STAGE 4-3 見送る背中
7月12日 13:13
真次が飛び立つのを、永琳とウドンゲが見送っている。
彼が空を飛ぶ姿も様になってきた。実力はまだまだ荒削りな部分もあるが、着実に幻想郷での生活に慣れてきたのが目に取れる。
「これなら大丈夫そうですね! 退治屋さんもあの人に声をかけるって」
「えぇ。彼女も一緒なら大丈夫。それに冥界には 魂魄 妖夢 と 西行寺 幽々子 もいる。彼に危険はないでしょう」
危険はない、と明言しながらも永琳の顔つきは冴えない。今回彼を向かわせた本当の理由は、八雲 藍 との対話を確かめる意味があった。
“八雲 藍 の読み通りならば、異変の首謀者たちは、呪いを解除できる西本 真次を放置する”
だから能力を隠さずに、幻想郷中を飛び回らせて相手の反応を見たいと、彼女は語った。しかも藍は、仮に真次が襲われて死んでしまっても「仕方ない」とまで言いきったのだ――実際幻想郷を守るためならば、藍の判断は「妥当だ」と言わざるを得ない。この少し前に真次と意見をぶつけ合ったが、その際振りかざした「一つよりも多くを救うべき」理屈であれば、永琳は納得すべきだった。
ところが、実際には永琳は即答できなかった。西本真次にリスクを負わせる選択を、月の頭脳と称された自分が無意識に拒んでいた。
何故だろう? それまで考えもしなかった事柄に、初めて永琳は目を向ける。程なくして出た結論は、呆れるほどありふれた物。それは西本 真次が、八意 永琳の隣に立っている人間だったからだ。
ウドンゲとは弟子と師の関係。輝夜とは姫様と従者の関係。親しい間柄だが、その関係性には明確な上下がある。勿論堅苦しくはないが……彼の様に対等に近い立場から、真っすぐ意見を向けてくることはなかった。
そんな動機で、とも思う。だが他に思い当たる節もない。得難い人材なのは確かで、異変の解決には必要な人間にも間違いない。……しかし、こうして考えれば考えるほど、奇妙なもどかしさが胸の内で渦を巻いていく。一体これは何なのだ?
「……ちゃんと帰って来てくださいね」
「本当ですよ!」
何度か彼の無茶を目の当たりにしてきたウドンゲは、それでも後輩の事を案じている。真次の背中が見えなくなるまで見つめていた二人だが、先に歩き出したのはウドンゲの方だった。
「さぁ、行きましょう師匠。私達も異変を抑えないと!」
「えぇ。そうね」
師匠より前に歩き出す姿は、真次が来る前と比べて気力に満ちている。今の彼女が進み続けた日には、永琳を越える事があり得るのかもしれない。不意に湧き上がった想像に不快感はなかったが……せめてその時まで、頼れる師匠でありたいものだ。
ならば、彼への情感は一旦断ち切ろう。今もまだ猛威を振るう悪意と、自分たちなりに戦おう。殺到する怪我人と向き合いながら、人々を蝕む呪いへの対策するために、永遠亭の中へ月の頭脳はその身を投じた。
7月12日 13:30




