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STAGE 3-42 断末魔の爪痕

ギリセーフでした……お待たせしてすいません

 7月9日 16:00



「うおっ!?」


 叫びにも似た黒い波動に気圧され、真次が、布都が、屠自古が怯み吹き飛ばされた。

 しかし三人とも素早く受け身を取り、驚きこそしたがそれだけだ。既に『ジャンヌ』は影も形もなくなっている。


「くぅっ!? 往生際の悪い奴よ……!」

「だがこれで終わりだ。あの女の気配は、完全に消え去ったからな」


 全身に響いた怨霊の咆哮。真次の『悪意を切り離す程度の能力』でも、弾ききれないほどの無念だったが、今残っている影響は、軽く指先に痺れを感じる程度だった。

 そんな中、やや離れた場所で神子は一人棒立ちしている。最後は彼女が一番神経を使っていただろうし、一息ついているのか? 不安に思った三人が近寄るも、反応が鈍い。


「どうした? 大丈夫か?」

「……太子様に安い口をきくな、この愚か者めが」


 屠自古が真次の頭を小突くも、怒ってはいない声色だった。この場の戦いに決着がついて、屠自古も張りつめた緊張を解いたのだろう。

 なのだが、太子様の様子がどうにもおかしい。疑念を抱いた布都が、神子の正面に立って軽く揺する。


「太子様? 太子様!?」

「――っ……布都……ですよね?」

「他に誰に見えると仰るのですか。お加減は?」

「少し……いえ、かなり……横になっても?」

「なんと……」


 日ごろ堂々と、聖人として振る舞う神子が、こうもはっきり弱音を吐くのは珍しい。太子様を介抱する布都を眺めているうちに、不安に思ったのか屠自古が彼に訊ねた。


「貴様は医者だったな。診れるか?」

「俺は外科医、身体の怪我診るのが主だからなんともな……ただ、見たところ精神的なショック症状に似ている。例えるなら、心を鈍器で殴られたような感じか」


 口にしながら、確かに似ていると再認し真次も様相を眺める。弾幕を被弾したようには見えなかったが、あの波動が神子を狙ったものだったのだろうか。


「……何を感じたんだ? 俺らにゃ大した事なかったが」

「……彼女の叫びと、憎悪を」

「……そうかい」


 無念の内容の想像はつく。けれども、所詮は想像でしかないのも事実だ。

 幻想郷へ来てから日の浅い真次には、それが如何なる衝撃で、どれほどの影響が出るかを、正確に診断できるとは思えない。彼は己一人では力不足と感じ、他に頼れる相手がいないか記憶を探る。

 暫したたずむと、少し前に別れた一人の顔が脳裏に浮かんだ。


「重症っぽいな……実は今、連れが人里にいるんだ。彼女の意見も聞きたい」

「八意 永琳のことか?」

「その見習いだ。少なくともこの症状なら、俺よりウドンゲの方が詳しいと思うが……」

「……いかがなさいます? 太子様」

 

 声での返答はなかったが、神子は小さく一度頷いた。


「よし、それじゃあ呼びに行ってくる」

「お前一人ではここから出られないだろう馬鹿。案内してやれ、布都」

「うむ、任された。弟子たちにも事の顛末を伝えるとしよう」


 来た時と同じように布都の後を追い、二人が静かになった世界を出る。

 先程までの喧騒が嘘のように、人里は一見して平和に見えた。



 7月9日 16:12

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