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STAGE 4-11 決着と、正体と

今年最後の投稿なので、増量しておきましたよん

 7月12日 16:58



 やはり、無理があったのだ。魔理沙のスペルカードを被弾し、墜落しつつある真次は無茶をした自分に毒ついた。

『近距離専用の高火力なスペカ』と『銃を投げてその位置に瞬間移動するスペカ』のハイブリットは、真次の想像以上の効果を上げた。思いつきにしてはなかなかの完成度だったが、一か所致命的な見落としがあったのだ。

 幻想郷に来て日の浅い自分が、二枚のスペカを無理やり一度に使えばどうなるか……結論から言うと、凄まじい勢いで真次の内側から霊力だか魔力だが知らないが、ともかく神秘を扱うためのエネルギーを消費した。二枚を別々に使うのと同じぐらいと踏んでいたのに、その三倍は消耗しただろう。

 だから、このスペカで決着をつける必要性が出てしまった。自転車操業よろしくケツに火の点いた真次は、この一枚で思いつくパターンをぶつけたが……思考がかみ合ってしまう魔理沙では、対応されてしまった。

 最後の被弾も無様なもので、疲労と消耗が判断を鈍らせ、ワープ移動の頻発が真次の空間認識を誤らせ、避けるつもりで飛んだら、レーザーに自分から突っ込んでいた。

 地面にぶつかる寸前に、少しだけ勢いを減殺できたが、それで衝撃を防ぎきれるはずもない。ぐぇ! と太ったカエルみたいな鳴声が肺から洩れて、白衣を土で汚しながら真次は横たわった。


「……あ、あれ? 勝った……のか? 私」

「こんな状況で誰が、俺が勝ったなんて思えるんだよ……」


 負けた悔しさから、らしくない嫌味が青年の口から飛び出す。自分自身としても、せめてもう少し、格好のつく負け方をしたかった。無理に新しいことに挑んで、ド派手にやらかしたようなものだ。


「電撃球のスペカなら返せたよな?」

「……考える余裕も、エネルギーも残ってなかった。今のあのスペカ、ぶっつけ本番でな……」

「せめて試し撃ちしろよ!?」


 魔理沙にしてみれば、拮抗していたと思っていた相手が、実は張りぼてだったのである。ものの見事に騙された彼女は、どっと肩の力を抜いて冥界の地へと降りた。


「魔理沙だからこそ試せたんだぞ? 異変起こしてるあいつら相手じゃ……」

「あー……」


 多分魔法使いは、かつて戦った妖刀使いの事を脳裏に浮かべているのだろう。相手の抹殺をいとわない怨霊たちに、新作スペカを試せるはずもない。現に真次は疲れ果てており、もし追撃を受ければ危険だろう。誰が見ても明らかだった。


「思ったよりキッツいスペカだった……こりゃ奥の手だな」

「あんなのを頻発されてたまるかっ! それはそれとして……メモ帳よこせ~」


 今回の戦いは、鬼籍のメモ帳を賭けて始まった。彼は抵抗せずに、二枚分を懐から取り出す。


「これだ。両方とも書いてあることは同じで……退治屋用と、永遠亭用に二セット書いてある。本当は永遠亭には俺が持って帰るつもりだったが……今日はもう帰れそうにない」

「今のお前じゃ、妖精相手でも危ないもんな」

「全く、情けない限りだ……頼めるか?」

「しょうがないなぁ……ま、大した手間じゃないし」


 口で文句を言ってても、さほど魔理沙は嫌がっていないようだ。異変解決には積極的な様子を感じ取った真次は、いくつか気になる事も上げていく。


「メモには異変が起きてから、今日まで冥界に来た幽霊……つまり死んだ奴が冥界に来たのと、出ていった履歴が書かれてる。比較用として、異変が起こる一か月前のも書き留めておいた」

「じゃあ、中身に目を通したのか……どうだった?」

「明らかに人の幽霊の数が減ってる。大雑把な印象で話すが、異変後は……前と比べて半分近くまで減ってる気がする」


 神秘には素人の真次だが、数字や文章に起こして、露骨な変化が見えれば流石に目につく。それが何を意味するのかは理解できないが、異常なことではあるのだろう。


「冥界を通さずに、直接天界や地獄行きの魂が増えているのかもな」

「地獄? 閻魔のいる地獄の事か?」

「他にどこがあるんだよ」

「だよな……いや、実は幽々子と雑談しながらメモ取ってたんだが、地獄から閻魔が来たとか言ってて……くそぅ、詳しく思い出せない」


 腕を組んで唸る真次。文章を書きながらの会話まで、記憶しきることは出来なかったのだ。渋面の彼を助けたのは、遠目で戦いを見守っていた白い髪の少女だった。


「それでしたら私が覚えています。確か三日ほど前の出来事です」

「お! 妖夢! で、何があったんだ!?」

「面白い事ではありませんよ……」


 茶化す魔理沙に、真面目に応対する妖夢――幽々子が庭師と言っていた少女だ――は、閻魔が来訪した時を知っているようだ。


「凄まじい剣幕で、私と幽々子様が問い詰められました……」

「地獄の閻魔様にか、おっかねぇ」

「一体何を?」

「なんでも……地獄に来る魂の数が激減したようでして、私か幽々子様が匿っているのではないか? と。全く心当たりがないことで……大変でした」


 恐ろしいより、気苦労の気配を滲ませる少女。幽々子は能天気な人に見えるし、如何にも実直そうな彼女は、さぞ気を揉んだのだろう。なんて妖夢の事を観察していた真次だが、魔理沙は言葉を重く受け止めていた。


「なら、今回の異変で消えちまった人の魂って……冥界にも地獄にも行ってない?」

「そうなる……のか? いや俺は素人だけどよ」

「天界は……そんなに大勢行けるはずがありませんし」

「……消えてなくなったのか?」

「ないない。魂を消し飛ばすなんて、よっぽどの火力や能力がないと無理なはず。私はやられたからわかるけど、あの呪いはそういう呪詛とは思えない」


 魔理沙の体験を聞いて、真次の脳裏によぎるものがあった。確かこちらに来る直前、ウドンゲから聞いた話じゃ――


「『これは殺める呪いではなく、同化する呪いに近い』」

「なんですか、それ?」

「里の退治屋が言ってたらしい。今回の異変を起こしてる怨霊どもが、人間が消えちまう呪いをばらまいてるんだが……」

「ああっ!? そうか魂を怨霊化してるのか! だから肉体が邪魔になって消えてなくなって……!」

「でしたら地獄行きのはずでしょう……?」

「「違う。呪いを使って、人を怨霊に変えてから捕えて取り込んでいる! これなら魂は地獄にも冥界にも行かないし、あいつらは怨霊の集団だから、群れの頭数も増やせる!!」」


 近い論理思考を持った二人が、全く同時に同じ結論に達した。正体不明だった異変が、その本質の一つを暴かれた瞬間である。


「魔理沙! メモと一緒に今のを伝達してくれ! 速達で頼むぞ!!」

「私は飛脚じゃないんだけど!?」


 軽口を叩いていても、眼差しは真摯だった。猛スピードで冥界の階段を下りて、地上へ……退治屋や永遠亭の所に進んでいく。一安心した真次は、現状をよくわかっていない少女と共に、しばしその場でたたずんでいた。



7月12日 17:41

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