第3話 飛ばされた場所
3話です。
今回から、異世界に入ります。
では、どうぞ!
トンネルを抜けるとそこは一面、銀世界でした。
ミカエル達に送られ、一瞬視界が真っ暗になったが、気が付くと俺は森の広場のようなところにいた。
「着いたみたいだな…」
ミカエルの話のとおりなら、ここは異世界だ。
確認する方法が無いので一応、頭で納得しておく。
「まずは、状況確認だな…」
とりあえず自分の格好を確認すると、黒いコートに黒いカットシャツ、そして、黒のジーンズと黒づくしだ…。どうしてこういう格好なのかはわからないが質はとても良いもののようだ。黒づくめのことを除いては…・
「これ…日本なら完全に不審者だなw」
半分呆れながら、状況確認を続ける。
「ここは、どっかの森の中らしいな…。まぁ、異世界のテンプレだね…」
前の世界で読んだ、異世界系のマンガを思い出しながらそんなことを思う…。
「後は、魔法だな」
そう。これが一番肝心なことだ。森の中に一人ぼっち。その上、武器も無い。
こんな状況で魔法やら何やらが使えないことは、死につながる確率が非常に高いのだ。
「とりあえず。燃えろ!!」
ミカエルに言われて炎と闇の属性は使えるらしいので、そこを試してみる。
しかし…
「現実は甘くないな…」
あたりまえだが、何も起こらない。
日本なら100%イタい人だ。
「なら、ブリジンガー!!ファイアー!ファイラ!」
いろんな映画やアニメで使われていたものを叫んでみる。
しかし…
「結果は同じかよ…」
正直、誰かに教えてもらわないと無理そうだ。
そこへ…。
狼が現れた。
「へ?」
さっぱり状況が掴めない。
しかし、狼は舌を出して攻撃体勢だ。
「あ、そういうことか…」
森の中に、餌がいるらしく匂いがしてきました。
場所の特定に時間が掛かっているときに、何やら声が聞こえてきました。
その声を頼りに僕たちはやってきたのです。
勝手に狼の心の中を想像してみた。
「OK。絶体絶命のピンチってわけか…」
目の前の狼×3は、動物園にいる狼より一回り大きい上、頭からヤギのような角が生えていた。
「いかにも異世界って感じだな…。では、逃げますか!」
魔法も武器も無い、丸裸同然の俺に選べる道はひとつ。
逃げることだ。
走った。
とにかく走った。
木の隙間を縫うように、時には木の上まで飛び上がり。
走って、飛んで、逃げた。
そして…ついに森を抜けることが出来た。
「ふぅ。なんとか撒いたか…」
後ろの森を振り返り、一応確認する。
「ってか、身体能力上がりすぎだろ!」
確かに、ミカエルは身体能力を上げるとか言っていたけど…狼よりも速く走り、木々を飛び越えてる時点で人間じゃない。
そもそも、あの速度で走りながら迫ってくる木の位置をすべて判断して避けるなんて、超人と呼ばれる存在だ。
「まぁ、おかげで村っぽいところに出たけどな…」
そう、目の前にはいかにも村って感じの集落があるのだ。
村を囲うように木で出来た障壁があり、物見やぐらのようなものも立っている。
そして、入り口に兵士っぽい格好の人間が立っていた。
「…とりあえず行ってみるか」
俺は、入り口の門に向かって歩き出した。
「…何者だ。貴様」
「身分を証明できるものを出せ」
兵士っぽい人。否、厳つい兵士が俺に剣を向けながら聞いてくる。
「しがない旅人さ…。仲間と共に旅をしていたのだが、先ほど狼のようなものに襲われて…」
兵士2人が顔を見合わせ、
「狼とはウォーウルフのことか?」
「名前はわからないが、角が渦のように巻いている狼だったな。」
「あぁ、そいつだ。ウォーウルフは、ランクCの魔物だ。なんといっても、牙に毒があるからな…しかもこの森のウォーウルフは群ってるようだから、ただの旅人には対処できないだろうな。…んで、仲間と荷物は??」
俺は少し悲しそうな表情をして
「仲間は死んだ…。荷物は、その時に置いてきてしまった。。」
「…そうか。悪いことを聞いたな。ウォーウルフに関しては後日、遠征帰りの軍が討伐してくれるそうだから、もしかしたら荷物を取り返してくれるかもしれないぞ。まだ若いのに大変な目にあったのだな。とりあえず、彼らがウォーウルフを討伐するまではこの村に滞在するといい。」
急に態度が変わった。どうやら同情してくれたようだ。
…まぁ、これは演技派な俺の大嘘だがな(笑)
「それは、助かる! …んで悪いんだが、すぐに金を稼げる場所とかあったら教えてもらえないか? 今、一文無しだから今日の食事や宿が危ういのだが…」
「…早急に稼げる場所は、この村には無いが…。兵舎に来たらどうだ? まぁ、兵士って言っても村の警備をするだけの物で人数も12人しかいないがな!」
「隊長。村長の許可を取らなくていいのですか?」
「それは、事後申請でいいだろう。何、ウォーウルフに襲われた者を村から追いだす理由もないだろう。」
「しかし、彼は黒髪なので村の者が…。」
「構わない。俺の責任で管理すると言っておけ。 さて。どうする? 若造よ」
「よそ者を入れて、いいのか?」
若造。という言葉にピクッとしたが、スルーすることにした。
「構わない。俺もまだ、未熟者だった頃ウォーウルフに仲間を殺された。お前の気持ちも痛いほど良くわかる…。だから、そんな奴を放っておくわけにはいかないだろう。」
…ヤバイ。メチャクチャ罪悪感があるわ。。。
「本当に助かる…。何か俺にも出来ることは無いか??」
さすがに嘘付いた上、ただで泊まるわけにはいかないしな…。
「そうだなぁ…出来れば、俺と手合わせしてもらえないだろうか?」
「手合わせ?」
「あぁ。こんな辺鄙な村じゃ自分の実力がよくわからないから、お前の見た目的にかなり遠くから来た者のようだからな。たまには外の者と打ち合ってみたいのだよ。それに、剣を交えれば自然と相手のことがわかるもんだしな」
「うーん。身の潔白が証明できるなら、喜んで引き受けよう」
正直、俺も身体強化がどこまで効いているのか試してみたかったので丁度よかった。
「じゃあ、早速出悪いが村の広場に行くぞ」
「広場?」
「あいにく、鍛錬場は無いのでな…」
そう言いながら、男は苦笑いをした。
「いや。全然、構わないよ。って、いまさらだけど自己紹介しておくよ。俺の名前は龍也。龍也・赤羽だ」
「タツヤ・アカバネ?珍しい名前だな。俺は、オリクだ。手合わせと言っても本気でかかってきてくれよ?」
村自体があまりい大きくないので広場にはすぐに着いた。
2人が少し離れて立つ。
「そちらこそ、退屈させないでくれよ??」
なんか、弱みを見せたくなかったので強がってみた。。
「言うね…若造!」
「おっさんこそ!」
「まぁ、いい。手合わせのルールはどちらかが負けを認めるまでだ。武器はこの木剣を使う。」
そういって、俺のほうに1本の剣を投げてくる。
材質は木っぽいが木刀よりも太い。
手にとってみたが、とても軽い。
ぶんぶん振り回してみて、馴染ませてみた。
「用意はいいか?」
俺たちの間に立っている兵士が聞いてくる。
「あぁ」
「いつでもいいぜ?」
「では、試合開始!」
サッと。両者がいっせいに地面を蹴る。
ガツッ。ガツッ。
木剣がぶつかり合う鈍い音が響く。
オリクは、大柄な身体にも関わらず機敏な動きをして、俺の隙を突こうとする。
しかし、俺には剣がスローモーションで動いてるように見えるので、紙一重で交わして、オリクの攻撃の際に出来た隙を突く。
サッと。攻撃を予知したのかオリクが後ろに下がったため俺の剣は空を切る。
そこに、追い討ちを掛けるように俺が飛び掛るがオリクが身体を反らせ、それを避ける。
俺が着地した瞬間を狙うかのように、オリクが下から上に切り上げて来た。
しかし、人間離れした動体視力を生かし、オリクの剣先にわずかに触れ軌道を反らせる。
一瞬、驚いた表情をしたオリクだったが反らされた軌道のまま、回転切りを仕掛けてきた。
なんとか、それを交わしつつ再び、剣が交差する。
そこで、オリクが俺にに蹴りをいれバランスを崩したところにすかさず切りかかってきた。
しかし、側転の要領でそれを避けて再び距離を取る。
「やるな…若造。剣さばきは素人っぽいが、身体の動かし方には俺では、ついていけそうにないな」
「そりゃどうも!おっさんこそ、紙一重で交わしやがって!」
「若造に負けるわけにはいかないからな!そら、行くぞ!!」
サッと。
両者一斉に飛び出し、剣を交える。
しかし、さっきの教訓もいかして交えている最中に、手首と身体を捻るようにし、オリクの後ろに立つ。
「もらった!!」
俺はそのまま1回転しながらオリクの背中に切りかかった。
ゴツッ。
鈍い音と共に後ろでオリクが崩れ落ちた。
「よし。勝った…ぅあぁ!!」
オリクを完全に倒したと思って背を向けたのがいけなかった。
後ろから、思いっきり木剣を食らった。
よろめきながら何とか俺は、立ち上がる。
「ほぅ。その打撃から立ち上がるとはな。。」
「卑怯だぞ、おっさん!!」
「卑怯?この試合の勝敗条件は相手が負けを認めるまでだと言ったはずだが?」
「っく」
完全に俺が甘かった。
「まぁ、お前さんの打撃もなかなかだったよ。この鎧が無ければ肋骨を2.3本折られていたかもしれないな」
そう。おっさんは鎧を纏っているのに対し、俺はただのコートを羽織っているだけなのだ。
「仕切りなおすぞ!」
「いくらでもかかってこい」
サッ…
再び二人の打ち合いが始まった。
***
…結局、両方とも負けず嫌いなこともあり約6時間撃ち合っていた。
しかし、そこで腹のほうが限界になり、いつの間にか2人とも剣を地面に置いていた。
「腹減った…」
「同感だ…」
審判をしていた兵士の姿は見当たらず、先に兵舎に戻ったようだ。
「約束どおり、兵舎で飯を食わしてやる。いくぞ!!」
「あぁ、飯だぁ!!!」
2人はそのまま兵舎に飛び込み、食堂のところにいた女性に声を掛ける。
「アンナ。俺とこいつに、いつものやつ。量は特盛で!」
「はいはい。あんたもいい年なんだから少しは落ち着きなさい」
そういいながら、アンナと呼ばれた女性が俺とオリクにお盆を差し出す。
お盆の上には、牛丼が特盛で置かれていた。
「ありがとう。アンナさん!!」
「お、新入りか…ってもう食べてるし。。」
アンナさんにお盆を受け取ると直ぐに俺とオリクは近くのテーブルに着き、猛スピードで牛丼を食べ始めたのだった。
「…おかわり!!」
「おかわり下さい!!」
2人そろって、アンナさんに丼を差し出す。
「呆れるくらいの食欲ね…。はい、どうぞ!!んで、あんた名前は…って、もう食べてるし!!」
またしてもアンナさんから丼を直ぐにテーブルに着き口の中に牛丼を流し込むのであった。
そして、計5杯の牛丼を食べた俺たちはほぼ同時に、ゴンッと丼をテーブルに置いた。
「いやぁ。食った、食った。」
「あぁ。満足だ。アンナさんの料理はうまいなぁ」
「あら、褒めてくれるの?ありがとうね。うちの主人はほとんど褒めてくれないんだから」
「そ、そんなことないだろう!?」
オリクさんがやけに慌てだした。
…まさか。
「オリクさんとアンナさんって夫婦なんですか?」
「あら、言ってなかったの?そうよ、うちの主人がお世話になったみたいね。窓からしばらく広場の様子を見ていたんだけ…あなた、若いのに随分な使い手ね」
「そうでもありませんよ。剣術なんて素人同然だし…」
「確かに、剣術はもっと鍛錬が必要なようだな。だが、身体強化の魔法は違和感を全く感じない程の一体感を持っているのだから誇っていいと思うぞ?」
「え、身体強化の魔法ってなんですか?」
「何を言ってんだお前? 戦いのときに俺も、お前も使っていただろう?」
「え? そうなんですか!」」
「まさか…お前、身体強化の魔法使ってないのか??」
「使ってないというか…魔法そのものが良くわからないので…。」
「…そういうことか。確かに、魔法の知識を得るのには金が掛かるからな…。しょうがないだろう…。」
なんか、勘違いされている気がするのだが気のせいだろう…。
「明日の朝、ここで簡単に説明してやるから、それまで待ってくれ。さすがに今日は疲れた…」
「頼みます…。」
フラフラと2階へ上がっていったオリクさん。
「すいません。俺も休みます…」
「あらそうなの?残念ね…じゃあ、明日ゆっくり話しましょうね。あ、貴方の事情はさっきオリクから聞いたわ。2階の奥から2番目の部屋を使ってちょうだい」
「ご親切にありがとうございます」
そうお礼を言って、俺も2階に上がっていった。
言われたとおりの部屋に入ると、中にホテルにあるのより質素なベットが見えた。
俺はそのまま吸いこまれるようにベットに寝転び、戸締りもしないまま、夢の世界に落ちていった。。。
いかがでしたか?
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