STAGE 4-8 魔理沙VS
7月12日 15:49
魔理沙のスペルカード 星符「ドラゴンメテオ」を受け損ねた妖夢は、悔しげな表情で膝をついていた。
勝敗は既に決した。魔理沙の強さは知っていたが、今日は気合の入りようが違う。まだまだ自分は未熟者か……内省し、素直に道を譲った。
「よし、じゃあちょっと鬼籍を借りていくぜ!」
何かを求めて冥界に来たとは聞いていたが、彼女を阻止できなかったのは痛恨の極み。紅魔館の図書館に何度も侵入し、魔導書を借りるという名の窃盗を繰り返しているのは、文々。新聞で知っていた。
今の魔理沙は、幽々子様でも止められるかどうか。次は屋敷内で戦闘だと思い込んでいた妖夢だが、意外な展開が待っていた。
「お前ならそう言うと思ったぜ? 魔理沙」
聞きなれない、男性の声。
戦っている最中に、脇を抜けていたのか? 手にはメモ帳を握った、白衣の男がいた。
「あっ、ずるい! いつの間に!?」
「途中で置いてけぼりにしたヤツが何言ってやがる! それとナチュラルに持って行こうとするな!!」
「私が死ぬまで借りるだけだぜ?」
「お嬢さんに聞いたが、持ちだし厳禁だとよ」
「えぇー!?」
言ったところで、魔理沙が止まるはずがない。屋敷に土足で踏み込んで来るのは予測できたが、既に男は手を打っていた。
「だから、俺がこのメモに写しといた」
「おぉ! それじゃあそいつを私に」
「タダで渡すわけねぇだろ!」
一喝し、メモ帳を懐に入れて、代わりに二種類の金属を握った。魔理沙の八卦炉に似た道具だろうか? 構えてにらみ合う両者の間合いが、弾幕戦特有の緊張感を漂わせた。
「俺と勝負しろい! 勝ったらくれてやる!」
「私は手加減しないからな?」
「当たり前だろ!」
やる気の二人が、互いに距離を取る。まずは遠距離から牽制しあうつもりのようだ。星型の弾幕と、火薬音と共に高速弾が交錯する。互いに最小の動きで攻撃を避け、まずは小手調べが終わった。
男の攻撃は鉄の塊を向けてから射出するため、攻撃する前に狙いが分かりやすい。しかし弾速に優れるので、発射されてから回避するのでは遅い。弾の軌道は読みやすく量も少ないが、弾速と精度に優れていた。
対して魔理沙の弾幕は、飛び回りながら星型の弾幕をばらまく戦い方を選択。複雑な軌道で男を取り囲み、弾幕の量では圧倒していた。一見、男が大きく不利なように見えたが……彼の狙いが精確だからか、何発か惜しい位置に弾幕が飛んでいった。
恐らく、魔理沙もある程度狙いをつけたいのだろうが、下手に速度を落とすと撃ち抜かれかねない。また、位置をしきりに変えようと目論む男の動きに対応して、白黒の魔法使いは、彼が移動したい場所への弾幕を厚くし妨害する。
純粋な力のぶつかり合いとは異なる、相手の手を読み合うような攻防。現状は僅かに男が不利に見えるが、弾幕ゴッコの本番はここからだ。
「花弾『花火玉』」
「魔符『ミルキーウェイ』」
ほぼ同時に、スペルカードを宣言し合う二人。花火と星が交差して、冥界の空をかき混ぜていく。華やかになった闘争に、もし見物人がいたなら大いに盛り上がっただろう。だが妖夢は違った。
(一枚目でさえ様子見ですか)
華やかな男の弾幕は、明らかな牽制用だと見て取れる。そして魔理沙のスペルカードも、全く本気を出していない。何度か対決している妖夢は、彼女の全力を知っている。
白熱の弾幕戦の裏で、計算を続ける二人の戦いは、妖夢にとって未知の物。日頃幽々子様の世話と庭の手入れ、そして剣の修行をみっちりこなしてきた……一徹な彼女には馴染み薄い戦い方だ。
自分の在り方に慢心があるとは思えない。常人なら根を上げるであろう修練を積んだと、妖夢は胸を張って言うことが出来る。ならば、何故自分は魔理沙に敗北したのか? その答えが、彼と彼女の戦いの果てに見られるかもしれない。再び通常の弾幕をぶつけ合う両者の姿を、妖夢は真摯な眼差しで眺めつづけた。
7月12日 16:29




