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STAGE 4-12 親しくないのに礼儀を欠けば

あけましておめでとうございます! 投稿が遅めになってしまいましたが、今年もどうぞよろしくお願いいたします!!

7月12日 18:09



「先程の戦いっぷり、確かに見事でした」

「はい」


 屋敷、『白玉楼』の前で真次は正坐している。称賛の言葉を紡いだのは魂魄 妖夢 その人だが、視線が鋭く据わっていた。室内からちらりと幽々子が視線を覗かせているが、みたらし団子とお茶を啜っていて、あくまで二人のやりとりを傍観するつもりのようだ。


「異変解決のために動く姿勢も、嫌いではありません」

「はい」

「疲労しているのも理解できますし、白玉楼で休みたくなるのは当然でしょう」

「はい」


 鞘に収まってるとはいえ、実剣を片手に周囲をうろつかれ……しかも彼女はかなり鍛えているのか、威圧感が尋常ではない。弾幕戦を経験済みだから良かったが、幻想郷来た直後にこの重圧を受けたら気絶もあり得ただろう。真次は本気でそう思った。


「私としても良い見稽古になったので、それぐらいはいいかな? とは思っています」

「……はい」


 彼の望む展開をほのめかした妖夢だが、表情は硬いままなのを悟って、真次は浮ついた発言を喉から引っ込める。そもそも今回の事は、真次の甘さが招いたことなのだから。


「ですが……流石に初対面の相手へ、さも軽い口調で『泊めてくれ』はないでしょう? 女性二人しかいない屋敷にですよ?」

「ハイ……面目次第もございません……」


 親しき仲にも礼儀ありと言う。残念なことに、二人とはさほど仲を深めていない上、突然要求するにはあまりに図々しい事柄だった。妖夢に叱られた今なら、彼はそのことを認め、反省することが出来る。

 いったいぜんたい、なんでこんな簡単な事さえ見落としてしまったのか。幻想郷で泊まった箇所を思い返していくと、すぐにその答えは得られた。

 永遠亭は、突然入り込んだとはいえ急患である藍を連れていた。職が近いこともあって、理解と共感を得られたのだろう。

 命連寺では、気絶こそしてしまったが……やはり医者としての活動が、命連寺の面々に受け入れられた形だ。

 アリスの家は……彼には知りえない事だが、アリスは魔法の森に迷い込んだ人間を、館に宿泊させることに抵抗がない人物だった。ましてや協力的だった真次になら、拒むはずもない。

 紅魔館は……真次ではなく、彼の弟である参真が借りを作っていたらしい。彼本人も気に入られたのか、やはり拒絶されることはなかった。

 ――つまり幻想郷に来てから、どこもかしこも西本 真次を泊めるのに抵抗が少ない状況があったのだ。これは彼にとって幸運だったが、同時に今回の不運にも繋がった。一度も拒否されたことがない経験から『こちらの世界では人を泊めることに抵抗がない』と勘違いしたのだ。


「その……すまない。人様に頼むのに言い方も態度も悪かった。調子に乗ってたんだろうな……」

「分かればいいのです。分かれば」


 しょげる真次に、妖夢は反省の色を見出したのか、険しい顔はそのままでも、身体の緊張を緩めた。改めて姿勢を正した真次は、ゆっくりと頭を下げて、懇願した。


「今晩は永遠亭に帰れそうにありません。よろしければ、白玉楼に泊めて頂けないでしょうかっ!?」

「いいわよ~」


 緊迫した二人のやりとりを、屋敷の主のさも気楽な声が粉々に打ち砕いた。思わず「幽々子様っ!」と、妖夢が鋭く訴えたが、幽々子はどこ吹く風とのんびり答える。


「部屋はたくさんあるし、全然かまわないでしょう? あなたも、そんなに嫌じゃないって自分で言ったじゃない」

「そういうことではありません! きちんと彼が筋を通すかどうか見極めてからでなければ……」

「今ので十分でしょう。妖夢は心配性なのよ~」

「幽々子様は甘すぎます!」


 口論を遠目で眺める真次は、突然蚊帳の外に放り出されたような気分だ。彼女たちの熱が収まるのを待ってから、もう一度控えめに尋ねる。


「え、えーと……俺は泊まってもいいんですかね……? 簡単な家事ぐらいなら手伝うつもりでいるんだが」

「いいわよ~」

「……ああもぅ! 仕方がないですね!! しかし自分から申し出たのです。半端な真似は許しませんよ!」


 怒鳴るように、当たり散らすように、宿泊を受け入れてもらえた真次。

 ややこしくなってしまった現状を反省し、彼は今後注意せねばと胸に刻み込んだ。



 7月12日 18:22

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