第6話 闇
※警告※
今回の内容はかなりグロテスクな表現を含みます。
苦手な方は見ないでください。
それでは、どうぞ
ペガサスが空中をまるで山でも駆け上がるかのように、飛び立った。
村人たちの歓声につつまれ飛んでいく姿は例え白いペガサスじゃなくても神秘的だった。
徐々に解散し始めた村人達がいる中でオリクさんと村長が何やら話していた。
「これで、村は救われるなオリクよ。」
「そうですね…。しかし、あの森にいるのはウォーウルフだけではないので安心は出来ませんが。」
「そうじゃのう。さて、わしは館に戻るとしよう。警備のほうは頼んだぞ。」
「はい!」
村長も館に帰っていった。
「オリクさん。この後、どうするんだ?」
「俺は村の警備に行くが、お前も来るか?」
「いや…ちょっと休むよ。今日はやたらと身体がダルいんだ。」
少しオリクさんが心配そうな顔をして
「大丈夫か?たぶん、初めて魔法を使って影響だろう。俺も最初のころはかなり辛かったからな…」
「そういうもんなのか? とりあえず休ませてもらうよ。」
「あぁ。そうしろ。今日は手伝ってもらったし、夕食になったらまた呼びに行くよ。」
「頼む。」
そういって、俺達はその場で別れた。
オリクさんは門の方に、俺は兵舎に向かった。
兵舎の入り口でアンナさんにあったので理由を簡単に説明し、自分にあてがわれた部屋に入る。
「大丈夫?」
と心配してくれていたのがとてもうれしく思った。
ベットに横になり、目を瞑るが…なかなか眠れない。
「こういうときに限ってなかなか眠れないもんだな…。」
と独り言をつぶやきながらゴロゴロする。
すると、足に鈍い感触が広がった。
「い、いてえぇ!!」
がばっと起き上がり、足をみると。
脛にオリクさんからもらった本の角が当たったようだ…。
完全に眠気が覚めてしまったので、本を開いてみた。
適当に開いた、そのページには様々な技名と効果が説明してあった。
***
第17章 ~技名とその効果~
技名とは魔法を扱う際に必要な言霊の事であるが、違った言霊でもイメージと魔力量さえ間違えなければ同じ現象を引き起こすことはできる。
しかし、一般的に技にはそれぞれ名前がつけられているので、この章では技名、効果をまとめたものを紹介する。ここで紹介するものは、初級魔法と中級魔法の一部である。
1、火属性
『ファイアーボール』
下級魔法。炎の球を作り出し、その球を対象物にぶつける事でダメージを与える。もっとも一般的な炎属性の魔法で比較的容易に使うことが可能。
『フレイムアーム』
下級魔法。身体強化の一種で、拳に炎を纏いダメージを上昇させる。実際に殴るのは術者なのでダメージは腕力に影響される。
『ファイアーアロー』
中級魔法。炎の弓を作り出し、対象物にぶつける事でダメージを与える。魔力量によって、矢の本数が変化する。中規模攻撃魔法。
『フレイムシールド』
中級魔法。炎の壁を作り出し、敵の攻撃を防ぐことが可能。強度は魔力量によって左右される。
『フレイア』
中級魔法。対象物を燃え上がらせる攻撃魔法。魔力の出力に微調整が必要になり、かなりの集中力がいるので注意。
2、水属性
『ミストボール』
下級魔法。空気中の水分を集め球体とし、その球を相手にぶつけることでダメージを与える。もっとも一般的な水属性の魔法で比較的容易に使うことが可能。
『キュア』
下級魔法。治療魔法のなかで最も易しいもので、怪我の治療を若干促進させる。ただし、大怪我の場合はほとんど効果が無く、擦り傷や切り傷程度のものに使用する。
『ウォーターアロー』
中級魔法。凄まじい勢いで水の球を飛ばし対象物にダメージを与える。魔力量によって、球の数が変化する。
***
「zzz…」
いつの間にか本が開いたまま顔の上に乗っかり、俺は夢の世界に旅立っていた。
***
それから1週間、何事もなく過ぎて行った。
王国の騎士団は問題のウォーウルフの群れをなかなか発見できず苦戦していた。
俺は午前中はオリクさんにもらった本を読み、午後は実践的な練習といったながれだった。
練習の中で炎属性に関してはかなり使いこなせるようになってきたが、闇というのはよくわからないし、こればかりはオリクさんにも相談できなった。
そして、1週間目の夜。
村の門のところに2人の人影がある。
「はぁ~」
「なんか疲れていますか、オリク隊長?」
「あぁ。タツヤの魔法の練習に付き合いすぎてな…。」
「タツヤって、あの黒髪の青年ですか? オリク隊長を疲れさせるなんてなかなかやりますね」
まだ若い兵士がニヤニヤしながら俺に、聞いてくる。
「そりゃ、魔法を1時間半ほとんど休みなしで使われたらなぁ…。」
「1時間半って! じゃぁ、今は魔力切れかかってるんですか??」
「いやいや、そこまで弱かねぇよ。」
なぜか、残念そうな顔をする兵士。
「そうすっか。話は変わりますが、これでウォーウルフの心配無くなりますね。」
「そうだな…。これで、子育てにも集中できるよ。」
煙草を懐から1本取り出して俺は、吸い始めた。
「え!? 姉さん、妊娠しているんですか!!」
アンナは兵士からは姉さんとして慕われいる。結婚してすぐに、兵舎の家事を担当してくれたのでとても助かっている。
「あぁ。今、9ヶ月なんだがな。男の子か女の子か楽しみだよ。」
「かぁ~! いい話っすね!!」
「だろ? 生まれたら盛大にお祝いしてくれよな?」
「もちろんっすよ!」
***
森の上からウォーウルフの群れを捜索しているが、なかなか見つからない。
この1週間の中で4匹討伐したが、どれも1匹で行動していて群れとはいえなかった。
「何やら、胸騒ぎがするのだが…」
そう。先ほどからいやな予感がビンビンしているのだ…。
「どうしたんですかニーナ隊長?」
「いや、随分森の中心部のほうにきたが、実はもっと村の近くにいるのではないかと思ってな…。」
きれいな夕焼けが空に広がっているが、夜になればそれだけ捜索は難しくなる。
「戻りますか? 隊長?」
先頭の騎士が聞いてきた。
「そうだな。一度戻ったほうがよさそうだ。」
「「了解」」
***
今、俺の目の前には奴らがいる。
『ベルグ盗賊団』
最近はウォーウルフの群れの影響かこの付近では活動していなかったはずだったのだが…。
その、ウォーウルフの群れも一緒にいた。
確かに魔物を使役することは可能だが、『失われた遺産』が必要になるはずだ…。
「オリク隊長どうしますか!!??」
まだ、若い彼はかなり慌てているようだ。
実際、俺は冷や汗が止まらない。
なぜ奴らが今?
「何しにきた!」
しかし、聞かないわけには行かない。
若い兵士に目配せをし、村長のところにいってもらう。
「もちろん…。」
先頭の2本の大剣を担いだ大男が低い声で呟いたのと同時に、その剣が空を舞った。
「全て殺し、全てを奪うためさ」
大男の手を離れた剣が先ほどまで、自分と一緒にいた兵士の背中に突き刺さった。
防具はつけていたが易々と貫通してしまったようだ。
「きさまぁ!!!!!!」
そういって、身体強化の魔法をかけ、腰から剣を抜きその男に切りかかった。
しかし、ひょいっとかわされ剣は別の男のことを切り裂いた。
『ベルグ盗賊団』
この付近では最も有名な盗賊団で構成人数は100人を超えている。
残虐かつ暴力的な性格にも関わらず統制のとれた組織で、王国も手を妬いている。
そんなやつらが、村を襲いにきたのだ。
「少しでも時間を稼がなくては…」
それが俺に出来る唯一のことだった。
しかし、1対100では勝ち目など無い。
あっという間に自分の脇から、村への進入を許してしまった。
それでも最後の足掻きとして、門の内側に巨大な岩の壁を作り上げる。
魔力切れなど構わなかった。
大切な人を守れるのなら…。
「めんどくせぇことしやがって。」
そういいながら、先ほどの男がもう1本の大剣を抜いた。
反射的に剣を構えたが、足元がおぼつか無い。
振り上げらる大剣。
「アンナ…」
そして、俺の意識は途絶えた。
***
「ふぁぁあ~」
夕食後にオリクさんが見張りに行くまでの間打ち合いを行ったせいか、少し寝るはずだったのが、随分寝てしまったようだ。魔法は思っている以上に身体に疲労をもたらす様だ。
しかし、何故か異様に暑い。
まだ、半開きの目で部屋を見渡す…。
そこで、俺は跳ね起きた。
火
火
火
火
見渡す限り、火の海である。
ベットのシーツにも、火が移った。
「な!!!」
一瞬、慌てたがすぐに部屋にある唯一の窓に目が行く。
身体強化されている俺の身体ならなんとかなるだろう…。
そう思いながら、頭を抱え込むように窓にダイブした。
パリィィン。
ガラスの割れる心地よい音と共に俺は、兵舎から外に飛び出した。
「いてっっ!」
さすがに無傷とは行かなかったが擦り傷程度だ。
振り返るように兵舎を見ると…
燃えていた。
ゴォォォォという音が聞こえそうなほど勢いよく燃えていた。
空が既に暗くなっていたので、その炎はやけに明るく見えた。
「あ!」
目の前前に倒れている人がいたので慌てて近づく。
兵舎はいつ崩れてきてもおかしくない状況だったので、そこにいるのは危険すぎた。
「大丈夫です……ひっ!」
倒れていた人は、何度か兵舎で見かけた兵士の1人だった。
しかし、すでに帰らぬ人となっていた。
仰向けにすると腹を切り裂かれ驚愕に目を見開いていた。
「うげぇぇぇぇ。」
吐いた。
その人には、悪いが気持ち悪いと思った。
確かに自分が死んだときの映像のほうが数倍グロテスクだったが今は感触がある。
まだ、生暖かい血。氷のようにつめたい肌。
数分間吐き続けて、やっと落ち着きを取り戻してきた。
「なぜ、この人の傷は切り傷なんだろうか…。」
そのとき、後ろで悲鳴のようなものが聞こえた。
ハッと後ろを振り返った瞬間、目を伺った。
俺の目に入ってきたのは変わり果てた村の姿だった。
先ほどまで自分が歩いていた道には無数の人の死骸が転がっている。
並んでいた家や店が炎に包まれ、パチパチッと音を立てている。
…そして、広場のほうから叫び声が聞こえてくる。
何があった?
わからない。でも、まだ生きている人がいるかもしれない…。
走った。
無我夢中で走った。
身体強化されているせいか、ほとんど一瞬で兵舎から広場までの200mの道のりを走りきった。
しかし……遅かった。
「何だ…これは?」
自分でもわかる。声が震えている。
そんな俺の目に入ってきた物は、まさに『地獄絵図』だった。
串刺しにされた女性や女の子の死体。
脇に積み上げられている男性の死体。
そして、その場でまるで祝杯をあげるかのように叫びまくってる男共。
そのうちの何人かはすでに死んでいるはずの者を犯していた。
真ん中のほうには、死体をむさぼるウォーウルフの姿があった。
俺はそれを見て、吐きそうになったが…ある一点を見つめて硬直した。
それは…一際高いところにある串刺しの死体だった。
「アンナさん…。」
ちょっと男毛のあるアンナさん。
部外者の俺にも優しくしてくれたアンナさん。
たった1週間しか一緒にいなかったけど、とても温かい人だった。
さっきも笑って、「ゆっくり休んでね」って言ってくれたアンナさん。
それなのに、裸にされ、串刺しにされて…。
おびただしい量の血液が溢れ出している。
「おい。まだ、生き残りがいたのか?」
祝杯を挙げていた一人が俺に気付き、近づいてきた。
「みたいだなぁ! …ん? 黒髪?」
その声を聞き、数人の男が集まってきた。
「ボスどうしますかぁ?」
「知るか、殺せ。」
ボスと呼ばれた奴が、一体のウォーウルフの頭をなでながら答える。
「…なぁ。この人、殺したのってお前らか?」
泣きたい。吐きたい。でも、聞かなくてはならない。
「何? お前、こいつの恋人? キャハハハ。そうだよ!そうだよ!こいつは最後まで抵抗したから、皆で犯しまくって殺したんだよ!!」
大笑いしながらそいつは答えた。
周りの奴らも、それに便乗するように笑い出した。
「ざまぁねえな。兄ちゃん! 早く死んで、この女のとこに行けよ!」
そういいながら男が腰から剣を抜いた。
***
アンナさんが死んだ。
いや、殺された。
誰に?
あいつら。
なんで?
抵抗したから?
そんなノが理由?
ソウダろ。
ならアイツラ殺してもイイ?
イイニキマッテルジャン。
シネバイイ。
ジゴクニオチロ。
コロシツクセ。
***
先ほどの青年がこちらを見つめている。
真紅の瞳が暗闇の中で、やけに輝いて見える。
「ボス!!こいつ、魔術師で…」
メンバーの一人であったその男は最後までしゃべれなかった。
首が消え失せたのだから。
「へ?」
周りの仲間のやつには何が起こったかわからなかった様だ。
俺にも、正直わからない。ただ、仲間が一瞬で殺されたということだけだ。
次の瞬間。
死体を犯していた奴らの手が、首が、足が。バラバラとなって地面に落ちた。
俺は夢でも見ているのだろうか?
今まは、ずべてうまくいっていた。
最近では、この指輪によってウォーウルフ5体を使役することが出来るようになり既に敵は無かった。
しかし、これは何だ?
目の前の黒髪の男は、先ほどから一歩も動いてはいない。
俺も、魔術師だから膨大な魔力がうごめいているのは分かるがそれが何なのかは分からない。
そう。属性すらわからない。
また、仲間が死んだ。
首から股まで一直線に裂かれていた。
ここにつれてきた113名の仲間のうち残っているのは既に、30名ほどだ。
「お、お前らそいつを殺せ!!」
今になって、慌てて仲間に命令する。
しかし、本能的に無理だとわかった。
何だ、この感情。今まで感じたことの無いもの?
そうか…。これが恐怖だ。
自分よりも圧倒的な物を前にした際に起こる感情。恐怖。
果敢に剣を抜いた仲間もまた、一瞬でバラバラとなる。
そして、そいつが近づいてきた。
一歩。一歩。それが自分の命のカウントダウンのように思えた。
今まで、暗闇にいたから気づかなかったが、そいつは黒髪の男だった。
その目は、先ほど不気味に光っていた真紅の瞳であり、今にも吸い込まれそうな恐怖に駆られる。
さらに、明るみに出たことによってやっとわかった。
そいつは、黒い炎を身体に纏い、そこから黒い鎌のような物が数十本出ていた。
まさに、『死神』だ。
「闇?」
最後の一人となった俺だが、まだウォーウルフがいる。
指輪に力を込め、指令を送った。
ウォーウルフが5体同時に、走り出しそいつに噛み付こうと飛び掛った。
毒のある牙で、かすり傷さえつけられれば形勢は逆転するはず。そう思っての行動だ。
飛び掛った瞬間、真紅の瞳がギラリと光ったかと思うと…既に地面にはウォーウルフの無残な残骸が転がっていた。
俺の目が追えたのは、黒い鎌が若干動いた様子だけだ。
そして、俺は一人になった。
「す、すまなかった。もう、こんなことはしない!! だから、命だけは命だけは助けてくれ!!」
もう、仲間のいないから最後の命乞いをする。
既に、ボスのプライドなど存在しなかった。
瞬間。
指に激痛が走った。
いつの間にか10本の指がバラバラと空中を舞っていた。
「ぎぃぃぃぃぃぁぁあぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!! 指がぁ!! 俺の指がぁあぁ!!」
しかし、叫んだのもつかの間、今度は耳が飛んだ。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぎぃぃぁぁあ」
続いて、舌が飛び…。
鼻。手。足。
そして、最後に首が飛んだ。
***
遠くからでも分かった。村が燃えている。
「予感が的中したか…。」
そう呟きながらペガサスを急かす。
「ニーナ隊長。見えてきました!!」
やっと村の門が見えてきたので、着陸態勢に入る。
他の騎士もそれに続く。
っと、門のところに一人の男性が倒れていた。
どうやら、剣で斬られたようだ。
ペガサスから降りて仰向けにすると、一度話したことのある人物だった。
「オリク殿…」
剣を握り、目を見開いたまま、亡くなっていたのでそっと目を閉じさせる。
この1週間の間に何度か話したが、なかなか気のいい男だった。
「ニーナ隊長。」
「あぁ、判っている。」
いつまでもここにいるわけには行かないので、ペガサスにまたがり村の広場へと向かった。
家が燃えているが、道のほうには崩れてこなかったのですぐに広場に着いた。
しかし、そこは地獄だった。
串刺しの死体。
積み上げられた死体。
しかし…
「これは、『ベルグ盗賊団』の旗ではないか?」
蛇に剣を突き刺したデザインのこの旗は、被害にあった村で数多く発見された物だった。
そして、脇に転がっているバラバラの死体の肩の部分に同じようなタトゥーが入っている。
ペガサスから降りた私は、周りを調べつつ先に進んでいく。
そこには、ウォーウルフの5体の死体がころがっていた。
傷口を見る限り、切り裂かれたようだ。
しかし、これほどの腕前の者がいるなど…。
そして、目の前の事実がこれらの死体などとは比べ物にならないほど私を驚愕させた。
その男は立っていた。
身体に黒い炎を纏い、真紅の瞳で私を貫くように見ていた。
口元は閉じ、周りの死体に目をやることなく私を見ていた。
「タツヤ?」
その青年の名前を呟いてみる。
すると、その男は崩れ落ちるように倒れた。
慌てて駆け寄り、それを支えてやる。
「おーい!」
他の騎士団の者を呼ぶ。
すぐに駆けつけた隊員に王国に応援を頼むように、伝令を頼んだ。
そして、自分に倒れこんできた青年の顔を覗き込む。
どうやら、彼は魔力切れで倒れたらしい。
「なぁ。タツヤ。君はいったい何者なんだ?? ここで何があった?」
答えが返ってこないのは判っていたがそう呟かずにはいられなかった。
今回の内容はかなりダークなものだと思います。
なぜこのようなものを出? と疑問に思われたかもしれませんが、闇属性を使うという設定上、このような展開になりました。
ご意見、ご感想等ありましたらよろしくお願いします。