第9話 朝食
こんにちは!
今回は王が登場です^^
それではどうぞ
目の前で突然、土下座した青年。名前はタツヤというらしい。
私のことを知らない人などいないなどという過信をしていたので、女の子といわれたときには本当に驚いた。
別に悪気があったわけでもないし、姫という立場を考えずに接してきてくれる人など本当に久しぶりだったので少々うれしいとも感じた。
そのためか、自然とタツヤの頭に手を置いていた。
私は、光属性を持つ者。
光属性はなにも、治癒魔法が専門なわけではない。
光属性の性質は恩恵と天罰の2種類だ。
王国を治める立場の人間である私達は、いつの時代でも人々の希望とならなくてはならない。
そのためには、たとえどんな犠牲を払うこともいとわない。…これが王国の信念である。
それにしても、このタツヤという青年は何者なのだろうか?
闇魔法を操る者など初めて見た。記録では過去にも数人いたそうだが、すぐに魔力暴走を起こして亡くなったという。
ニーナの言うとおりわからないことが多すぎるのだ。
そして、この青年は一体どんな目にあってきたのか?
一番知りたいのはそこなのかもしれない。
先ほど一瞬見せた闇魔法。…あんな恐怖を感じたのは初めてだ。
そのような力を持つにも関わらずときより見せる寂しそうな表情が、何故か気になる。
そんなことを考えながら、青年の頭に手を置いていたのだが…突然ふっと力が抜けたように青年は倒れた。
慌ててニーナが近づいてきたが、どうやら寝てしまったらしい。
姫の私室で、寝るとはなかなかいい度胸ね。と内心思いつつ、兵士を呼んで来賓室に連れて行くよう命じる。でも、彼の表情はどこか明るく私が看病していた時のうなされているような様子はなかった。
ニーナもそれに付いていった。
「さて、私も今日は休みます。」
使用人にそう告げて、ベットにすっと入り込んだ。
***
俺は光の中にいる。
何処からともなく、ミカエルの声が聞こえる…。
「アンナもオリクも村の人々も無事に天界に導かれました。あなたの地獄の業火で殺された者たちは地獄であなたが経験した『死の眠り』に着きました。」
オリクさんとアンナさんは天界にいけたのか…よかった。。
そう思いながら、光の中を漂う。
『私達は、ここから見守っているわ…』
『いつまでもメソメソすんなよ?…』
そんな声が聞こえた気がした…………。
***
バサッ。ふかふかの毛布と共に俺は起き上がった。
視界に入ってきたのは、見知らぬ壁。いや、見たことのある壁と天井だった。
「なんで、ここにいるんだ? 確か、姫様に土下座してたんじゃ…」
そんなことを呟きながら布団から這い出した。
そして、昨日抜け出したドアからそぉっと外に出ようとしたのだが…。
「おはようございます!」
という元気な声と共に部屋の中に押し戻された。
そこに立っていたのはメイドさん。そう、本物のメイドさんだ。
「え…?」
頭の中がまだ、寝ぼけているのか状況についていけない。
「さ、シャワーを浴びてきてください」
そういいながら、部屋の中にある木製の扉の中に俺を押し込む。
いつの間にかメイドさんは3人に増えていた。
「え? え?」
「はい。失礼しま~す。…あら、いい身体つき!」
いつの間にかこの世界に着てきたコートとカットシャツを脱がされる。
そして、ジーンズに手が掛かったところで目が完全に覚めた。
「ちょっと待った!! 自分でやるからいいです!」
慌てて、メイドさんから距離を取る。
「残念…。では、こちらのタオルをお使いください。私達は扉の向こうに待機していますので、着替えはこちらの物をお使いください」
そういって、メイドさんたちは扉から出て行った。
「なんだったんだ…いったい?」
そう思いながらも、シャワーを浴びる。
欧米方式なのか、浴槽に水は溜まっていない。
どうやら、その中で身体を洗うようだ。
風呂の手すりは金色でいかにも高級そうだ…。
頭や身体を洗うと水が黒くなった。
それには泥や塵も含まれていたが、一部触れると赤くなる物。つまり、こびり付いた人間の血液も大量についていた。
それを丁寧に洗っていき、もとの真っ黒の髪に戻った。
鏡を見ながら、洗っていたのだが自分の瞳が紅いことにはやはり違和感がある。
そして、ゆっくり立ち上がり身体を拭いた。
風呂から出ると綺麗にたたまれた洋服と下着が置いてあった。
驚いたことに下着は日本で使っていた、物に限りなく似ていた。そして、洋服は黒を基調としたものだった。
着てみると何故かサイズもぴったりで肌触りもいい。
まんぞくしながら、扉を開ける。
「お加減はどうでしたか?」
「よかったよ。ありがとね」
そこに立っていたメイドさんに一礼した。
「それは、よかったです。では、早速ですが朝食の席にご案内します」
「朝食の席? 部屋で食べるんじゃないの?」
「いぇ。我らが主が朝食に招待することを希望されておりますので…では、こちらです。」
そういいながら扉を出ると、昨日の廊下を逆方面に歩いていく。
俺の周りを3人のメイドさんが囲んでいるので俺は、ついていくしかなかった。
そして、しばらく歩いたところで一際大きな扉にたどり着いた。
「タツヤ様をお連れしました!」
メイドさんが扉をノックしながら、そう叫んだ。
すると、扉が内側に自然と開いた。
中には長机と大きな椅子が置かれていた。
そして、その椅子には威厳のありそうな男性とおしとやかそうな女性。そして、昨日の姫様が座っていた。
「待っておったぞ。さぁ、席に着きなさい」
そういって、男性が俺に座るように言った。
俺は、メイドさんに椅子を引いてもらいちょうどその男性と向かい合うように座った。
姫様がこちらを見てニコッとしたような気がしたが気のせいだろう…。
そして、俺が席に着くと料理が運ばれてきた。
カボチャスープのような物で、のどあたりが非常に良い。
「食べながらで構わないから聞いてくれ。まず、軽く自己紹介をしておく。わしは、このアルバニア王国の王、ジェイド・エヴァン・ヴィ・アルバニアだ。」
スープを飲んでいた俺は噴き出しそうになった。
一国の王の前で暢気にスープなど飲んでいていいはずが無い…。
しかし、昨日まで全く食事を取っていなかったせいか、手が止まらない。
「遠慮などせんでよい。どんどん、食べたまえ。さて、早速本題に入るがわしは君に感謝と謝罪をしなければならない。」
そういいながら王はマグカップでコーヒーを一口飲んだ。
俺の元にもサラダが運ばれてきた。
「まず、『ベルグ盗賊団』を壊滅させてくれたことに対しお礼を言わせてもらう。ありがとう、本当に助かった。あの村には盗賊団の殆ど全員が来ていたようで、いまや残党も数えられるほどしかいない。そして、先日アジトの位置の特定に成功し完全に壊滅した。これは、君のおかげと言えるだろう。」
「光栄です」
サラダを食べ終わった俺が咄嗟に返事をする。
何かのステーキが運ばれてきたので直ぐにそちらを食べ始める。
態度がなっていないとはいえ10日間何も食べえていなければ、こうなるのもしょうがないだろう…。
「うむ。しかし、その功績には多大な代償が付いてしまった。そう。村人達、総勢201名の死だ。君には生き残った者としての重圧をかけることとなってしまった。これは、王としての失態だ…。本当に申し訳なかった」
そういって深々と頭を下げてきた。
さすがの俺もこれにはびっくりして
「やめてください。あの村が襲われたのは誰のせいでも無いです。悪いのは盗賊のほうであって、決して王様のせいではないです!」
「しかし…罪の無い彼らが無残にも殺されたのだ。君の家族もいたのだろう?」
何か、王様は勘違いしているようだ。
「俺は、あの村には王国の騎士が到着する1週間前に着いた、ただの旅人です。 家族なんてもうこの世界にはいません」
そう。家族は皆、地球にいるのだ。
「すまない。悪いことを聞いたな。では、なぜ君はあの盗賊を殺したのだ? 逃げればよかったんじゃないのか?」
「…それは、できませんよ。一週間とはいえお世話になった方がいましたし、自分の力で誰かを助けられるなら喜んで力を使いますよ。…結局、誰も救えませんでしたが」
俺の言葉と共に部屋が静まり返った。
俺は残っていたステーキを口の中に放り込んだ。
「それでも、貴方のおかげで亡くなった方も報われたんじゃないかしら?」
今まで口を一切挟まなかった、女性が口を開いた。
「えぇ。昨日は、色々と取り乱しましたが今はそうであって欲しいと思っています」
そう。アンナさん達は天界でこれから生活していくのだろうから報われるだろう。
それを聞くと女性はにっこりとほほ笑み
「ならよかった。あ、自己紹介がまだでしたわね。私はこの人の妻。アルバニア王国の王妃、エリス・エルサレム・ヴィ・アルバニアよ」
と言った。
…え? この長机に向かい合っている人、全員王族なの…?
ちょっと待って? 俺ってただの一般市民だよな…。
もう頭の中が大混乱だ。。
「そう構えるでない。ここは別に公の席でも無いのだから、気楽にすればよい。」
俺の様子を見ていたのか、食後のコーヒーがグットタイミングで運ばれてきた。
「さてと…。悪いが皆の者、席を外してもらえないか?」
「「「「「は!!」」」」」
その命令に答えるメイドさんと護衛の騎士。
そうして、部屋の中には俺達4人だけになった。
「さてと…食事も済んだようだし、君をここに呼んだ本当の理由を話すとしよう」
先ほどまでとは違い、少々表情が硬くなる王様。
「君をここに呼んだのは、今朝、娘から非常に興味深い情報を聞かせてもらったからだ」
「はい。覚悟は出来ております。それで、自分はどのような罰を受けるのでしょうか?」
「何を言っておるのだ? 罰など何も無いのだが…」
首をかしげる王様。
「へ? 自分が姫様に魔法を使ったことで罪に問われるということでは無いのですか…?」
そう。昨日、俺は一国の姫様に魔法を行使して半泣きにさせたのだ…。
「あぁ。その話か…。本来なら罪に問うだろうが、今回はそのようなことは問題外だ。単刀直入に聞こう。君は闇魔法が使える上、セラフィストというのは本当かね?」
「…はい」
俺の言葉にピクッと反応する王様。
「本当なのだな…。出来ればこの場で見せてもらえないだろうか? 頼む」
本日2度目となるが、王様が頭を下げた。
「やめてくださいって! 使う分には問題ないのですが、そのぉ…」
そういいながら姫様を見る。
昨日、闇魔法を使ってせいで放心状態になったのだから…。
それを察したのか姫様が
「構いません。私も昨日のようには、なりませんから…」
と答えた。
「そういうことだ。早速、頼む」
そういって、こちらをじっと見てきた。
「わかりました」
すっと椅子から立ち上がり、先ほど入ってきた扉の前に立った。
そこで、王様達のほうを向き、深呼吸した。
イメージする。
炎が、闇が自分を包むことを。
すべての攻撃を退け、すべてを切り裂く刃となる物を。
イメージする。
炎も闇も俺の身を離れることは無く。この場の何者も傷つけないことを。
「ダークフレイムメイル」
俺は、その言霊と共に魔力を流し込んだ。
***
先程からこの青年を観察しているが、正直なところよくわからない。
わしが王ということを知らないところを見ると他国の者なのだろう。
黒い髪をしているから、レガビアンかと思ったが魔法を使ったという報告があったから違うのだろう…。
そして、娘から聞いて半信半疑ではあるが闇魔法を使える上にセラフィストであるという…。
この場に招いたのはそれが嘘か真かを確かめるためである。
魔法を使ってくれるように頼んだが、案外あっさり受け入れてくれたのは助かった。
そして、わしら3人の視線は扉の前に立った青年に注がれている。
「ダークフレイムメイル」
そう静かに呟いた青年の瞳がキラリとひかり赤みが増した。
ルビーのようなその瞳には、神秘性すら感じられた…。
…………しかし、わしの目の前の光景のほうが異様さを放っていた。
黒い影。
そういえばいいのだろうか?
青年を纏った黒い炎。
そこから、鎌のような物が数十本飛び出しこちらを向いている。
殺意は感じられないが…恐ろしい。
わしが今まで見てきた、どんな強敵よりも禍々しいものだ…。
彼自身が私の恐怖という感情そのもの。
そんな風に思ってしまうほどに。
ゆらゆらと蠢く炎。
しばらくわしはその様子をただ見ていた。
部屋の温度が10度くらい下がったとさえ思った。
青年はこちらを見据えながら、静かに口を開いた。
「…こんなものでいいでしょうか?」
禍々しい気配の中だが先程と同じ口調の青年。
「ああぁ、構わない。よくわかった」
シュンッと音を立てて、魔法が胡散した。
わしは確信した。
この者は、危険すぎる…。
盗賊団をたった1人で殲滅したという話も、若干疑っていたのだが間違いない。彼がやったのだろう。
しかし、処刑するわけにもいかないし…管理するにしても、この者の力の底が全く見えない。
どうしたものかと考え込んでしまう。
「本当に、闇魔法が存在するなんて驚きましたわ…。どちらで習ったのですか?」
動揺しているわしを尻目にわが妻、エリスが青年に話しかける。
青年はゆっくり席に着きながらそれに答えた。
「魔法を覚えたのは、あの村が襲われる数日前です。俺は、家族も友人もいないまま施設で育ちましたから…。まぁ、教えてくれた人はもう…」
俯く青年。
これには、さすがに驚いた。
魔法を覚えて2週間ほどで、この実力。施設ということは孤児院か何かだろう…。魔法を覚えるのには金が掛かるから実力が発揮できなかったというわけか…。
きっと、彼は施設を出てあの村で、初めて良い人に出会ったのだろう。そして、その人たちを殺され怒り狂い魔力暴走を起こした。
わしの中でいくつもの予想が生まれる。
しかし、俯く青年を見て思ってしまった…なんとかしてやりたい。
先程まで処刑すら考えたのが嘘のように彼のために何かしてやりたいと思った。
もちろん。盗賊団殲滅の褒美はもともと与える予定だったのだが…。
そんなことを思いながら、パンパンっと手を打った。
いかがでしたか?
公開して早くも1週間経ちました。
そろそろ毎日5000字が厳しくなりそうです><
お気に入りに入れてくださっている方々いつもありがとうございます。