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STAGE 4-24 久侘歌の審判

7月13日 16:09

 


少女の放つ弾幕は、さほど激しくはない。

 恐らく実力を見極めるために、ある程度抑えているのだろう。彼女の本気とは思えない。それが肌で感じ取れた。

 幻想入りから日が浅いとはいえ、彼には藤原妹紅、博麗霊夢、霧雨魔理沙との戦闘経験がある。軽くだが永遠亭の面々とも戦っており、経験した弾幕戦の質は良い。相手の力加減を測り、牽制で被弾しないぐらいには、真次も成長していた。

 悠々避ける青年の動きを見てか、ヒヨコの髪飾りを翻して、少女は一枚目を宣言した。


「水符『水配りの試練』」


 しぶきか、渦か、大量の粒弾が真次に降り注ぐ。色とりどりの弾幕だが、しかし彼はそのスペルカードが、規則的に飛来する弾幕であることに気がついた。

 攻撃パターンが決まっているのなら、回避すべき行動パターンも決まっている。最初こそ慌てたが、真次は三回目でほぼ見切って見せた。


「む、まだ余裕がありそうですね?」

「やっぱり手加減してたか。もうちょいギア上げて貰っても大丈夫だぜ」

「では――光符『見渡しの試練』」


 ぞわ、と背筋に奔る悪寒が、彼に前進を命じる。程なくして彼の背面から、逆流するかのように弾幕が流れ飛んだ。

 同時に、少女の方面から弾丸が飛来する。だが露骨に外れて飛ぶ弾幕は、彼でなくても嫌な予感がしただろう。しばらく飛翔した弾幕は、後ろで拡散して狙ってくる。


(視覚外から攻撃するタイプか……!)


 弾幕を背に戦うのは、不慣れな彼には厳しいものがある。けれども、少女からの攻撃が、直撃の軌道を取っていないことに気がついた。真正面の近場なら、比較的安全かもしれない。

 近距離用のスペカも真次は保持しているが、それを使うのは躊躇われた。爆風と反動が大きく、下手に使うと背後からの攻撃を被弾しかねない。

 必要なのは、スマートな近距離……いや、近接戦の札と判断し、妖夢を見てから温めていたスペカをここで切った。


「剣弾『フォトンサーベル』」

「!」


 銃口から、太く短い光が伸びる。そのまま近距離でもつれあい、後ろから来る弾幕を避けつつ、格闘の間合いで真次は攻めた。

 ブォンッ! と実体を持たない剣が、少女の髪を掠める。動きの鈍かった彼女は、突如としてスペカを解除、通常の弾幕に切り替えてきた。安全だった近距離が一転、極めて危険な位置へと変わる。


「危ねっ!」


 真次もスペカを解除し、急加速をかけて後退する。すだれのように飛ぶ弾幕の間に入り、小さな丸玉も丁寧に潜って捌く。再び距離を開けての射撃戦が続いた。一進一退の攻防を繰り返した二人だが、少女は再び試練を与える。


「鬼符『鬼渡りの試練』」


 いくつもの鬼火が辺りに漂う。ふわふわと不規則に、しかし真次を大雑把に狙いながら弾幕とヒトダマが襲い掛かった。

 ならば叩き落としてしまえば攻撃の手を緩められるはず。そう考えた真次は、本体ではなく周囲を狙ったが……このスペルカードにおいては悪手である。

 撃破した鬼火から、断末魔の如く弾幕が飛んでくる。小さく身をよじって避けたものの、額には汗が滲んでいた。


(撃ち返し弾か! 厄介な……!)


 高難易度のシューティング・ゲームにおける、敵キャラクターの置き土産。死に際の反撃と侮ってはいけない。多少なりとも嗜んでいる真次には、その危険性を十二分に理解していた。

 さらに、悪い状況は続く。回避に集中している最中に、彼女は鬼火を追加で召喚しているではないか。これでは雑魚を撃破してもきりがない。かといって放置すれば、弾幕の密度が上がる一方だろう。

 倒しても弾幕、倒さなくても弾幕。実力が伴っているのなら……一気に押し切ったり、弾幕を避け続ける選択肢も取れるが、青年にそこまでの技量はない。けれど、このまま手を打たなければジリープアーだ。圧殺される未来が目に見えている。


(どうする!? 考えろ!)


 弾丸を打ちながら飛ぶ『アサルトスパーク』では、一時凌ぎは出来るだろう。だが雑魚をうち漏らして、間に入られたら一瞬で詰みだ。

『スモークランチャー』……煙幕弾で視界を遮っても、数の暴力で潰される。花火玉や空中炸裂弾では、倒しすぎて撃ち返しが殺到するだろう。

 ひたすら思考を重ねたが、既存のスペカでの打開は難しい。力試しでこれでは――と、諦めかけた刹那、真次の頭に電流が走った。

 そうだ。なぜこんな簡単な回答を即座に用意できなかったのだ?

 倒すと危険、放置も危険なら――倒さずに無力化してしまえばいい!


「痺弾『ショックラバーバレット』!」


 宣言した直後、効果が変質した弾丸を鬼火目がけて発射した。

 あからさまな愚行に映る攻撃は、着弾時に『パチンッ』と快音を立てて響く。そのまま、鬼火は爆ぜず、しかし弾幕も張らなくなってしまった。

 異変を目にした少女が狼狽する。真次が次々と鬼火を落とす。倒していないからか増援も鈍く、確実に弾幕の密度が落ちていく。

 ――真次のこのスペルカードは、電流を流したゴム弾を発射するスペルカードだ。元ネタは暴徒鎮圧用に開発を求められた、非殺傷の銃弾の一つである。『スタンガンの効果を銃弾で発揮する』とも表現できるその弾丸は、相手を倒さず無力化スタンするにはぴったりだ。

 軒並み鬼火を黙らせた真次は、相手を睨んでこそいたが、追撃を躊躇う。

 既に少女に打つ手はない。実力を測るための戦いなら、必要以上に叩くのはマナー違反だろう。時折湧いて出る火の玉を撃ち抜きながら、彼女の次の一手を待った。

 しかし少女は、それ以上の攻撃を控えた。てっきり次の弾幕を警戒していた分、拍子抜けである。呆けた様子の真次へ、溜息と共に彼女は告げた。


「その心遣いは美徳ですけど……旧地獄の住人には危険です。きっちり倒さないと、時と場合によっては命にかかわりますよ?」

「あー……まぁ、相手は選ぶさ」

「先程の無力化の弾丸といい、どうにもあなたの攻撃には殺意が足りない。それを除けば、悪くない手並みなのですが」

「え、じゃあ失格だったりするのか!?」


 それは、まずい。今更ながら慌てふためく真次だが、彼女は首をひねるばかりだった。


「うーん……私としては判断に迷う所です。ここは閻魔様に任せましょう――ちょうど戻って来られたようですから」


 戦いに夢中だった真次は、閻魔様が帰ってきたことを察せなかった。既に近場まで来ているらしく、審判役を果たした彼女が地獄の方に進んでいく。

 いずれにせよ、閻魔の判断がカギを握るのだろう。河原へ降り、乱れた衣服を正して、真次もまた閻魔様の下へ歩を進めた。



7月13日 16:58

スペルカード解説


剣弾「フォトンサーベル」

銃口から光の剣を伸ばすスペルカード。

もしかして:レーザーブレード ライトセーバー


もう一つの方は、本編で解説済みですので割愛させていただきますm(__)m

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