STAGE 5-3 生存者の集落
7月13日 23:57
地底と地上の中間地点、黒谷ヤマメの住む洞穴は、普段と違う喧噪に包まれていた。
キスメと、白衣の男と、認識できない誰かに助けられて、あるいは自力で地底脱出を果たした妖怪たちが集まっている。
突如として住処を奪われ、地底の妖怪たちは疲れた、暗い顔つきで不安に苛まれている。それでも、生き残りの中に知った顔があれば、互いの無事を喜ぶ者もいた。情報を交換したり、これからどう方針を取るべきか話し合う妖怪もいる。負傷者を互いに手当し合う姿もあった。
「勇儀……元気出してよ」
「…………」
宇治の橋姫が付きっきりで、鬼の四天王の様子を見ている。当の本人は不服そうだが、これでも最初より落ち着いていた。
無様に生き残った。生き恥を晒したと悔やんだ勇儀だが、鬼の飲み仲間と再会したり、地底の惨状を聞いているうちに、心情に変化が訪れていた。ふつふつとした怒りと共に、逃がすために飛び込んできた、一人の馬鹿の言葉が反響する。
(『やられっぱなしでいいのか』……ね。確かに、良くない)
初戦は完敗。生き残りこそ多数だが、怨霊如きに逃げ惑う自分たちが情けない。誰もがここに逃げ込む直前、侵略された町の光景を、瞳に焼き付けていた。
変わらない日常は崩壊し、いつもある町並みが紅蓮に包まれる。馴染みの店も、自分の家も、見知らぬ侵略者どもに蹂躙され、なのに立ちつくすしか出来ないのは、途方もなく惨めだった。それでも生き延びる道を選んだのは、多くの妖怪がある決意を抱いたからだろう。
――この町を、自分たちの町を取り戻す――
奪われたままじゃ終われない。協調性がなく、荒ぐれ者の多い地底の妖怪だが、生き残りたちは感情を共有していた。我が物顔で居座る怨霊をブン殴って、壊れてしまった日常を取り返したい。拳を固く握る勇儀に、トントコ材木の鳴る音が響いた。
「ほいよっ! どんどん材料持ってきておくれ~!」
努めて明るく振る舞うのは、この場所を良く知る黒谷ヤマメだ。土蜘蛛の彼女は建築が得意。集まった皆のために、せっせと小屋を立てていた。気骨のある力自慢の妖怪は、彼女を手伝い木材を運んでいる。
自分にもまだ、出来ることはある。うなだれ、肩を落としていた勇儀は立ち上がり、ヤマメが必要とする材木を運び出した。
「いやぁ助かる……って、星熊勇儀じゃないか! 無事だったんだね!」
「……あぁ。突然割り込んできた男のせいで、死に損なった」
「それって白衣の?」
「知り合いかい?」
「いいや。なんでも今、地上が異変中みたいで……次狙われるのが地底って知って、飛んできたみたい。そういや姿が見えないね、まさか……」
あの恰好は人目を引く。戻ってきているなら、すぐに気がつくはずだが……少なくとも二人の視界に入っていない。逃げ損ねたのだろうか?
不穏に包まれる二人の沈黙に、嫉妬した一人の女性がぱるぱる迫った。
「……妬ましい。妬ましいわ」
「ぅおっと!? ああ! 橋姫も無事……って全身煤だらけじゃないかい!? 服変えて来な!」
「……変えの服なんて持ってないわよ」
「あっ……その、ごめん」
急すぎる出来事故、ほとんどの妖怪は荷物を持ちだせていない。替えの服さえ貴重なありまさだった。
「持つ者の余裕ね! 妬ましいわ!!」
「はは……いや悪かったよ。でも、なんでかな? いつも通りの橋姫見て、なんかわたし、安心しちゃったよ」
「その心の広さが妬ましいわ……っ!」
「どうしろってんだい!?」
彼女が嫉妬心にかられる姿を見て、周囲の妖怪たちからも苦笑が漏れた。皆の顔に疲労は滲んでいる。が、変わらないパルスィを見て安堵したのは、ヤマメだけではないらしい。
生暖かい視線に晒されたパルスィは、気恥ずかしいのか顔を赤くして「ね、ね、妬ましいわぁっ!!」と叫んで、どこかに行ってしまう。
その声を聴いた彼は、疲れ果てた足を引きずって、こちらに向けて早足で歩いてきた。
「何かあったのか? 大丈夫か!?」
白衣を土埃で汚して、戦地から人間の彼が帰還した。彼はキスメの桶を抱えており、顔を出しているキスメもボロボロである。互いに無理するなと言い合い、誰かを逃がす手伝いをしていた二人は、両者ともに無茶をした様子だった。
「二人とも! 無事だったんだね!」
「……なんとかね」
「俺たちだけだったら危なかったがな……なんか、見えないとこから弾幕が飛んできて助かった。ありゃなんだったんだ?」
「古明地の妹だろうね。気まぐれなヤツだけど、たまたま助けられたんだろう。運がいいね、アンタは」
拗ねた様子で、勇儀が突っかかる。その瞳には憤懣がメラメラと燃えており、静かな怒りを宿していた。大きなトラブルになる前に、ヤマメが「まぁまぁまぁ!」と仲裁する。
「わたしたちは今回の異変を良く知らない。あんたは地底の事を良く知らない。ここはどうだい? お互いの知ってる事を、洗いざらい吐いちまうってのは」
「……ちっ、それで手打ちにしてやる」
「……なんで機嫌悪いんだ?」
「アンタにはわからないことだよ」
「タンマタンマ! 喧嘩するにしても、話し合ってからね! ね!」
険悪な空気を何とか断ち切り、ヤマメは人間と勇儀の間を取り持つと、耳ざとい妖怪たちもなんだろう? と集まってくる。丁度いい機会だと、今地底で起きている事について翌日、皆で話し合う場を設けることになった……
7月14日 00:18




