STAGE 4-7 鬼籍と記憶
7月12日 15:18
今日は久々に、にぎやかな日だ。真次へ鬼籍を手渡した幽々子は思った。
以前異変を起こした彼女は、妖精がせわしなく騒いでいるのを見て異変が起きていることを察したが、気がついたのはつい最近である。地上と冥界は立地が遠く、異変による違いが分かりずらいのだ。
言われてみれば、新しく冥界に来る幽霊が少ないような気がする。彼らとの世間話で、異変を知ることもままあったが、そもそも新顔が減っていては気づきようもなかった。
(これも異変のせいなのかしら……?)
そういえば、最近友人の八雲 紫 の顔を見ていない。神出鬼没の紫だけど、幽々子が退屈そうにしていたり、遠巻きに危険が来そうな時は忠告しにきたりと、彼女との関係は互いに特別なものだと信じている。
生前からの友人だからか、紫とは話も合うし、時が経つのを忘れるほど、彼女といる時間は楽しい。幽々子は生きていたころの記憶を失ってしまったが、それでも友人だと……どこかで自分は覚えていたのかもしれない。
ふと、気になった。彼は異変解決の糸口を求めてここに来たと考えられる。ならば、紫とも会っているのではないか?
「ねぇあなた……最近紫とは会った?」
「幻想郷に来た直後ぐらいで、それ以降は……博麗神社に行ったらしいが、足取りが分からない。地上は異変のせいで混乱してるし、ゆかりんはゆかりんで戦ってるんだろうな」
「そう……」
なんて、水臭い。何も知らせなかった友人の不器用な優しさに、幽々子はため息を吐いた。彼女には影響の少ない異変に巻き込むまいと、あえて知らせなかったに違いない。妖夢は人里に出ることもあるが、頻度は少なく気が付かなったのだろう。
「あなたは……鬼籍で何をするつもりなの? あまり役に立つものだとは思えないけど」
「そうなのか? 俺は永琳伝いに人里の退治屋に頼まれて、おつかいに来たみたいなモンだからな……どう役に立つかまではわからない」
「永遠亭も忙しいの?」
「そういうことだ。新入りは辛いぜ~」
冗談めかしてはにかむ男。白衣をなびかせる彼の姿をみて、脳裏にある疑問が浮かんだ。大したことない思いつきだけれど、職業を考えれば希望はある。
「あなたもお医者様なのね」
「まぁな。担当は外科。精神科も少々」
「それなら聞いてみたいのだけれど……記憶喪失について詳しい?」
軽く尋ねたものの、彼の表情はすぐれなかった。
「微妙だな……記憶の異常には精神が原因なのと、脳のダメージが原因の二種類がある。前者ならともかく、後者だったら俺の専門外だ」
「ん~……そうなのね。私は幽霊になってからの記憶しかないの。生きてた頃のことを思い出せない。きっと死んで身体が無くなったから、思い出せないのね~」
少々残念だが、気に留めるほどでもない。西行寺 幽々子にとって、生前の記憶は大した未練はないのだ。別に今の生活が変わることもないし、もののついでで拾えればラッキー程度の認識である。
――幽々子は気が付かなかった。全く自然体で、記憶を気楽に捨てたままの幽々子。彼女のありようを見た真次の目が、鋭く細められたことに。
「未練がなさそうだな?」
「だって、千年前の思い出だもの。幽霊になった直後も気にならなかったわ。紫とは生きてた頃から友人で……気がかりになるのはそれぐらいかしら」
「千年も……そうか。鬼籍の写しを取るから、適当に話を聞かせてほしい」
「いいわよ~」
手持ちのメモ帳に、何故か二人分鬼籍をメモしていく真次。幽々子は不思議に思ったが、妖夢と魔理沙の戦いが終わるまで、のんびりと彼と他愛のない話を愉しんだ。
7月12日 15:33




