STAGE 5-12 医者と鬼の隔てり
7月17日 16:00
古明地さとりが予測した通り、敵の怨霊たちは強襲を仕掛けてきた。
真次は限界まで加速し洞窟を目指す。しかし彼が到着したころには、既に大勢は決していた。
医者の彼とすれ違う怨霊たち。既に敵意は低く、軽く弾幕を飛ばしてくるものの、積極的に襲い掛かっては来なかった。まるで敗走しているような気配だ。
反撃もほどほどに避難所へ寄ると、かすかだが妖怪たちの歓声が耳に入る。さとりが危惧した局面は回避できたらしい。
ならばこれは反撃のチャンスだ。怨霊たちに、リスク択の代償を支払ってもらおう。
囮役の鬼たちも襲撃を察したのか、洞窟側に引き返してくる。挟み撃ちを受けた怨霊どもは数を減らしていった。
何割かは逃したが、敵の大将を倒せれば勝利も同然。一人捜索に飛び回った真次が出くわしたのは、槍使いの怨霊と勇儀が向き合う場面だった。
張りつめた一触即発の空気を感じ取り、すぐさま弾幕で援護する。飛び退る敵大将への追撃は、何故か勇儀に止められてしまった。
強引に進もうにも、襟首を掴まれてしまい動けない。片手で人ひとり掴むなぞ、『鬼の四天王』力の勇儀には造作もない。
「オイコラ放せよ! 絶好のチャンスだろ!?」
宙吊りにされた真次が抗議する。間違いなく敵なのに、一体何を躊躇っているのだろうか。あの相手に対する敵意なら、彼より勇儀の方が強いだろうに……
暴れるのをやめ、鬼の横顔を見つめる。まるで屈辱に耐えるような痛々しい表情に見えた。
無論彼女は傷ついていない。煤も汚れも屠った相手の物でしかない。だというのに、なんて顔をしている? 彼が言葉を紡ごうとした矢先、かぶせるように呟いた。
「……アンタにゃわからない。わからない事だ」
「何?」
事実として彼には、勇儀の心情に見当もつかない。他者を治す医者と、全力の闘争を求める鬼では価値観を共有できるはずもない。しばし無言のまま溝を眺めるしかない二人。かける言葉を見つけれないまま、気まずい空気で見つめ合う。
やがて他の鬼やさとりのペットも合流する。取り囲むように集まる彼らは、妙な気配を感じ口を挟めない。そんな中割って入ったのは、心を読める少女だった。
「なるほど、これはすれ違いもやむなしですね」
「……地底の主か?」
「はい。鬼の方々の協力もあって、ペットたち全員も逃げ出せました。代表として深く感謝しますわ」
「よせよ気持ち悪い。アンタらしくないよ」
苛立ちを隠さず、勇儀は荒れた口調で威圧する。周囲の妖怪たちはざわめいたが、さとりは怯まず二人へ語りかける。
「こういう口調にもなりますよ……『彼』の正体を告げるのならば」
「『彼』?」
「今地底を攻めた怨霊たち、その中心人物の正体ですよ。気になりませんか?」
ざわりと、その場にいた全員がどよめいた。真次も勇儀も顔色を変えている。
「分かったのかい!?」
「いやいやいや! さとりん一回も会ってないだろ!?」
「怨霊たちと皆の心を読み、情報を整理して分かりました」
「それだけで? 嘘ついてるんじゃないだろうね?」
剣呑な鬼の目つきに睨まれても、全くさとりは動じない。自信を持って堂々と宣言した。
「ヒントはいくつもありました。戦乱の時代の武将で、十文字槍の使い手。軍略に優れ、人望も厚い。そして徳川家への敵意を抱き、しかし全力を出し切れず果てた武将……」
今まで出た情報を羅列するさとり。残念ながら真次は歴史に詳しくない。鬼の四天王も同様で首を傾げるばかりだった。地霊殿の主は肩を竦める。
「分からないですか……有名なのですけどね。続きは皆と合流してからで良いですか? 何度も同じ話をしたくないので」
「「お、おぅ」」
医者と鬼が困惑したまま硬直する。果たして今回の、怨霊の正体は誰なのか……
7月17日 16:29
さとり「読者の皆様だけに特別ヒントを。『彼』の二つ名が何だったか? そして今回の異変の特徴は何だったか? この辺りを考慮すると良いかも!?」
勇儀「アンタ、誰に向かって話してるんだい……?」




