STAGE 4-17 妖刀の鍛冶師
「なんと! ……大したものだな」
どの口が、それを言うのか。散々ずるい手を行使しておいて、今更妖夢の剣術を称賛するのか。剣士の頭の中で、プチプチと糸が切れていく音がする。飛びかかる寸前で思いとどまれたのは、怨霊の目が寂しげに何かを訴えていたからかもしれない。
「全ての者が、君のように在れたなら……私の一族も少しは浮かばれたろうに……」
後悔と、無念と、哀しみを含んだ声色に虚を突かれた。怨霊らしい言い草でも、何故だか妖夢には他人事に思えず、あえて次の言葉を待つ。
さざ波の様にそよぐ風の音が、向き合う二人の間に流れる。立ち止まったままの怨霊は、小さく自嘲をこぼして妖夢と視線を合わせた。
「いや……今更言っても仕方ないな。なるようになってしまっただけ。――さぁ、待たせたな。妖刀に振るわれず、己が身の一部として取り込み、武を重ねた剣士殿よ。心使いは痛み入るが、我々に情けは無用だ」
「……」
いったい何様なのだろう? この女は。自身の行動が、剣士の神経をどれほど逆撫でするかを理解していないのか? 返事を期待せず怨霊に問いかける。
「あなたは何者です? 剣士でないと言いましたね?」
「然り。私は剣士ではない……このあまねく妖刀を鍛えた者だ。剣士殿の刀は我が一族の品ではないが、相当な鍛冶師の作と見える。数合で折れると踏んでいたのだが……いやはや良い腕だ。使い手も見事故、刀も本望であろう」
称賛の矛先は妖夢だけに留まらず、彼女が握る二つの刀にも及んだ。剣士が感じていた感性のズレは、作る者と使う者の差だったのだ。
その目の憎しみ、哀しみの根は何なのか。怨霊が握る武具も、純粋な刀としても業物と呼んで差し支えない。一級の妖刀であると同時に、一級の刀でもあるなら、わざわざ妖刀を拵える必要はないはずだ。彼女は一体誰なのだろう?
迷う妖夢は、首を振った。
既に刀は抜かれている。どこの誰であろうと、この怨霊は敵なのだ。切り捨てる以外の選択肢は、お互いにない。
ならばせめて、苦しまぬよう一撃で決める。迷いを断ち切る刀を握り、二刀流の少女は大きく息を吸って――鋭く吐きだすと同時に、もう一度切りかかった。
「天星剣『涅槃寂静の如し』」
色と音を消し去って、妖夢の斬撃が乱れ飛んだ。本気の剣術を受け、じりじりと下がりながら女は応対する。それでも、二刀流の手数に押され、浅い傷をあちこちに負った怨霊は、まさかの手段に出た。直刀を右手で握り、致命的な隙が生じる前に女は宣言する。
「妖刀『殺妖』」
空いた左手に短刀が出現。咄嗟の二刀流で斬撃の雨を受け流す構えだ。見るに堪えないその動きでも、妖刀の性能が弾幕を押し戻していく。
されど、剣士にとっては十分な隙だった。弾幕の防御に手いっぱいの怨霊へ、瞬き一瞬にして懐へ潜り込む。女が気づいても……もう遅い。切った幽霊を成仏させる刀、白楼剣をめい一杯振り切り、その身体を袈裟に引き裂いた――!
スペカ解説
妖刀「殺妖」(あやめあやかし)
妖怪に対して、強い殺傷能力を発現する妖刀。一応名前は1-14でも出ています。紅魔館周辺で、以前リグルがやられたのはこの刀。
妖夢は半人半霊ですので、効果対象外。今回は妖刀の効力より、防御用に使用した形ですね。




