表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/216

stage 3・5-2 がしゃどくろ襲来

「鴉天狗隊! 動ける者は負傷者を連れて下がって! 河童の皆さんは後退支援! 当たらなくてもいい! ともかく弾幕を張ってください!! 白狼天狗は防衛線を張ります! 増援が来るまで持ちこたえますよ!!」


 声を張り上げる白狼天狗に従い、妖怪の山の面々が行動に移った。

 守矢の神々から、今回の異変を引き起こした怨霊たちが、極めて危険なことは知らされていた。

 敵を見つけた天狗も、一人では仕掛けずに連絡を優先し、その後動ける部隊で一斉に襲い掛かった。いざとなれば守矢の神々も戦列に加わると聞かされていたが、妖怪の山の勢力は強い。自分たちだけでも、対応し切れると思っていた。

 甘かった。

 それは甘すぎる想定だった。

 正面から一斉に飛びかかった白狼天狗が四方に飛ばされ、ならばと上空から弾幕の雨を降らせても、男は涼しい顔で受け流す。動揺する天狗たちを倦怠な眼差しで見下した後、奴の内側から多数の怨霊が飛び出し、天狗たちに迫った。

 一人ひとりの怨霊でさえ、天狗と拮抗し得る力を持っている。たった一人の侵入者のハスが、いつしか多対多の戦線へと変貌していた。

 激しい弾幕の応酬。川の真上で舞い散る火花が、せせらぐ水面と空を彩る。時々放たれるスペルカードが、天狗たちに後退を余儀なくさせる要因だった。


「浅慮『招き招かざる外来』」


 また一枚男が使用を宣言すると、川底から大量の魚が飛び出し、大口を開けて飛びかかって来る。おっかなびっくり避けた天狗たちが、川から離れ森の上へ逃げた瞬間。茂みからイタチにも似た鋭い爪の四足獣と、目の周りが黒く獰猛な狸のような獣が次々と飛び出して襲い掛かった。

 不意を突かれ乱れた戦列を、怨霊たちは怒涛の勢いで雪崩込む。同時に四方八方に撒き散らされる弾幕は、迂闊に仕掛けた天狗たちを餌食にしていった。


(強すぎる! コイツに弱点はないんですか!?)


 敵は、複数角度から襲い来る天狗たちの弾幕を、最善手で防ぎ続けているようにも見える。死角を突いたはずでも、まるで別の位置からの目で察知しているかのようだ。


「どーなってるの!? 椛と同じ千里眼でも持ってるワケ!?」


 同僚の悲鳴に、名指しされた椛は答えた。


「違います! こいつら全員、情報共有してるんです!!」

「は? 何よそれ!?」

「私は遠くを見てる時近場が把握できないんです! 千里眼では、複数へ意識を向けることはできないんですよ……!!」


 はるか遠くを見通せても、すべての景色を同時に処理することはできない。右の目と左の目で、別々の物に注目できないように。


「じゃあ何!? 一人の怨霊が見たものを、全員の怨霊が視てるってこと!?」

「ふざけんな! そんなデタラメあってたまるか!!」

「増援を! 早く増援を寄越してくれ!!」


 混乱、狂騒。規律で纏まる妖怪の山の天狗たちは、強大な敵に押され崩れつつある。それと比べて、一見身勝手に攻撃を行う怨霊たちは、確かに統率されているようにも見えた。

『一人の中心物のある群体』

 天狗の誰かが、種族と在り方からある妖怪の名前を口にした。


「『がしゃどくろ』だ……こいつら、がしゃどくろだっ!!」


『がしゃどくろ』……主に戦場跡などで発生する妖怪。

 大量の怨霊が一点に集まり、それが一つの妖怪として生まれてくる化け物だ。

 その力は、集まった怨霊たちの力を『全て足した』ものであり、大妖怪として名が伝わっている。これほどの猛威を振るえる妖怪は多くないが『がしゃどくろ』ならばあり得る話だった。だが今更正体が知れたところで、戦況が好転するはずもない。


「す、すぐに来てくれ! もう持たない!!」


 悲鳴が増えるが、弾幕は容赦なく飛来する。次々と増える負傷者、やってこない増援、前線の天狗たちがもはやこれまでと思った、その時であった。

 どっ、と強く一陣の風が吹いた。鮮やかな紅葉と、作物を模した弾幕が混じった力強い風だ。

 どこか季節外れな空気を含んだ風は、この山に住む八百万の神の二人、秋 静葉 と 秋 穣子 が放った物。予想外の弾幕に、怨霊たちがたじろぐ。

 そして、彼女たち姉妹二人の後ろには、禍々しい気配を嗅ぎ付け、滅多に人前に姿を現さない人物がいる。


「――随分と、厄いわね」


 黒い衣服と、赤いリボンを風に靡かせて、鍵山 雛 は怨霊たちを睨んでいた。

 がしゃどくろについてプチ解説を

 作中にあるように、妖怪「がしゃどくろ」は怨霊の集合体です。大量の怨霊が発生し、溜まりやすいところで発生すると言われています。そのため、戦場跡などが主な発生場所になっているそうです。現代でも妖怪好きな人なら、名前を聞いたことがあるかもしれません。

 ただ、生まれは割と最近作られた妖怪のようです。創作の妖怪とでも言えばいいのでしょうか……少なくとも九尾の狐や佐渡の狸。各種信仰や民話の、分離派生で生まれたわけではなさそうですな。

 そして大体の場合において、強い力を持つ妖怪と描写されることも多いようです。古い話ですが、とある特撮戦隊での悪役で、幹部でも上の扱いで出てきたりもしていましたねぇ……ん? これだけじゃわからないって? ……ケイン・コスギが黒です。これでわかるべ、多分。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ