「同じく」
「……いじっぱりめ」
傷んだ身体を起こし、幸村が勇儀と視線を交わす。何故か男は覚悟を決めたような、剣呑な眼差しをしていた。男気溢れる言葉で、一生の願いと土下座し勇儀に乞う。
「しかし戦として、けじめは必要でありましょう……勇儀殿、介錯を頼みたい」
「あん!? 何言ってるだアンタ!?」
「戦に敗北した以上、大将は腹を切るのが当然でしょう。貴殿の立ち合いの下なら申し分……」
「……アンタもう死んでるじゃないか。腹切ったって死なないよ」
「……………………そう、ですな」
本気で切腹する気概だったようだが、勇儀の一言で正気に戻る。ズレた発言と自覚した彼は、少々顔色を赤くしていた。
笑って流した勇儀は、重い脚を引きずって幸村の傍による。長年の友に寄り添うような、いたわる手つきと言葉で彼に触れた。
「それにね。幻想郷じゃ派手に戦った後は、敵だ味方だと、つまんないこと言いっこなし!どんちゃん呑んで騒ぐもんなのさ」
「は、はぁ……ずいぶんと変わった習わしで」
「アンタならすぐ慣れるさ。あ、それともアタシと飲むのは嫌かい?」
「まさか! ありえませぬな。是非その宴に招いて頂きたい。いや招かれずとも参ります」
「よぉし! それでこそ漢だ!」
軽く肩を二度叩いた所で、衝撃が右手に走り勇儀が顔をしかめた。やれやれと首を振った侍が立ち上がり、死闘を繰り広げた相手に肩を貸す。再び勇儀が笑い、そして何か思い立ったように後ろを見た。
今まで二人の死闘を見届けた怨霊たち。最後まで逃げ出さなった馬鹿どもへ、裏表のない笑みで告げる。
「あんたらも飲みに来なよ?」
「え? は? いい……のか?」
「良いに決まってんじゃないか。逃げ出した卑怯者はともかく、あんたらだってイイ男だよ。ま、幸村ほどじゃないけどね」
実に勇儀らしい言い草だった。あるいは、幻想郷らしい展開と言えるかもしれない。憑き物が落ちた大将につられ、彼の配下たちも二人の足取りに続く。
……二つの必殺が激突した余波で、各所の戦闘は中断されていた。その後、ボロボロになりながら肩を並べる大将たちを見て……怨霊側、妖怪側共に武装を解除。晴れて地底は解放された。
かくして、地底を揺るがした大規模な戦闘……いや、大きな騒動はこれにて決着。いつもの幻想郷らしく、全員参加の宴会に向けて、妖怪も怨霊もなく、そこに居る誰も彼もが奔走した。




