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第7話 夜が明けて

昨日の話から一夜明けてからの話です。


どうぞ^^

昨日の一件から既に、数時間経過し太陽がうっすらと顔を出していた。

王国には、直ぐに情報が伝わったが、陸上部隊の到着までにはやはり時間がかかる。


私達は、風の魔法と水の魔法を併用してなんとか鎮火し生存者の探索を行った。

まだ全てを見終わったわけではないが、生存者はいなかった。


そう。ただ一人を除いて。

そう思いながら、毛布に包まったままピクリともしない黒髪の私よりも若い青年を見る。


その姿からは、昨日の禍々しい様子は想像がつかない。

しかし、昨日のことは全て現実だ。

それは村の傷跡を見れば一目瞭然となる。


「貴方は、本当に何者なの? 昨日のは魔力が暴走したとしか思えないし…」





『魔力の暴走』

それは、まだ魔法を扱って間もないうちに多大な恐怖や怒りの感情によって、なりふり構わず魔力を使い切るまで魔法を行使することを指す。

一般的に自分の中の魔力を認識してしまうと、暴走することはありえない。

それは自分の意思で水にもぐっている時と同じである。呼吸が続かなくなってしばらく我慢することは出来ても、ある一定のところで必ず浮上する。そのまま死ぬことはありえない。

これは、人間の深層意識に影響される現象である。

そう。魔力も基本的にはこれと同じ考えだ。


だが、暴走は実際に起こっている。原因は明確には判っていないが暴走は、魔力を完全に認識し切れていない人間にしか起こらない。

暴走の影響により命を落とすことも少なくは無いが、暴走を経験することにより魔力量が増えたという事例も報告されている。




「わからないことが多すぎるわ…」


タツヤが纏っていたあの黒い炎、自分達が討伐するはずだったウォーウルフの群れ。

そして、『ベルグ盗賊団』が何故あの村を襲ったのか。

全てが謎だった。



「どう報告すればいいのやら…」

一人、途方に暮れていた。


「ニーナ隊長。陸上部隊、到着しました!」

新人騎士が私のところにやってきて報告した。


昨日、あれほど吐いていた姿と比べると別人のようだった。


「ありがとう。あなたは少し、落ちついた?」


「はい…。さすがにあのような死体を目にしたのは初めてだったもので…。お見苦しいところを見せてしまいました。すいません」


「謝らなくていいのよ。初めてであの惨状は耐えられるものではないわ。」

そういいながら肩をポンッと叩いてやる。



「さて、陸上部隊の代表者のところにいかなくちゃ」

よっと立ち上がり。陸上部隊のところまで歩いていった。



「王国航空部隊第2番隊隊長、ニーナ・ヴィクトリアです。早急な対応ありがとうございます。」

一礼し、陸上部隊のほうに目をやる。


「ご丁寧にありがとな、ニーナ譲ちゃん。あ、一応言っとくか王国陸上部隊第1番隊隊長、ジョマンダー・ブリティシュタインだ。…にしても久しぶりだな嬢ちゃん。」


「嬢ちゃんはやめて下さい、ジョマンダー将軍。それにしても、騎士団長でもある貴方がわざわざやって来るなんて意外ですね。」


「うむ。我が王は前々から『ベルグ盗賊団』の対応に困られておられたからな、今回は確認作業と残党の掃討にやってきたのだよ。」

銀色の顎ひげを撫でながら、ジョマンダー将軍が答えた。


「さて、早速で悪いが詳細を頼む。」


「は!」

いくら昔からの知り合いとはいえ、騎士としては尊敬すべき人物であるジョマンダー将軍にはそれ相応の態度がある。


「昨日未明、私達がペガサスに乗り依頼されていたウォーウルフの探索中に事件は起きました。門のところに集まった『ベルグ盗賊団』は、村の警備をしていた2人の兵士を殺害した後、村へ侵入した模様。

炎の魔法とたいまつなどを使用し、家々を燃やして回りつつ男はその場で女は広場のところで殺していたようです。女子供については、串刺しにされ辱められた模様」

吐き気のするような内容だ。


「なるほどな。それで、結末は?」


「詳細はわかっていませんが、私達が戻ってきたときには何故か100人近い盗賊団の死体とウォーウルフの残骸が転がっておりました。誰がやったのかは不明ですが、その死体の中に1人の生存者がいたので保護しました。」


「ふむぅ…。生存者は一人だけか?」

何やら考え込むしぐさをした後、ジョマンダー将軍が聞いてきた。


「はぃ。残念ながら、1人の青年を除いて全員亡くなっているようです。」


「そうか。その青年からも話を聞きたい。ここに連れてきてもらえるか?」

やはり。というか絶対言ってくるだろう要求だった。


「申し訳ありません、ジョマンダー将軍。その者は魔力暴走を起こしたらしく…今は、昏睡状態です。」


「魔力暴走だと? これはまた珍しい現象が起こったようだな。しかし、詳細が聞けないのは困るのだが…」

そう。結局、タツヤが起きないと何も判らないのだった。


「とりあえず。王国まで連れて帰り、意識を取り戻すのを待つしかありません。」

昨日、色々考えてだした結論だ。


「嬢ちゃんがそういうなら、しょうがねぇな。おい! 残党の捜索と死体の判別、頼むわ」


「「了解しました」」

そういって陸上部隊の数人が探索を始めた。


「原因究明に全力を挙げていますが、やはり証言がないとあくまで予想にすぎません。ですが、これに関しては間違えないでしょう」

そういってウォーウルフについていた首輪と、盗賊団のボスだと思われる死骸が身に着けていた指輪を見せる。



「ん…これは『古代の遺物』か!?」


「えぇ。そうだと思われます。あまり群れを作らないウォーウルフが集団で行動していたのは、これを使い操られていたかと思います。」


「この問題は、わしらが思っていたより深刻なようだな…。まぁ、『ベルグ盗賊団』が壊滅したのは朗報だがな。」


「それで…この後どうしますか? ジョマンダー将軍」


「亡くなった者の埋葬が済み次第、王国に帰還する。その青年とやらの身体に異常が無いか調べる必要があるからな。」


「わかりました。では、一度さがります。」

そう言って、私は航空部隊の仲間のもとに戻った。



***

「埋葬、捜索、終了しました。」

ペガサスの手入れをしていた私のところに部下がやってきた。


「ご苦労様。ジョマンダー将軍はなんと?」


「1時間後に出発するとの事です。航空部隊も同行せよとのことです。」


「わかったわ。調査結果を教えて頂戴。」


「は! 村人死亡者201名、盗賊死亡者107名です。損傷は村人は大剣などで押しつぶされた者や嬲り殺された者が多いのに対し、盗賊は非常に鋭い刃物で斬られたようです。」


「何か異常は?」


「盗賊の死に方ですね。すべて斬り傷なのですが、切断面がぴったり合うんですよ。しかも、全員その刃物で切られたらしいので同一犯かと…。それと、また、村の外壁の一部を破壊されており、盗賊団の一部は逃走した模様です。これに関しては探知魔法で、ある点で止まっているようです。盗賊団のアジトである可能性が高いかと…。」


「アジトに関しては事が収まり次第襲撃をかけるように要請する。被害から考えて一小隊で十分対応できるだろう。それよりも、王国が手を焼いていた100人以上いた盗賊団をたった一人で殺したということか?」


「そういうことになりますね…」


どういうことだ?私はてっきりタツヤの魔力暴走に巻き込まれて盗賊が死んだのかと思っていたが、この前見た限りタツヤの属性は火だ。

炎の刃なら切断面は焼けてグジャグジャなはずだ。風ならうまくいくかもしれないが…。


「その切り傷というのは家屋などには付いていたか?」


「いえ。ジョマンダー将軍にも言われて調べたのですが一切そのような跡はありませんでした。」


風属性のカマイタチなら切断面はきれいだが、狙いがつけにくいため家屋などにも傷が傷が付く。

っということは、よほど整った剣先の刃物で切ったのだろう。

第三者がその場にいたのか?

それなら、なぜタツヤは魔力暴走を起こしたのだ?

あんな黒い炎見たこと無いし…。

また、謎が増えただけだった。



「ニーナ隊長。そろそろ出発しますので、門のところまで来てください。」

新人騎士も今回の件で随分、騎士らしくなったものだと苦笑しながら門まで向かう。


けが人のために用意された馬車にタツヤを乗せ、私たちは王国の首都であるフリージアに向かった。



***

これは、夢なのか…?


オリクさんのニヤニヤ笑う姿。

アンナさんのちょっと厳しそうな顔。


村を走り回る子供たち。


挨拶をすると必ず笑顔で返してくれる老人方。


1週間滞在している間にこんなに温かい場所があるのかと思うほど平和な村。


村長は厳しそうな顔をしているのも、村の存続のために様々な努力をしているからだろう。




しかし、その人たちは死んだ。

それは、避けられないことだったのかもしれない。


でも、もう少し早く俺が目を覚ませていたら何人かは救えたかもしれない。



無残に殺されたアンナさんとそれを笑う下種野郎共を見た瞬間、怒りが爆発した。

何をしたのかはおぼえている。


全てを殺した。

残虐かつ冷酷に…。



黒い刃で…。

初めてそれが現れた瞬間、本能的に使い方がわかった。


ミカエルの言っていたもう一つの属性。闇。


炎。闇。

どちらも破壊のための物だろう。

現に俺は一人も助けられなかった。



弱いな俺は…。



あれ?

なんか温かい。

でも、この温かさは俺には似合わないだろう。



***

ガバッ!


シーツを捲り上げるように俺は跳ね起きた。


「ヒィッ!」

小さな叫び声が聞こえた気がした。


「…ここは何処だ?」

見慣れない天井。見慣れない壁。

明らかに、昨日の村の物ではないと思われた。



…バタッ。


また、意識が闇に落ちた。



いかがでしたから?


ご意見、ご感想等ありましたらよろしくお願いします。

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