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STAGE 3-46 条件 前

 7月9日 20:59



 永遠亭の片隅で、彼が煙草を吸う姿があった。

 だいぶ残量が心もとなくなってきたが、幸いなことにヘビースモーカではない。時たま喫いたくなる程度なので、あと一か月ぐらいなら持つ目算だった。

 今彼が考え込んでいるのは『ジャンヌ』のことだ。

 彼女が怨霊になるのは、まぁわかる。むしろ、無念を持っていない描かれ方の方が、珍しいとまで言い切れる人物だ。

 問題は『なんで幻想入りしたのか』この一点に尽きる。

『メンデル』についても言えることだが、忘れ去れたとは思えない。『ニア』は知らない人も多そうだが、彼女は怨霊たちの配下ではなさそうだ。


「どうしたんですか? 先生」

「永琳先生か。ちょっと考え事をな」


 ちら、と横顔で永琳の表情を伺うも、影になってて良く見えない。

 少し前、真次の『能力』を巡った意見の対立もあって、どうにも二人きりは気まずい。そそくさと立ち去りたい気持ちもあるが……それはそれで、逃げ出すようで格好悪い。口に煙草を咥えたまま、彼女から話を切り出すのを待った。


「「……」」


 が、しばらく沈黙が続く。

 ちらちら視線を向けあい、互いに様子見しているのだが、永琳は一歩踏み出すことを躊躇っている。真次は、溜息と共に紫煙を吐きだした。


(まいったな。こういう時は男からがマナーじゃねぇの)


 女性を待たせるのはよろしくないと、妙な使命感に焦る。別に彼女を口説くつもりはないが、口論になった負い目もあるし、意地を張らず気さくに喋った。


「しっかし、まぁ、あれだ。人里も大変そうだよな」


 ……完全に不自然な切り出しになってしまった。緊張しているのだろうか? 何に? 小さな疑問は、神妙に頷いた永琳の言葉でかき消された。

 

「えぇ、異変の影響ですね……ウドンゲも苦心していましたよ。人々がみんな緊張してるって。置き薬の減り方も、気持ちを鎮める薬が減っていたそうです」

「ほー……その話はしなかったな」

「先生が異変に飛び込んだから、話す時間がなかったんですよ?」

「……面目ねぇ」


 冷静に考えれば、あの場は静観するのが普通だろう。しゃしゃり出て敵の幹部級と戦うことになったし、倒せたのも結果論だ。本来の目的とかけ離れた、しかも危険な行動ではウドンゲに叱られるのも当然だった。


「だけどよ、敵の幹部の『ジャンヌ』と『メンデル』は、幻想入りするのが考えにくい。現代から忘れ去られるなんざあり得ねぇ」

「そう、なんですか?」

「ああそうか。幻想郷で暮らしてちゃわからないよな」


 基本幻想郷は、受け入れはしても外に出しはしない。

 迷い込んだ外来人は、博麗神社に行けば返してもらえるそうだが、ほとんどの場合は妖怪の襲われてしまうそうだ。

 だから、現代の諸事情については、情報や状況伝わりにくい。月の賢者であっても、考察には材料がなければお手上げだ。


「『ジャンヌ』は悲劇的な顛末を迎えた英雄で『メンデル』は成果を認められなかった学者だ。後で三人組だったかな……ともかくそいつらが同じことを発見して、それでやっと評価された。そん時には『メンデル』は死んでたが」

「……なるほど、怨霊になる事はあり得ても、忘れそうにないですね」

「正直『メンデル』の方は怨霊化も納得いかない。現代人なら多くの人が同じこと言うんじゃねーかな」

「そうでしょうか?」


 すっ、と細められた目に真次はたじろぐ。永琳は続けた。


「それだけ痕跡が残っているなら、研究成果を発表する場はあったんですよね?」

「あったが、そん時には認められなかった。理解されなかったってだけだろ?」

「なら、怨む要因になりえます。良く考えて下さい。『真面目な研究発表の場で、誰にも理解できないこと』を公にしたらどうなります?」

「そりゃあ『何言ってんだお前』って白い目で見られ……」


 自分で言った後、永琳の主張をようやく呑み込めた。


「原因それか……そうだよな。後々とはいえ、それが正しくて偉大な発見って評価されるもんなら、尚更だよな」


 想像するに、遺伝子の三つの法則を開示しても、他の学者たちの反応は極度に冷めていた。『メンデル』は必死に説明しても理解されず、それどころか学者たちや組織から、煙たがられることになったのだろう。法則そのものは、正しかったのにも関わらず。


「だけどよ、やっぱり幻想入りするのが分からねぇ。有名どころのはずだが」

「そうですよね……現代と幻想郷の結界の仕組みは、私も詳しくないのです。でも、いくつか心当たりは」

「あるんかい!?」

「豊聡耳 神子を会ったのでしょう? あの人、聖徳太子ですよ?」

「はぁ!? え、だって、女……はぁ?!?!」


 確かに取り巻きが『太子様』とは呼んでいたが、まさか彼女が聖徳太子だとは夢にも思わない。聡ければスペルカードで気づけたかもしれないが……そこまで頭は回らなかった。のんびり自己紹介の時間もなければ、正体を察せないのも仕方ない。


「お、女……!? いやいやいや、つーか現代でも有名どころじゃねーの! それに架空の人物説だって眉唾……ど、どうなってんだ?」

「相手を知らず手を貸してたのですか」

 

 やれやれと首を振って、永琳は一つ息を吐いた。


「私も、はじめ聞いた時は驚きました。女性なのもそうですし、幻想郷に来るなんて。って」

「お、おぅ……悪い、ホント混乱してるわ……」

「まだ長くなりますし、少し落ち着きましょうか。お茶持ってきますね」

「ああ……サンキュー」


 一旦その場を離れる永琳を、呆然自失と視線を宙に踊らせる彼。もう幻想郷に慣れたつもりの真次は、まだまだ新入りなのだと自覚するほかないのだった……



 7月9日 21:15

思った以上に長くなってしまったので、半端な感じですが区切ります。永琳先生の最後の方の言動は『あっやっべ、長くなりすぎた』という、私の本音も少々……

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