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STAGE 4-13 駆逐してやる⋯⋯汚れを⋯⋯一片残らず!

突 然 の 遊 び 回

7月13日 10:00



 昨日の迂闊な言動によって、真次は白玉楼に泊まるのに少々時間を取った。なんとか宿泊にまでこぎつけたが、不躾な振る舞いの代償として、様々な家事を積極的に手伝うことになった。

 昨日と今日の食事の調理を手伝い、風呂の湯沸かし――全くの未経験なのでかなり手こずった――なとを済ませ、今日はその風呂釜掃除を仰せつかったのだ。


「結構デカいな……」

「隅から隅まで、後でみっちり調べますからね? サボらないように!」

「わ、分かってるって!」


 彼女の採点はかなり厳しい。風呂沸かしも色々注意されてしまい正直へこんだ。幽々子はいつもと違う人間が沸かす湯を楽しんでくれたようだが……昨日の一幕を見るに、彼女は甘い――いや緩い気質なのだろう。

 

「では……道具はこちらに置いておきます」


 そうして妖夢が用意したのは、長細く茶色の繊維質な物体と、桶に溜め込まれた乳白色の謎の液体だ。どちらも真次には見慣れない物だが、たわしと洗剤か? 一応確認もかねて尋ねてみる。


「えーと、これは?」

「? へちまタワシと、お米のとぎ汁ですけど」

「ちょっと何言ってるかわかんない」


 つい真顔で返してしまった。本当に真次には意味がわからなかったから。へちまのタワシも、お米のとぎ汁が洗剤の代わりなんて、考えたこともない。


「これで汚れ落とせるのか……?」

「大丈夫ですよ。あなたが手を抜かなければ、ですが」

「腰に手を当てないでくれよ……」


 冗談だろう。冗談だと思いたい。冗談であってくれ。胸の内で三段活用しても、刀に手を当てている妖夢の表情は、本気であることを物語っていた。

 

「私も庭の手入れがありますから、ずっとは居ません。でも時折様子を見に来ますからね?」

「アッハイ、喜んで掃除させていただきます!」


 医者の先輩方でも厳しい人はいたが、それでも妖夢よりは恐ろしくなかった。背筋を伸ばして、真面目に洗おうと心に誓う。もし満足いかない出来だったら、腰の刀で切られてしまいそうだ。

 しかし……どうしたものかと真次は考えた。とりあえず、へちまタワシを手に取りその形状を観察する。網目状になった繊維は一見脆そうだが、軽く引っ張っても千切れることはない。意外にしっかりした作りのソレは、なるほど確かにタワシだった。

 けれども、けれどもだ。お米のとぎ汁で磨くのは、現代暮らしには抵抗が大きい。いつもは流して捨てる液体を、掃除に使おうなんてことは思いもよらないからだ。しばしの間悩んだ真次だが、妖夢が指示したことだと自分に言い聞かせ、彼は桶の中の液体を、空になった風呂釜の中へぶちまけた。

 泡立つことも、汚れに取りつくこともない液体は、やはり洗剤とは思えない。不安が募るけれど、物は試しと側面を擦る。流石に数回で汚れは落ちなかったが、何度か繰り返していると、確かに桶が綺麗になっているような気がする。

 効果があることに安心した真次は、後はせっせと風呂掃除に励む。着実に汚れが減っていくのを見ると、掃除は止まらなくなるものだ。始めるまでやる気が起きないのに、いざ掃除を始めると、隅から隅までぴかぴかにしたくなる。しまいには妙なテンションになって、鼻歌を口ずさみ、しまいには奇妙な言葉まで口にしながら、清掃人は汚れと戦うのだ。


「ひゃっはー! 汚物は消毒だーっ!!」

「うふふ、元気で何よりだわ~」


 突然降ってかかった声に、真次はぎょっとなって振り向いた。


「えっ!? ゆ、ゆゆゆ幽々子!? いつからそこに!?」

「鼻歌が聞こえてからよ~」


 一人勝手なハイテンションを目撃され、青年は顔を赤くした。見に来るのが妖夢だけだと思い込んでいたが、うるさくすれば彼女が気になるのは道理だった。


「す、すまない幽々子! 聞こえてたか?」

「何も~? 兎おいしいとか、赤とんぼなんて知らないわ~」

「ばっちし覚えてんじゃん!?」


 道具を投げ捨て、両手で顔を隠して真次は消え入りそうな声で哀願する。


「頼む、誰にも言わないでくれ……後生だから」

「どうしようかしらね~?」

「特に妖夢とか、妖夢とか、妖夢とかには言わないでくれよ!?」

「あらあら、でも仕事は完璧じゃなーい」


 言われて、浴室を見渡せば細かなところにまで手を入れている。汚れを落としていると、ついつい別の物の汚れまで気になり、次々と手を加えていて……気が付けば大掃除とそう変わらない規模で、青年は風呂掃除をしていたようだ。


「あれ……ここまでしなくて良かったのか?」

「私たちは助かるから、いくらでも歓迎よ。でもそろそろ休憩しましょうよ」

「……後で妖夢に怒られないか?」

「へいきヘーキ」


 幽々子の手招きに応じ、道具を置いて浴室を去る。

 ――時計を見ると、ずいぶんと時間が経っているのに、一度も妖夢が様子見に来なかったことが、少しだけ気がかりだった。



7月13日 12:22

へちまの実は成熟すると固い繊維質になり、昔は水につけて中身を腐らせ、繊維だけを取り出してタワシにしていたそうです。(なので作る時とてもクサイらしい)お米のとぎ汁はじいちゃん……失礼、祖父が肥料代わりに土に撒いていましたが、掃除に使えるのは知らなかった。活動報告に雑感書いておきますので、暇な方はどうぞー

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