STAGE 3-34 怨念は深く逸話を染めて
戦闘パートの時間だあああああ!
7月9日 14:36
真次と布都が弟子たちの応対に追われてた頃、神子と屠自古も苦戦を強いられていた。
リーダー格であろう女は西洋甲冑を纏い、二人を見つけると両目を爛々と輝かせ、猛禽の如く飛びかかった。
細身の剣で心臓を啄ばもうと放たれた刺突を、神子は紙一重で避ける。大きく飛び込み無防備な背中へ弾幕を発射するも、怨霊はそのままの勢いで通り過ぎ、光弾が中空へ流れていった。
「殺す……! 殺してやる! お前が……お前たちのような奴等は……消えろぉっ!!」
神子の能力で察するまでもない。彼女の欲は復讐と破壊のみ。和解の余地は元よりなさそうだ。彼女と同族である屠自古が叫ぶ。
「我々の領域に土足で踏み込んでおいて……よくもまぁそんな口が利けるものだな!」
バリバリと大気を震わせながら、屠自古の雷撃が怨霊へ飛んでゆく。距離を取るかと思いきや、先程のようにその女は飛び込んできた。雷を模した軌道を取る弾幕を、曲がる前の段階で避けると、悪霊が屠自古の眼前で愉悦を浮かべ――
「屠自古!」
強引に腕を引かれ、自己の意思とは別の挙動をとった身体が危険を脱する。太子様が救ってくれた。胸の内を熱くしながらも、己の迂闊さを屠自古は恥じる。汚名を返上すべく、今度は手前から細かく曲がる雷光を、弾幕として敵対者に殺到させた。
危険を悟り距離を取る怨霊。適切な対応だが、この動きには神子も屠自古も強い違和感を覚えた。
(おかしい。どうしてここまで弾幕戦に慣れている!?)
命連寺を襲った相手ならば、手慣れな事は疑いようがない。だが初見の攻撃に完璧な対応をするには、何度も戦闘経験をしなければ……否、経験を積んでても難しいはずなのだ。言葉を発さず、二人は意思を通わせる。
――太子様、この輩は!
――ええ、恐らく私の能力に近い……少なくても何かを察知できている!
弾幕の間を埋めるように神子が追撃。同郷故の巧みな連携は、幻想郷の実力者たちが見ても舌を巻く領域であった。圧力を増した猛攻は甲冑女に掠めるが、にもかかわらず有効打はない。ならば――道士二人が挟み込む位置取りに動いた瞬間、女の唇がスペルカードを紡ぎ出した。
「背信『凶行の追従者・ジル』」
背面を庇える位置に、別の西洋甲冑の男が現れる。女は神子へ、男は屠自古へ突撃してきた。
亡者の眼差しが屠自古を射竦める。怨念より狂気に呑まれたその顔は、既に人でなくなった彼女でさえ悍ましく、怯んだその一瞬を隙ありと、男の両刃剣が振り下ろされた。剣圧が頬を撫で、刀身に映った屠自古の顔には冷や汗が滲む。
だが同時に、彼女は好機と確信した。金属鎧は電気を良く通す。近距離の間合いでさらに踏み込み、屠自古は男へ掌底と共に雷を叩きこんだ!
オオオオオオオオオオッ!!!
並みの相手なら消し炭にできる威力の電撃を受け、全身を痙攣させ男がのたうつ。膝をつき剣を支えにぐったりとする相手へ、追撃の構えを取ると頭上から雷撃が降り注いだ。鋼鉄の刃は雷を誘引し、まっすぐ男へ伸び突き刺さる。二度目の被弾に悲鳴はなく、五体を投げ出して倒れ、その戦士は息絶えた。
ようやくこれで太子様と挟み撃ちにできる。意識を怨霊へ向けた途端、その女は二枚目を宣言した。
「呼符『救国の御旗の下に』」
高々と軍旗を掲げ振るうたび、怨霊の軍勢が女の背からやって来る。男も顔負けの力強さで旗をはためかせ、鬼気とした表情の下へ嬉々として馳せ参じる亡者たち。怨霊特有の悪意に満ちた彼らを指揮する女は、まさしく魔女であった。
「神子様――!」
わらわらと湧いて出てくる群体に阻まれ、神子が孤立させられてしまう。集団の背後で弾幕の光が激しさを増し、あの女と太子様の戦いは佳境に入ったと確信した。合流しなければならないが、眼前の有象無象は屠自古を阻むために呼ばれたのだろう。悪鬼たちは何度も雷に焼かれながら、倒れた仲間を踏み越えて迫って来る。しかし彼女は立ち止まるつもりはない。屠自古もまた鬼の形相で、壁となった軍隊の突破を目指した……
7月9日 14:47
戦闘開始後は、あまり正体を隠さない方向性で行きます。(この人物については、名前の時点で察してる人がいましたが……)