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STAGE 3・5-4 嗤う生贄

「いやっほー! ざまぁみやがれ!!」

「いいぞ厄神! 見直したよ!!」

「おいおいほどほどにな? あんまり話すと、後々悪いことが起こるんじゃねーの?」

「構うもんか。勲章みたいなもんだろ」


 周りの天狗たちから湧き上がる声が、鍵山 雛 には心地よい。

 嫌われるのが当然で、その役割に納得している彼女だが……かつて山の神がやってきた異変で、妖怪の山に飛び込んだ人間に忠告をするなど、他者のことは嫌いではないのだ。

 ましてや、こうして頼られるコトはまずない。本音を言えばもう少しだけ浸っていたかったが……煙で見えなくなっていても、まだ巨大な厄は消えていない。彼女は鋭い視線で、周りに促した。


「油断しないで。まだ終わっていないわ」


 その言葉に呼応するかのように、砂煙が吹き飛ばされ男の姿が明らかになる。

 多少衣服に傷がついているが、その表情には鋭利な笑みが浮かんでいる。爛々と輝かせるその瞳は、闘争に酔って高揚しているかのようだ。


「ちっ! もう一度弾幕を張れ!!」


 だが戦意を高めているのは、天狗たちも同じ。

 いざとなれば、厄神が敵の猛威から守ってくれる。彼女と連携して時間を稼ぎ、増援の部隊と守矢の面々が来るまで粘れば……こちらの勝ちだ。

 勢いづく弾幕。直進を続けていた怨霊たちがその足を鈍らせる。敵の攻勢も熾烈だが、危機に陥る部隊の下へ厄雛が踊るように飛び回り、弾幕を絡め取って被害を抑えた。

 それでも敵は諦めない。諦める素振りさえ見せない。

 このまま戦い続ければ、惨めに打ち倒される天命にあるはずなのに、彼らは決して逃げたりしない。その膨大な恨みつらみを吐き続ける姿を見た雛は、彼らに問いかけた。


「あなたたちは……その感情を水に流せなかったの?」


 それは厄を集めて、川に流される雛人形ならではの問い。

 嫌われ者であることを受け入れ、それでも影ながら感謝される存在であること良しとした、鍵山 雛 だからこその言葉。

 思わぬ言葉だったのか、男の表情筋がぴくりと動き、弾幕の圧が少しだけ和らいだ気がする。

 和解は難しいかもしれないが、この場を退けることならできるかもしれない。次の言葉を選んでいるうちに、彼女の内に沸いたその思いは打ち砕かれた。

 男の表情が、なにもなくなった。

 冷たい能面の様に……いや、お面でさえここまで無機質な表情はしない。生々しい質感の顔が、人形以上に血の通っていない顔つきをしている。その唇が、ぎこちなく呪いのように紡いだのは……


「痛符『ペイン・メモリーズ』」


 スペルカード。それは無慈悲な断絶を告げる宣言だ。雛は、致命的な失言をしたことを思い知らされる。


「ふざけないでくれる? そんなお上品な選択肢を取れるなら、私達はそもそも怨霊なんかになってないわ」


 男の身体から分裂して、妙齢の巫女服の女が弾幕をぶつけてきた。水流を模した弾幕だが、土砂と倒木の混じった濁流、あるいは鉄砲水のような荒々しい弾幕だ。


「あなたはいいわよね? 流されて感謝されるんだもの。村のために人柱になってあげたのに、効果が薄くて罵倒された私と違ってね……!」

「……!」


 鍵山 雛を責め立てる言葉と弾幕。

 厄雛そのものに対して、猛烈な怒りと恨み、そして深い深い嫉妬を含んだ弾幕は、受け流しきることが出来ない。じりじりと彼女は押されつつあった。


「私だって、死にたくなかった。でも村のみんなのためになら、村を襲う水害を鎮められるならしょうがないって思った。多少なりとも、私には巫女としての素質があったから、捧げものとしては最適。実際の所、私を『生贄』にしていなければ、翌日には鉄砲水で全滅していたでしょうね」


 濁流が全方位に広がっていく。人柱の巫女の怨念が、茶色の流水を漆黒の汚濁へ変えていた。


「何とか抑えていたけど、あの村人達は止まない長雨を見て『生贄の巫女が役目を果たさなかった』って思ったみたい。だから私の家族を、一族を無理やり次々川に流して、それでも足りないから近い親戚を片っ端から、砂利と木片だらけの川に叩き込んだのよ?」


 よくよく見れば、その弾幕の中に人の手や頭、足が混ざっている。……濁流の中に、赤が混じっている錯覚さえした。


「だから……村を守るのが馬鹿らしくなって、抑えてた鉄砲水全部集中して、綺麗さっぱり洗い流してあげたのよ。いい気味だわ」


 本当に清々したと言わんばかりの声色。村ひとつを水底に沈めた悪霊は、それ故に忘れ去られ幻想郷にやってきたのか? 口を挟もうとした雛を、女は鋭く咎める。


「流されても文句ひとつ言わず、悪意を淡々と受け止めて平気なツラしてるあなた……だったら、私達の絶望を全部流し込んであげようかしら? 万が一壊れても、何度でも直してから、何度でも何度でも何度でも、壊し直してあげる」


 ぞ、と厄雛の背筋に悪寒がなぞる。

 なんという悪意、なんという憎悪。

 もはやコレは、人の形に収まっているだけの厄災ではないか……周りの天狗たちに恐怖が電波する中で、不意に秋姉妹が交互に口にした。


「あれ、男はどこ?」

「分裂する前まで、一緒にいたのに?」


 その場にいる全員が、凍りつく。

 分身して現れた女と、彼女の言葉と弾幕に集中していたせいで、全くそのことには気が回らなかった。

 強い存在感を放っていたはずの敵の首領が……いつの間にか消えている。


「やられた! この女は囮だ!」

「河童! 早く通信を! 多分潜り込まれてるぞ!!」


 出し抜かれたことに気づき、厄神もまた言葉を失う。

 目の前の悪霊巫女は、口の端を吊り上げて――


「こんなかわいそうな身の上話の後で、私を身代わりのお人形にするはずがない……とでも、思ったのかしら?」


 ――深い嘲りを含んで、唇をにぃ、と歪めて嗤っていた。

 今回出てきた女性は、以前『生贄』と呼ばれていた女性でございます。個性的なのっぺらぼうが出てきた辺りが初登場かと。

 

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