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STAGE 3・5-3 厄雛輪舞

 西本真也は、彼女らを睨む。

 配下に露払いを命じ、新たな敵対者を観察した。

 二人は八百万の神だろう。紅葉をあしらった衣服からして、山を荒らされるのを嫌った、植物、山、あるいは自然の象徴の神と考える。だが最後の一人が分からない。ここは一つ、牽制してみるとしよう。

 右腕を掲げ、一つの巨大な弾幕を生成する。ヒトの体積の十倍はあろうかと思えるサイズまで砲弾を育てると、放り投げる動作と共に弾丸が緑髪の相手へ猛進した。

 妖怪たちから悲鳴が上がる。大気を押しのけながら迫る悪意に対し、彼女は両手を前に突き出し、受け止める構えを見せた。

 誰もが、無謀と思った。

 強大凶悪な質量弾を、正面から受けるなど正気ではない。悲鳴がひときわ大きくなり、悲惨な結末を予測して目を逸らす天狗もいた。

 着弾を予期し、会心の笑みを浮かべる怨霊王。だが眼前に現れたのは、誰も予期しない展開だった。

 鍵山 雛 の両手に触れる寸前で、凶弾が動きを止めている。

 圧縮された悪意が紐解かれ、停止したままみるみる縮んでいくではないか。


「なんだと?」


 徐々に霧散し、消えていった弾幕。赤いリボンの疫病神は、涼しい顔で立っていた。

 質での攻撃が通じないことを悟った彼は、配下のみに鋭く通達した。


“30秒後、全域から飽和攻撃を実行する。状況を調整せよ。困難ならば遠慮するな? こちらから指示を出す”


 真也本人は、両腕から暴風めいた弾幕の嵐を巻き起こす。周囲を取り囲む天狗たちへの弾幕を削り、リボンの女への射撃密度を上げた。

 緑髪の女と、漆黒の怨霊が弾幕と踊る。男の配下と天狗たちは、さしずめ舞台を彩るエキストラだろうか。一見均衡を保っているようにも映る光景は、一分と経つ前に崩れることとなった。


“3、2、1……放て”


 状況を合わせ、周辺で天狗たちと戦う怨霊たちが、一斉に方向を変える。中には、天狗に倒されながらも攻撃を実行する者さえいた。彼らが狙ったのは――


「おいおいおい!?」

「マズいぞ! 逃げろ厄神!!」


 一斉に、精確に。

 怨霊たちが眼前の敵を無視して、鍵山 雛 目がけて攻撃を実行した。

 この瞬間を実行できるよう、怨霊王は影ながら指揮していたのだから恐れ入る。戦場全体の指揮と、眼前の敵との弾幕戦を並列処理する……人外ですら困難な大技を、たった30秒で整えてしまったのだ。

 地上と空から、絶望的な量の弾幕が一人に集中する。迫る大量の弾幕を、しかし厄神は恐れない。身を低くし、力をためた彼女は――力強く回りだした。

 両手を胸に当て、バレリーナ……あるいはフィギュアのトリプルアクセルよろしく、鋭く素早く美しく舞う。その動きに魅了されたかの様に、近くまで飛翔した弾幕は、彼女の回転に併せて周囲を回り始めたではないか。

 ――鍵山 雛 の能力は『厄をため込む程度の能力』

 西本 真次 の『悪意を切り離す程度の能力』が有効なように、たっぷりと呪詛を……厄を含んだ怨霊たちの弾幕は、鍵山 雛 には通じない!


「なんだ、貴様のそれは――」


 質も、量も、多方向から放った必殺さえ防がれ、初めて男の顔に焦りが浮かんだ。その顔面目がけ――厄雛は集めた厄を整え、一斉に押し付ける。


「お返しよ。人を呪わば――穴二つ」


 自分たちの放った弾幕に、西本 真也が襲われる。

 大きな砂煙が上がり、悲鳴ばかりの妖怪達から、初めて大きな歓声が上がった。

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