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STAGE 4-6 屋敷に立つは幽雅な少女 

7月12日 15:00



 冥界の地を踏みしめ、石段の上をかけていく真次。既に魔理沙ははるか先を飛んでおり、少しの間で離されてしまった。

 最後まで連れて行ってくれるのかと思いきや、途中で置いてけぼりは想像外だ。一人で飛んでいくよりはマシだったと割り切って、一段ずつ昇っていく。

 桜が植えられているという話だが、他にも色々と植物が生えているようだ。石段にもコケがあるし、小さな草花もちらほら見える。ともすればここを、幻想郷の上空だと忘れてしまいそうだ。


「本当、非常識すぎるぜ……」


 彼は息を切らして階段を上っていたが、飛んだ方が疲れないと気づき、石段から少しだけ浮く。何ら地上と変わりがないのに、時たま横切る雲が空の中だと思い知らされる。空気が薄いからか耳鳴りがするし、夏場でもかなり肌寒い。もう一枚羽織って来ればよかった。後で風邪を引かなければいいが。


「しっかし、長いな……」


 視界が悪いのもあって、魔理沙が言ってた桜の木は見えない。薄くモヤのかかった光景は、博麗神社の階段と異なり、清浄さと不気味さが漂っている。

 冷たい風に反応した肩が鳥肌を立たせ、真次の背筋に悪寒が走る。まるで幽霊でも出そうだ。下らない想像をした瞬間に、人魂が通り過ぎで彼は腰を抜かしてしまった。

 目を凝らしてみれば、人魂だけではない。周りの植物や小鳥なども、半分透けて奥が見えている。どこもかしくも幽霊だらけではないか。


「ど、どうなってやがる……マジで勘弁してくれ……」

 

 幽霊に取り囲まれているのを知り、つい尻込みしてしまう。現代の病院でも幽霊騒ぎに遭遇することはあるが、無数の霊の場所に踏み込んだ経験はない。

 ここは冥界。天国でも地獄にもいかない魂たちが、一時的に居着く場所。永琳やウドンゲから簡単な説明は受けていたが、想像していたよりも霊の数が多い。

 されど襲い掛かるつもりもないのか、適当に漂うばかりで、真次のことは何とも思っていない。害にならないと分かれば、彼の中から恐怖も薄れ消えていった。

 呼吸を整え、もう一度上りだしたその時だった。視線の先がちらりと閃き、少女たちの騒がしい声が彼の耳に届く。うち一つは魔理沙のようだ。

 近づくにつれ、弾幕戦をしてるとはっきりする。魔法使いと戦っているのは、白い髪に二刀流の少女だ。激しく空でもつれ合う彼女たちを遠巻きに眺めつつ、彼は屋敷の門をくぐる。門の奥で立っていた別の女性に気が付き、真次は軽く会釈をした。


「お邪魔します」

「あらあら、今日はお客さんが多いのね~」


 二人の戦いに見入っていたらしく、彼女は真次の登場に、少し驚いているようだった。けれども、その所作には品がある。広く手入れの行き届いた庭もあって、育ちの良い人なのだろう。病院に勤めは様々な人間と出会うが、気品のある人物は肌でわかるものだ。自然と礼儀よく接しようと、向き合った人間の襟を正す何かがある。


「えーと……鬼籍、だったかな。良ければそれを拝見したい」

「うん? 良いわよ~お屋敷にどうぞ」


 らしくない言葉使いの真次。自分でも違和感だらけと感じるが、彼女は和やかに微笑むだけだった。振り向き、前を歩く姿だけでも絵になるのを見て、かなりのお嬢様だな……と真次は当たりをつけた。

 空では、まだ二人の少女が弾幕を撃ちあっている。その喧騒が嘘のように、枯山水の静かな屋敷が真次を出迎えていた……



 7月12日 15:13

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