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STAGE 5-21 地底解放作戦・6 紅蓮演武

 重量感のある紅蓮の鎧が、雷光の如く飛翔する。

 身体を温めた星熊勇儀と火花を散らし、英霊の槍が鋭く閃いた。


(とんでもないね……まるで別人じゃないか!)


 速度も、膂力も、大きくは向上していない。そのはずなのに勇儀の体感では、倍近い速度に感じた。全身を覆う鎧は相当な重量のはずだが、軽装の兵より動きにキレがある。

 真価を取り戻した『彼』は、磨き上げた技巧を駆使し、限界まで余分な挙動を排除しているのだ。己の重心を操り、程よく力を抜きながらも――こちらへの打撃は芯を狙って打ち込んでくる。軽快さと重厚さを、高い次元で両立した武技だ。

 信じがたい事に……パワーとスピードの両面を、技術で大きく向上させている。気概の違いもあるだろうが、それだけで強くなれるはずもない。


「はああああぁっ!」


 腹の底から込めた掛け声と共に、残像が見えるほどの刺突が殺到した。金切り音がいくつも鳴り、勇儀の五感をざわつかせる。僅かな隙を狙って、勇儀は力いっぱい剛腕を叩きこんだ。

 幸村の左腕にヒットした拳は、高い金属音を響かせる。なのに――全く手ごたえがない。着弾する直前『彼』は、右手で槍を地面に突き刺していた。突き刺さった棒を軸にくるりと回って勢いを逸らし、打撃を乗せた回し蹴りが突き刺さる。


「ぐっ……ふぅんっ!!」


 鬼の怪力を利用した飛脚はズシリと重く、ずりっと勇儀の身体が後退した。けれども彼女は倒れずに、鋼鉄の腹筋で跳ね飛ばす。地面から槍を引き抜きつつ幸村も下がり、攻防に一区切りがついた。

 この間、一分と経っていない。次元の異なる濃密な戦闘を、怨霊たちは畏敬の念で見つめていた。


「見たか今の!?」

「さっきまでの戦い、二人とも本気じゃなかったのか……?」

「……いや、まだお互い小手調べじゃないか?」


 その通りさ――勇儀はどこかの怨霊に胸の内で答える。お互いにまだスペルカードを使用していない。今までのやりとりは通常戦闘の範疇に過ぎず、本番はここからだ。

 とはいえ、いきなり大技で決めても面白くない。まずはあいさつ代わりに、勇儀はスペルカードを放つ。


「鬼符『怪力乱神』」

「む!?」


 鬼が腕を振り上げると、そこを中心に弾幕が展開される。渦巻く螺旋を描いた後、バラバラに弾幕が周辺に飛び散った。


「う、うわっ!?」

「伏せろ!」


 取り囲む怨霊たちに飛び火したが、距離があれば被弾する密度ではない。幸村の間合いで機能する攻撃だ。

 軽やかな足さばきで弾幕を潜るが、鎧武者の彼では反撃は難しい。勇儀は余裕の笑みを浮かべ攻撃を続ける。最初と同じく煽っているのだ……「お前のスペルカードを見せてみろ」と。

 鬼の意図を察し、幸村が槍を構えて力を溜める。正気の彼が放つ最初のスペルカードは、地霊殿の地に凛と響いた。


「武錬『豊臣臣下の名槍術』!」


 先程も見せた槍さばきが、一段と苛烈さを増していく。一つ突き出すと同時に斬撃が飛び、怪力乱神と衝突した。

 正確に勇儀を狙う槍斬撃が、彼女の弾幕をかいくぐって殺到する。互いが互いの弾幕に晒されながら、相手を仕留めようとスペルカードをぶつけ合った。

 地面が抉れ、二人の背面で弾幕が弾け合う。しばし続いた均衡を破るべく、幸村が一つ鋭く息を吸い……手持ちの槍を一度しまい、体躯に合わない巨大な槍を出現させた。


「利家殿! お借りする!!」


 本人も無理を承知なのだろう。顔をこわばらせて、超重量の槍を横薙ぎに振った。先端から逃れようと勇儀は一歩踏み込んだが、ことこの槍相手には分が悪い。

 その槍は『槍の又左』の異名を持つ、前田利家の巨大な槍だ。

 その脅威は穂先のみに非ず。質量と遠心力を生かした棒術の威力も、通常の槍と比較にならない。脇腹を打つ棒なぞ受けれると、甘く見ていた勇儀の骨にずしりと響いた。うめき声を上げぬよう、ぐっと歯を食いしばる。


(お、重っ……!? けど……)「捕まえたよ!」

「なんと!?」


 足を大きく開き、鬼は一撃を受け止め……二の腕をぐんと膨張させた。脇に巨大な槍を挟み込み、怪力乱神に恥じぬ力を振るう。超重量の槍に加え、全身鎧と成人男性の重量を……片腕で持ちあげて見せたのだ!


「おっ……らぁっ!!」


 そのまま背負い投げ、あるいはバックドロップの要領で背面に投げ飛ばす。そのまま地面や建物に激突すれば、彼は大打撃を被るだろう。

 けれども勇儀は……幸村の脇から飛び出す異様な道具を見た。

 分銅と鎖、そして刈り取る形の鋭い刃物。主に忍びが使う武器であるはずの、鎖鎌が彼の手元にある。遠く飛ばされる寸前に、地霊殿の一部に分銅が絡み付いた。


「!?」


 槍だけが地面に叩きつけられ、幸村は鎖を巧みに操り建物の側面を駆け抜ける。難なく地面へ着地する動作も滑らかで、一連の手際の良さに勇儀は戦慄を味わった。まるで鼠が逃げ出すときのような、侍とはかけ離れた……しかし修練を積まなければ不可能な挙動である。


「――なんだい、その動きは……?」


 彼は怨霊に戻ってなどいない。間違いなく同一人物であるはずなのに、別人のような気配を感じる。例えるならそれは……この世の裏側、影に紛れるプロフェッショナルの気配だ。

 勇儀の疑問へ応えるように、幸村は次のスペルカードを使用した。


「秘伝『猿飛の教え』」


 スペルの宣言と同時に彼が両腕を広げる。瞬間、手に隠し持っていた球体が地面に落下し、周辺に濃密な煙幕が広がった。

 誰も知らない、語られず忘れ去られた彼の真価が、鬼の四天王へ襲い掛かった。

武錬「豊臣臣下の名槍術」スペルカード回想



***



「良し。一通り形になったな。今の呼吸を忘れんじゃねーぞ」


 大阪城下、若き日の幸村は、一人の老兵の指南を受けていた。

 老兵の名は前田利家――男の中の男と呼ばれ、槍の又左と称された武将である。既に高齢のはずだが、愛用の巨大な槍を振るって見せた。


「よく扱えますな……拙者には到底」

「ま、俺はこの槍と付き合い長いからな。若いころより短期で決めねぇとツラいが、まだまだ並み相手にゃ負けん。だが……後数年経ったら、お前さんには勝てる気がしないな」


 白髪をなびかせ、戦国時代を駆けた男がカラカラと笑う。会話もそこそこに、幸村はかねてからの疑問をぶつけた。


「利家殿、何故拙者に稽古を……?」

「いやなに、お前さんは伸びそうだったからな。鍛えてて確信したが……お前さん自分が思ってる以上にバケモンになれるぞ。多分学べば学ぶほど光るヤツだ。面白そうだから、清正や正則にも紹介状贈っといた」

「は、はぁ……」


 賤ヶ岳七本槍と称された豊臣重鎮二名を、こうも気楽に紹介できるのは彼ぐらいだろう。実に軽い調子なのは、彼が歌舞伎者だからだろうか?


「んで、お前さんに稽古つけた理由はな? 俺の槍術を、お前さんに刻んときたかったからだ。この先、この国がどーなるか読み切れねぇが……荒れるんだったら絶対に役立つ」

「……利家殿」

「昌幸の次男坊、何でもいいから経験しまくれ。貪欲に学びまくれ。色んなモンに触れれば触れるほど、それはお前さんの血となり、肉となってくれるだろう……そん中の一つ、槍の技術や怪力相手の対策を教えたのは、この前田利家ってワケだ。上手く使えよ?」


 言いたいだけ言って肩を叩き、背を向けて揚々と去っていく。幸村は小さくなる漢の背中が見えなくなるまで、その場でじっと、頭を下げていた。

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