表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/216

STAGE 5-5 お燐の使命

 酷い、夢を見た。

 いつもと変わらない地底が、炎に包まれる夢……

 地霊殿の仲間たちも、混乱に包まれる。けれども自分たちの主は冷静だった。


「みんながいるか確かめ合って! 地霊殿から逃げ出します。その後は……近くの洞穴に身を潜めます。それとお空……あなたの弾幕は目立つから、攻撃しないで!」

「うにゅ!」


 仲間の一人、地獄鴉のお空がぴしっ! と答える。彼女の力は強力だが、故に周囲を巻き込みかねない。主も言った通り攻撃も派手で、敵を呼び寄せてしまうだろう。そして、乱戦と混乱が起これば、仲間全員で脱出するのは難しくなってしまう……


「そういうことです」


 心を読んだ地霊殿の主が、そのまま視線を合わせて続ける。


「お燐……やっぱりあなたが適任みたいね」

「なんの話ですかにゃ?」

「あなたには一人、別行動をとってもらいます。以前の異変のように……お願い」


 脳裏に奔ったのは、かつて地底の異変の記憶。その際お燐は機転を利かせて、地上へ異変を伝えた事があるのだ。主人がお燐に求めているのは、誰かの助けを呼んでくること……言うまでもなく、大役である。


「ふふ、そんなに緊張しないで。お燐なら大丈夫」

「さとり様……!」


 頭を撫でて、人の心を読む主人は微笑んだ。全幅の信頼を受けたお燐は、決意を胸に仲間たちと分かれる。


「お空! さとり様を頼むにゃ!」

「うん!」


 明瞭なお空の返事を背に、お燐は一人地底の町へ飛び込む。

 いつも見ていた平穏な町並みの影もない。周囲にいるのは、槍や弓、甲冑で武装した怨霊たちだ。

 ――お燐は、怨霊の姿を見て絶句する。


(なんで……なんで地底の怨霊たちが!?)


 戦国時代の武具を用いて、地底を戦地に変えたのは『地底に元々住んでいた怨霊たち』だった。

 一瞬足を止めた矢先、武装した怨霊と視線が合う。怨霊たちもお燐を見て絶句し、動きを止めていた。


「お燐……さん?」

「あ、あんたら……なんで地底をこんな風にするにゃ!?」


 お燐にはわからない。お燐と怨霊の関係は、世間話をしたり、数が増えたか減ったかを軽く眺めたり……深い関わりでないものの、憎み合い、敵対することは信じられなかった。

 彼らも同様なのか、口惜しげにお燐へ語る。


「…………戦神様に当てられた」

「許しは乞わぬ」

「……あなたには世話になった。恨みはない」

「だから、早く地底から出ていけ」


 怨霊たちの言霊に、お燐を責める意図はない。成り行きで敵対してしまった相手への気づかいが感じられる。洗脳されている訳ではないのか?


「……何をしている」


 初めて耳にする鋭い敵意に、お燐は反射的に飛び退いた。『彼』の弾幕は火車の脇腹を捉え、彼女は膝をついてしまう。

 武装した怨霊たちは、戸惑った様子で『彼』を見つめた。


「戦神様……お待ちください! 彼女は……」

「愚か者っ! 戦場いくさば出会でおうたら、血を分けた親兄弟であっても敵ぞ!?」

「しかし恐れながら! わたくしたち地底の怨霊は、お燐とはそれなりに知った仲でして……!」


 食い下がる怨霊たち。彼らを駆り立てたのは、目の前にいる槍使いの『彼』に違いない。お燐に覚えのない怨霊が、他の怨霊たちを煽動したのだ。

 痛みをこらえ、よろよろと『彼』から遠ざかる少女。彼女を追撃する怨霊はいない。『彼』以外はお燐に殺意を持てず、『彼』は戦闘よりも地底の怨霊を優先した。遠ざかる会話を、おぼろげにお燐は耳にする。


「……そこまで申せるのなら、よい。情を一切捨てよとは言わぬ。拙者も未熟故、結局情は捨てきれなんだ」

「戦神様……!」

「なれど、これきりにせよ。知った顔にう度、躊躇ためろうていては戦にならぬ。各々心に刻み、一層の覚悟を拙者せっしゃは望む!」

「「「「ははっ!!」」」」


 危うい足取りの彼女は、見つかりにくくするため黒い猫へ化けた。朦朧とする意識の中、無意識が彼女を地上方面へと導く。奇妙な匂いにつられて歩き、彼女の意識は男の足元で途切れ――昏々と丸一日眠り続けた。

 

「ぅうんっ……はっ!?」


 地霊殿と異なる天井。即興で組み立てた小屋と、薄明りの下でお燐は目覚める。

 気配を察した男が、明るい声で語りかけた。


「お、やっと目が覚めたか」

「ここは……?」

「地底から脱出した連中のたまり場だ。勇儀って鬼が中心になって、地底奪還を狙って力をためてる。とりあえず、ここにいれば安全だ」


 何故人間の男がここにいるのかわからない。どうもこの様子だと、味方ではあるようだ。


「怪我の方は治療したが、まだ動き回らない方がいい」

「そうは、いかないにゃ」


 かけられたボロ布から抜け出し、地上に進もうとするお燐。もつれる足、軋む肉体を強引に意志の力で動かそうとするも、彼はやんわりと手で進路を遮った。


「待て待て! 動くなっつってるだろ!?」

「こうしてる間にも、さとり様やみんなは……っつ、せめて地上の人間に助けを」

「無理だ。そっちも異変中で助ける余裕はねぇ。ともかく嬢ちゃん、話を聞かせてくれないか? 俺も色々、伝えるべき事がある」


 揺るがぬ意志を込めた声と共に、いたわる手つきで男はお燐を座らせる。もどかしさに身を焦がし、胸中に焦燥を募らせるお燐へ、彼は説得するかのように現状を語った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ