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幕章 怨霊の長はかく語る 2


 さて、私は死後怨霊となった。

 死因こそ自殺だが、憎悪を消せたわけではない。志半ばで、生きるのを諦めたと言えば理解してもらえるのかな。

 ……自殺の動機は一番下の弟だよ。彼もまた憎悪に捉われていた。

 限りなく私に近い考えに陥っていたのだがね。引き込まなかった自分自身の甘さと無意味さと、弟と私の違いを知覚しすぎたのが引き金だよ。末弟は……絵さえ描ければ他はどうでもいい人間だからな。ある意味私以上に壊れてると思うが……

 ああ、私の家の血統が、異質な人間が極度に生まれやすい形質なのだろう。少なくても我ら三兄弟は、三者三様に異常者だろうからな。

 詳細は省くか、父親もどこかおかしかった。まともなのは母だけだが……実の息子にあんな言葉を吐かれ、残りの子供も異常者なのを悟って独り夜逃げしたよ。

 話が逸れたな。そんな異常者家族なのもあって、私は忘れ去られてしまい幻想入りするところだった。

 うむ、同朋諸君も同様だな? ところがまぁ、我々が幻想郷にやってきたのはつい最近だ。厳密に言えば、あそこも幻想郷の一部だったのかもしれないが……楽園には程遠い。

 程遠いどころか、地獄以上の場所だったな。

 我々が押し込まれたのは『怨霊が境界を失う結界』の中だった。多種多様で相当な人数の怨霊が押し込まれていたが、一人ひとりを独立させるは己の意思のみ。閉所に押し込み、境界制御の能力を用いれば、実体のない霊体同士を融合させることは苦ではない。

 だがそれは、八雲から見た話だ。我々にとっては堪ったものではなかった。

 例えば『親友を』無残に殺され、恨みを抱いて死んだ怨霊が一人いるとする。

 例えば『親友に』無残に殺され、恨みを抱いて死んだ怨霊が一人いるとする。

 この二人は怨霊であることに違いないが、その憎悪の方向性は真逆と言っていい。水と油、決して理解しえない二人だが……これを強引に融合させればどうなるだろう?

 初めは、互いに互いを拒絶し合うだろう。しかし境界を失い、一つの存在になっている以上、相手方の感覚が強制的に流れ込んでくる。いくら遮断しようにも、その境界自体を八雲の能力で失われてしまうのだ。和解の余地のない相手と同化する苦痛、そして自己が混ざり溶けていく苦難が、ここでは引き起った。

 以前誰かが言っていたが、さしずめ『円環の蛇』の図式だろう。あれは二匹の蛇が互いの頭で、互いを尾を食んでいる図式だが、ここは詰め込まれた怨霊の数だけ、頭と尾がある状況だな。……どちらかと言えば、蠱毒に見えるのは気のせいか?

 この環境で自我を維持し得るのは、個性的な恨みを抱く者か、極度に精神の強度を持つ者のみ。英雄級は両方の要素を持っているが故、ほとんど劣化せずに済んだのだろう。

 諸君、恐らく疑問に思っただろう。ならば何故私が王足りえたのかと。少なくとも私は有名な人間ではない。英雄にも、それに打ち倒される悪役ですらない。世界の片隅で震える、小市民の一人ではないのだろうか? きっとそう思ったに違いない。

 答えは実に簡単だ。私にとっては、ここは実に居心地が良かったのさ。

 少し前に話しただろう? 私にとっては、生きる現実は地獄にしか見えなかったと。

 善いか悪いか、論ずるまでもなく、世界そのものを悪性と断じる私にとって、人の善性は一つ残らず偽物。『悪い事だけが真実さ』と本気で信じたまま死んだ私には……人の恨みつらみは、一つ残らず肯定して愛でるモノだった。

 はは、どうにもわかりづらいかな? つまり私は、どんな種類の憎悪でも肯定できてしまう人間だったのさ。君らの怨みつらみが流れ込んできたが、実に愉しいものだった。これが同じ量の善意だったら、私は発狂していたと思うがね。

 これは英雄たちにも不可能だった。極端な経緯と精神力で、精錬された英雄の憎悪は方向性も強い。敵対すべき相手とは、和解を考えられないだろうから。

 怒りを、憎悪を、一片残らず愛で尽くし、結果我々を一つに統合し得る。それが私が諸君らの王たる理由である。いや実に皮肉が利いているな? 生涯苦しんだ異常性が、こんなところで役に立つとは思わなんだ。

 ――さて、目標地点はもうすぐだ。

 この気配、ニアが近くにいると考えられる。ためらう感情を持つものもいるだろう。

 だが我々の目的は、彼女一人で止まるほど浅いモノではあるまい?

 諸君――我々に苦役を強いた世界に、思うがままに報復せよ。

 そして、世界を壊す鍵を探し、何も残さず滅ぼすのだ!

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