STAGE 4-4 冥界を目指すのは
7月12日 13:47
さて、冥界へ飛び立った真次はと言うと、激しい弾幕に晒されていた。
異変の最中には、妖精が活性化する。遥か上空に存在する冥界に辿り着くまでに、何度も妖精に襲われることとなった。退治屋たちが他人に頼ってきたのは、彼らの実力では移動中に消耗しすぎると考えたからだった。
では新米の真次はどうか? 幸いなことに彼は機動力はそれなりにあり、スペルの何枚かは強力な爆発を引き起こす種類も保持している。煙に巻くことも、ワープ移動技等搦め手も使え、何より彼が弾幕戦に対する考え方が、幻想郷の住人と異なっている点も大きい。
「逃げるなー! 戦えーっ!!」
「こんな数マトモに相手できるかっ!!」
――幻想郷の人間にとって、弾幕ゴッコは真剣勝負。基本的には、攻撃されたら受けて立つ感覚なのに対し、真次は無理に撃ち合わない。耐久力の高い妖精は徹底して無視し、小型の脆弱な相手を優先して撃破する戦い方は、ともすれば「卑怯者」と言われかねないだろう。
けれども、目的地が明確なら彼の思考は有利に働く。高速移動で敵を置き去りにしてしまえば、いくら文句を言おうが弾幕は届かない。少しの間背面からの危険を承知で、彼は高く空を飛んでいく。
(しかし、ホントにこっちであってるのか?)
既に永遠亭が、豆粒以下にしか見えない高度だ。かなり距離をとっても、まだ姿が見えなくては不安が燻る。けれども、永琳が嘘を吐く理由がないと信じて、グングンと雲を突き抜けていった。
季節外れに「春ですよ~」などとぼやく妖精に「今は夏だろうが! 厚着だと脱水するぞ!!」と通りすがりに叱責を浴びせ、猛スピードですぐ横を掠め飛ぶ。余波に襲われた妖精がその場でグルグルと目を回した。徐々に収まったかのように見えた回転は、彼の後方から飛んできた黒い影が、やはり高速で通り過ぎたせいで再び回転してしまうのだった。
妖精が漏らした悲鳴らしき物に、気になった真次が振り向く。黒い帽子をかぶった誰かが、青年の後ろから飛翔してきているようだ。
しかも真次より速いらしく、徐々に大きくなってくる。彼が無視した妖精を倒しながら、じわじわと迫りくる誰かに、真次は背筋を震わせた。
(怨霊の誰かが追って来やがったか!?)
敵対する相手が、それしか思い浮かばない。反転して迎撃するか? 周囲に妖精がいないのを確認してから、速度を緩めて銃口を向ける。
見る見るうちに詰まっていく相手との距離。しかし、聞こえたのは焦ったような少女の舌打ちだった。
「馬鹿! 速度下げるなよ!」
「!?」
聞き覚えのある声。黒の中に白と黄色が混じった人物が、腕を伸ばして真次の腹を持ちあげる。そのまま攫われる形で急激に肉体を押し上げられ、危うく吐きそうになった。少女の声に一瞬で反応して、急加速しなければぶちまけていたかもしれない。
「ゲホッ! ゴホッ!」
圧迫された内臓の痛みにむせて、何度もせき込んでから彼は、恨めし気に顔を上げる。
視界に写ったのは、一度紅魔館で対決した少女――白と黒の魔法使い、霧雨 魔理沙のむすっとした表情だった。
7月12日 13:59




