stage 4-14 その頃、妖夢は
時は、真次が幽々子に見つかる前まで遡る。
庭の雑草むしりに、落ち葉の掃き掃除、剣の稽古と、いつもの仕事を一通り終えた妖夢は、額の汗をぬぐった。
午前中にすべきことはこれで良し。後は真次の様子を見て、昼食にしようと足を速めた途端、それを感知した。
禍々しい、怨霊の気配。巧妙に隠されてこそいるが、日々剣の鍛錬を積んだ彼女には察することが出来た。昨日の真次との会話を、妖夢は思い出す。
“今回異変を起こしている奴らは怨霊だ”
“あいつらの攻撃は人間以外でも怪我が治りにくい”
“人間はあいつらに攻撃されると呪われる”
他にも幹部に彼の兄と、妖刀の使い手がいるらしい。半人半霊の妖夢が、呪いの対象なのかは微妙なところだが、このまま見過ごすことは不可能だろう。敵はこの白玉楼を目指しているのか、確実に気配が迫っていた。
幽々子様の従者として、不届きものの狼藉を許すわけにはいかない。腰に差した二本の刀、楼観剣と白楼剣の調子を確かめ、いつでも抜けるような体制で、門の外へと駆けていく。
いた! 遠巻きに刀を抜いた、一人の女性の怨霊が浮いている。剣呑な目つきで妖夢を睨み、刀を掲げて怨霊は叫ぶ。
「どけ! すぐに道を開けろ!! 鬼籍を私に寄越すのだ!!」
「断る! あなたこそすぐに引き返しなさい! 今なら見逃します」
「ふざけるな! ようやく見えた怨敵への道筋……ここで断たれてなるものか!」
瞳を怒らせ、背中から黒く澱んだ霊力を滾らせて、女は刀を構える。波打つような波紋を持つその刀は、一目で上質な一品だと判別がついた。高名な鍛冶師が鍛えた品質のソレは、冷たい刃物のような――いや、刃物であるからこそ一層、研ぎ澄まされた怖気を発していた。
アレは妖刀だ。それも、刀としても妖刀としても、特級品の業物だ。妖夢が携行している二本の刀と勝るとも劣らない。得物の質だけで勝負は決まらないが、彼女もまた剣士なのだろうか?
「警告はしました。容赦はしません!」
迷うのは後でいい。彼女は敵は違いないのだから――この場で切り捨てると決めた妖夢は、楼観剣と白楼剣を抜き、二刀を構える。白玉楼の門前で、二人の戦いの火ぶたが切って落とされた。




