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STAGE 5-19 地底解放作戦・4 橋上考察

「妬ましい! 妬ましいわ!!」


 橋上に居座る緑の目をした嫉妬心は、狂ったように弾幕を掃射する。

 水面を反射する輝きは美しくも激しく、眺める分には良いが対峙したくはない。

 見せ場のある勇儀たちに深く嫉妬して、パルスィは己の力を増幅させて撃ちまくる。完全に八つ当たりの攻撃は、かなり長い間勢いを維持していた。


「ああ妬ましい! 妬まし……」

「はいストップ。そろそろ休んで下さい」


 さとりは軽く肩を叩いて、ポジションをスイッチ。本人も気づかない疲弊を見抜き、適切な時期を見て橋姫を休ませていた。


「はー……っ。もう少し行けたけど?」

「『まだいける』は『もう危ない』ですよ。それにもう無理しなくて大丈夫。先程から怨霊の数が減っています。恐らく皆が敵陣に取りついたのでしょう」

「ふー……これからは少し楽出来るのね」

「気は抜かないで下さい。展開によっては救出に行く事になります」


 抑揚なく語りながら、さとりは目に映る怨霊へ弾幕を放つ。正確には狙わず牽制を優先し、追い払うように撃ちまくった。

 敵も本拠地を優先したのだろう。さとりの読み通り攻めの手は緩んでいく。彼女たちの弾幕の間を縫って、二人の妖怪が橋の付近に駈け出した。


「……あっちは順調だよ」

「さとり様! あぁ、ピンピンしてますにゃー」


 遊撃と連絡を担当する二人組が、無事に橋の下へとたどり着いた。キスメも言った通り、作戦は順調に進んでいるのだろう。会心の笑みと共に、浮かれた言葉をさとりが紡ぐ。


「この時、お燐が気づいていれば……あの悲劇は回避できたのかもしれない」

「自分から不吉な事言わにゃいで!?」

「いやでもホラ、目の前に黒猫もいますし?」

「……油断しないで。まだ戦闘中」


 感情の乏しい声で、釣鐘落としは橋の下へ潜る。密かに隠れてた怨霊を見つけ出し、彼女が弾幕で追い払った。


「やるじゃない(にこっ)」

「……気配の断ち方が、三流」


 周辺警戒を終え、キスメがゆったりと桶の中で息を吐いた。奇襲を得意とする彼女は、潜伏を見破る能力も高い。安全を確保した橋の上で、四人の妖怪は小休止を挟んだ。


「休憩したら、お燐には向こうに戻ってもらいます。キリキリ働いて下さいね」

「ひーっ! ペット使いが荒いですにゃ!」

「頼りにされてるのね。妬ましいわ」

「何か含みがある言い方にゃーっ!」


 ふしゃーっ! と橋姫を威嚇するお燐。一方パルスィはどこ吹く風だ。今も警戒心を持っているのはキスメぐらいである。


「……みんなは、大丈夫かな」

「信じましょう。今は祈る事しかできません」

「……さとり様が急に真面目になると、違和感ありますにゃー」

「そうね。全く変な話だけど」

「そ、そんな……ショックで今日は十時間しか眠れないです!」

「……長くない?」


 周りから白い目で見られてもどこ吹く風。今日も古明地さとりはマイペースだ。けれども、仲間たちを案ずる気持ちは本物で、何かと地霊殿に視線を向けている。


「おどけてないと、やってられないですよ。相手はあの真田幸村なんですから」


 さとりは本心を漏らしたが、キスメが首を傾げて問う。


「……ねぇ、前からちょっと気になってたんだけど……さとりって真田幸村に随分詳しいよね?」


 ぎく、と肩を揺らしてしまうさとり。彼女のペットもキスメの意見に追従した。


「あ! それアタイも気になってたにゃ! さとり様は軍記物より、恋愛とか心理描写豊富なの好きにゃんだけど……もしかして?」

「えぇまぁ、その……ファンの一人なんですよ」

「憧れの英雄に会えたのね。妬ましいわ」

「……正直複雑です。怨霊化なんて、想像してませんでしたから」


 遠い目線の先、地霊殿の膝下で争う仲間と、書物でよく知る英雄の姿を幻視する。こちらは鬼の四天王だが、相手は日の本一のつわものだ。

 ――正体が幸村だと知ってから、さとりはこの異名がずっと気になっている。


(どうして……日の本一の『侍』ではないのでしょうね)


 いびつな形とはいえ、幸村は幻想郷にやって来た。ならば……忘れ去られた何かがあるに違いない。徳川側がつけた仇名であっても、意味なくこの名がつけられたとは、さとりにはどうしても思えないのだ。

 

(ともあれ、もう私に出来ることはありません……勝ってくださいよ……!)


 自分たちの住む屋敷を見つめ、橋の上でさとりは祈る。

 果たして、二人の戦いはどんな結末を迎えるのか……

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