STAGE 5-17 地底解放作戦・2 堅陣顕現
妖怪一団は進撃を続ける。
武装した怨霊と戦闘を繰り返し、ひたすら前を向いて進み続けた。
「脇道に構うな! さとりの助言を思い出せ!」
時折道の影から奇襲を仕掛けたり、曲がり角での待ち伏せ、さらにあからさまな敗走を見せる怨霊もいたが目もくれない。この戦いの始まる前、古明地さとりが注意するよう念押ししていた。
「彼の用兵術は相当なものです。私なんて、本来なら足元にも及ばないでしょう。怨霊化で冴えを失っていますが、決して油断できるものじゃない」
「……地底は落ちたよ? あれで本気じゃないの?」
それは先日の会話。地底奪還作戦、軍議中の一幕だ。淡々と、けれども真剣にさとりが答える。
「真田幸村の実績の中には、彼我戦力差十倍以上の戦いで勝利した記録がありますよ。前線指揮、防衛地点や殺し間の作成、地形利用に人心掌握、戦術的心理誘導……加えて本人も指折りの戦闘技能持ちです。全力なら初手で私達は壊滅でしょう」
「あ、あはははは……いるんだねぇヤバい人間って」
「ですので――絶対に誘いに乗らないように。追撃を誘って罠にかかったところを、四方を封鎖して塵殺するとか……罵詈雑言で顔真っ赤にさせてから、突進した所を火縄銃で一斉射とか飛んできます。あぁそれと、地理地形の優位はないと思ってください。『地の利を得てる』と勘違いしたら、そこを突かれますよ?」
鬼たちが「流石に冗談だよな?」と引きつった表情を作るも、さとりの瞳は本気だった。改めて強敵であることを確かめ、全員が胸の内から慢心を捨てる。
「ここまで脅すような口調でしたが、しかし悪い事ばかりでもありません。彼は優れた戦術、戦略家です。故に――理に適った場所に陣を張る。ほどほどの広さを有し、かつ通行の便に優れ、地底の中心に近く、なおかつ建造物のあるエリアに。条件を満たすのは……ココです」
「嘘でしょさとり様!? そこって私たちの……」
古明地さとりが指さした地点。地底の地図上に示されたのは、なんと地霊殿の正面だ。特に彼女のペットたちの動揺は大きく、明るく元気なお空でさえ二の句を告げない。
「ここ以外ありえません。断言できます。なので作戦の軸は、『とにかく寄り道せずに、一直線で地霊殿を目指す』です。余計な事をすればするほど、真田幸村の領分でしょうから……正面から堂々と挑みましょう」
実際の所、さとりの危惧した局面はいくつかあった。けれども『罠だ』と理解していれば見抜くことは出来る。何にも惑わされることなく、地霊殿へ快進撃を続けた。
「そろそろだにゃー」
「……私達も準備する。真次、ヤマメ、いける?」
徐々にはっきり、大きく見えてくる地霊殿。敵の大将の膝下へ迫ったところで、キスメに名指しされた二人の出番だ。敵の本陣周辺で弾幕と弾幕が激突する最中、正門前で頷き合う。
「目星はつけた。俺はいける!」
「それじゃあ一つ、わたし達の妙技をご覧あれ!」
白衣と医者と、黒服の土蜘蛛が前面に躍り出る。彼らを妨害されぬよう皆が弾幕を張り、決戦前夜の特訓通りに二人が動いた。
「怪力『トラクタービーム』!」
「罠符『キャプチャーウェブ』!」
周囲に広がる建物の残骸へ、真次の銃から光が伸びる。不可思議な力で浮かび上がるソレらは、妖怪軍団を守るように持ちあがった。
大きな瓦礫が壁の様に連なり、怨霊たちを威圧する。効果時間切れを待つ鎧武者たちは、残骸の下側に蜘蛛の巣が張られているのを見た。
それは迂闊に踏み込んだ相手を絡め取る罠であり、これから起こる築城術の鍵だった。銃の光線が引き剥がれ、建材が次々と地面へ落下する。衝撃を受けた蜘蛛の巣が瓦礫を受け止め、獲物を竿巻きにするかのように絡み付く。頑丈な蜘蛛糸は千切れることなく、全ての落下物を包み込むと――瓦礫は巨大な塊となって、まるで城壁の様にそびえたっているではないか!
慌てて弾幕を打ち込んでも遅い。手ごろな建材を真次が引っ張り、ヤマメが糸で結合していく。妖怪軍団をぐるりと取り囲む防壁が、僅かな時間で完成した。
「これぞ、わたしたちの合体スペカ!」
「建符『地底一夜城』だっ!!」
即席とは思えぬ城壁が顕現する。怨霊軍と敵本陣の間に築かれた城は、壁と壁の小さな隙間から一方的に弾幕を展開。ヤマメと真次は次々と壁を追加して、支配領域を広げることに専念した。
「あの二人を倒せ! これ以上城を――」
「させないにゃーっ!」
「……背中が、がら空き」
建築班の二人をお燐とキスメが護衛する。猫の機動力と釣鐘落としの奇襲が追撃となり、分断された怨霊たちは混乱に包まれた。その隙に陣地が完成し、容易に崩せぬ堅牢な拠点と化す。
「上手く行ったね!」
「だな。後はここを維持するぞ! 弾幕を張って近寄らせるな!!」
妖怪の一団が大音声を上げ、無数の弾幕が地底の空を染め上げた。その最中、お燐とキスメはするりと抜け出し、先ほど別れたさとりとパルスィの下へ走っていく。これからの彼女たちの仕事は、伝令と遊撃だ。別れの声をかける間もなく、地底の街へ消えていく。
真次とヤマメ、そして地底妖怪のほとんどはこの場で戦闘継続。彼女が役割を終えるまで、この鉄火場で粘るのだ。
「準備はいいか御大将? あとは姐さん次第だ」
「わたし達の分まで、思いっきりブン殴ってやって!」
周囲の妖怪の声援に押され、護られていた彼女が悠々と歩いていく。待ちわびた決戦の刻に、彼女は猛禽の笑みを浮かべていた。
鬼の四天王 星熊勇儀。いざ決戦の地へ……出陣!
スペカ解説
築符「地底一夜城」
西本真次と黒谷ヤマメが二人で発動するスペルカード。
真次がトラクタービームでかき集めた材料を、ヤマメの蜘蛛糸でガッチリ括り付け、防壁を作り上げるスペルカード。5-15 で真次が練習していたのはコレです。




