STAGE 3-35 天符と共に、突き進み
7月9日 14:47
同刻、その軍勢を眺めていた二人がいた。
「派手にやってるな。どうする?」
「ふっふっふ……我に秘策あり!」
ドヤァ……と満面の笑みを浮かべたのは、物部布都その人だ。懐から皿を取り出し、いくつか並べて呪文と共に叩き割る。するとどうだろう、巨大な木船が二人の足元からせり上がったではないか。
「天符『雨の磐船』である。これで横腹を食い破る寸法よ!」
「や、やるなら事前に言ってくれ! ビビるぞ!!」
「はっはっは! 細かいことは気にするでない」
真次は、地面がせり上がってくる感触に恐怖を覚えた。……現代風に例えるなら「エレベーターが昇り始めた時」に感じる力が、何倍にもなって轟音と揺れと共にやって来る……と言えば伝わるだろうか? 尻もちをついて転がっていたが、足場が安定すると自分で立ち上がった。一方布都は彼の事は気にせず、その意識は戦いの場に注力していた。
「待っておれ屠自古、太子様……!」
決意と共に動き出す船。宙を泳ぎ、こぎ出す非常識に、今度は真次も力添えを試みた。
彼は木船の最後尾に辿り着くと、両の手で銃を突き出し、その二つを加速装置に見立てて引き金を引く。すると、炎と熱が生み出す推進力が『雨の磐船』を押し出し、布都が未経験の速度で船が駆けた。
「おお!? これは良い! そのまま突き進み、怨霊どもを蹴散らそうぞ!!」
「おっしゃ、任せな!」
さらに勢いを増す炎に合わせ、木船がうねりを上げた。遠方から迫る威容に気がついたのか、怨霊の一団が足を止める。口々に騒ぎ、蠢き、行動を起こそうとしていたが、時既に遅し。巨大な質量と速力が、怨霊たちを天高く突き飛ばした。
「よし! 操舵は我に任せよ! 撃って撃って撃ちまくれ!!」
「おうよ! 全弾もってけ!!」
船から水しぶきが上がり、それもまた弾幕として敵に襲い掛かる。辛うじて避けたり、耐えた相手には真次の銃弾が撃ち込まれていった。怨霊の群れをなぎ倒していく二人。見る見るうちに数を減らしていく集団が、唐突に閃いた稲妻でさらに削られた。
「な、なんだ!?」
新手と勘違いした真次の手が止まる。一方布都は、同朋へ朗らかに叫んでいた。
「おお! 屠自古!! そこにおったか!!」
「遅いぞ全く! ……おかげで助かったがな」
彼女の声に雷光が相乗する。未だに敵が纏わりついてるが、屠自古が最初に目にした数よりは、大幅に勢いが失われていた。
「飛び乗れ! 駄賃は後で良い!」
「利子は安くしろよ!? ぼったくったら後で太子様に言いつけるからな!」
「そこまで我は器が小さくないわ!」
「復活前に依代すり替えたヤツが何言ってる!」
言い争う二人の耳元を、真次の弾丸が掠めた。直後、屠自古の背後にいた敵が倒れる。
「何かは知らんが後にしてくれ! お呼びじゃねぇ客まで乗っちまう!」
「う、うむ」
「……いい度胸だなお前」
布都は素直だったが、もう一人はこめかみに青筋を浮かべていた。……後で電撃を浴びる覚悟が必要かもしれない。
「この場は抑えよ。今は太子様の下に赴くのが先決である」
「……ちっ」
舌打ちと共に屠自古が飛び上がる。木船に軟着陸し、乗員が一人加わった舟が速度を上げた。軍勢を置き去りにし、敵の首領目がけて突き進む三人。未だ激しく交差する弾幕が、神子と敵が健在であることを示していた。
7月9日 14:59
悲報:敵ボスキャラの出番なし。次回は出るから……たぶん




