二回目の面接
朝、八時。
応接室のドアが開いている。
この時間、先生は党本部で『幹事長を交えての朝食会』のため不在である。
結城(公設第一秘書)が上座の代議士用ソファーに深々と座っている。
桃井恋三は採用を許可されての二回目(意思確認)の面接中である。
結城は傲慢な上から目線で恋三を見て、
結城「桃井くん。前回の面接の続きだが君はジバン、カンバン、カバンと云う言葉を聞いた事があるね」
恋三「は?」
結城「 ハ? ・・・知らないのか」
恋三「いや、聞いた事は有りますけど」
結城「なら、『ハイ!』と答えなさい」
恋三「あ、はい」
結城は恋三を睨む。
結城「・・・昨今はその三文字の他に『メディア』、いわゆるSNS等の活用が有る」
恋三「あ~あ、AIですね」
結城「? なんだ、その答え方は」
恋三「あッ、すいません」
・・・暫くの沈黙が続く。
結城「・・・君は理屈っぽい性格だろう」
恋三「いえ、あッ、まあ。はい」
結城「? どっちなんだ」
恋三「あッ、いや、はい」
結城「?・・・?」
結城は首を傾げ、怪訝な顔で恋三を見る。
松永(松永笑美子・秘書兼一般職員)がお茶とコーヒーを欅の盆に載せて、開いたドアーをノックする。
音 「コンコン」
松永「失礼します」
結城は松永を見て、
結城「おう、松永くん。キミにも紹介しておこう。桃井恋三くんだ。今日からこの事務所で『バリバリ』働いてもらう。ナッ!」
結城はソファーから中腰に成り、テーブルを隔てて小さく固まって俯いている恋三の背中を力強く叩く。
音 「バンッ!」
気合いを入れられた恋三の体は一瞬、前のめりに成る。
急いで態勢を立て直し起立して、
恋三「あッ、初めまして。桃井恋三です。宜しくお願いしますッ!」
松永「恋サンて書いて恋三さんて読むのですか?」
恋三「え? あッ、まあ」
松永はクスッと笑って、
松永「松永です。宜しくお願いします。頑張って下さい、コイさん」
松永はテーブルの上にお茶とコーヒーを置いて、品良く会釈して応接室を出て行く。
恋三は『松永の後姿』に見惚れている。
それを見て結城がキツイ口調で、
結城「おい、どこを見てるッ!」
恋三「え? あッ、まあ」
結城は恋三のまどろっこしい応対に声を荒げて、
結城「どっちなんだッ!」
恋三「いや、まあ」
結城「ま~あ?」
結城は呆れた顔で恋三を見る。
そしてテーブルの上に置かれたお茶とコーヒーを見て、
結城「・・・君はお茶かコーヒーか?」
恋三「あ、はい。ジャア、お茶で・・・」
結城「ジャア、お茶で?」
恋三「あッ、いや、お茶を・・・」
結城「お茶を?」
恋三「あッ、すいません! お茶でよろしいです」
結城は恋三を睨みながらコーヒーカップを取り、ブラックでコーヒーを一口、口にする。
結城「・・・旨い。オマエも飲め」
恋三「え? あ、はい。頂きます」
恋三もお茶を一口、口にする。
結城は恋三を睨みながらコーヒーカップを置く。
そして、
結城「・・・オマエの応え方は時間が掛かるな」
恋三「は?」
結城「ハではない。ハイだッ!」
恋三「え? あッ、ハイ」
結城は更にキツい口調で、
結城「声が小さいッ! アもいらないッ!」
恋三「ハーイッ!」
結城「?・・・」
結城はまたコーヒーのカップを取り一口、
結城「長いハイだな」
恋三「ハイッ」
結城「・・・出来るじゃないか」
恋三は結城をそっと覗き、
恋三「ただ・・・」
結城「タダ? ・・・何だ」
恋三は姿勢を正し、
恋三「これからの政治はシッカリとした国民への説明責任が必要じゃないかと・・・」
結城「うん? ・・・党内の問題か? ・・・君は出馬したいのか?」
恋三「あッ、いや、そんなあ~・・・」
恋三の弱気な返答に、
結城「ウンな事は議員が考える事だッ! 俺達は『メ・カ・ケ!』」
恋三「メカケ?」
結城「メイシ、カバン、ケジメ! メ・カ・ケだ。余計な事を考えないでハイハイと答えていればそれで良いッ!」
恋三「あ~あ、それで『メカケ』ですか。なるほど」
結城「ナルホド? 何だその応え方は」
恋三「あッ、すいません」
結城「スイマセン?」
恋三は萎縮して、
恋三「・・・はい」
結城は声を荒げて、
結城「声が小さいッ!」
恋三は思い切り声を張って、
恋三「ハイッ!」
結城はまたコーヒーを一口、
結城「・・・オマエは国会議員の『秘書の仕事』を知らないだろ」
また声を張って、
恋三「ハイッ! 分かりません!」
急変した恋三の対応に、
結城「うん? ・・・うん。まあ、それで良い。・・・で、議員秘書の仕事とは・・・」
事務室の電話が鳴る。
松永が電話の応対をする。
すると事務室から松永が、
声 「結城さん、一番に本人(先生)からです」
結城「ホンニン?・・・あいよー。全くウルセーな〜あ」
結城は燻ったげに立ち上がり代議士用のテーブルの上の受話器を取る。
ボタンを押して、
結城「はい、結城です。・・・来てます。・・・やってます。・・・はい。・・・はい、分かりました」
結城は受話器を置いて席に戻る。
結城「で、・・・どこまで話したっけ?」
恋三は姿勢を正し、
恋三「『ケ』です」
結城「ケ? あ、そうか。そのケだ。秘書の仕事は陳情処理、繋ぎ役。あとはその『ケ』だ」
恋三「ケはさっき話した『ケジメ』じゃないのですか?」
結城はまた声を荒げて、
結城「違うッ! 『ケアー』のケだ」
恋三「ケアー?」
結城は怪訝な顔で恋三を見る。
結城「・・・君はケアーを知らないのか? W大の『ア法(法学部)』を出てるにしちゃボキャが不足してるな。ケアーとは『世話』だろう」
恋三「あ~あ、そのケですか」
結城「そうだ。そのケだ。他にあるか?」
恋三「え? いや・・・まあ・・・」
結城は真顔になり、
結城「ケにはケジメ以外にもう一つのケがある。そのケを『裏毛』と言う。ソレが大切なんだ」
恋三「ウラケ・・・?」
結城「それが今言った『ケアー』だ。ケアーとはこの世界では『世話焼きと聴き役』の事を云う。議員の鬱憤のハケグチを真摯に受け止める心の大きさ! 簡単に言うと『怒鳴られ役』だ。自分の人格なんか吹っ飛んじまうぞ」
恋三「えッ! そんなに怖いんですか」
結城「コワイ?・・・怖くは無い。ただ、『ウルセー(うるさい)』ンだ」
恋三「はあ〜・・・。それから・・・」
結城「それから何だ!」
恋三は小声で弱気な質問をする。
恋三「バイトの日払いって出来るんですか?」
結城「何ッ!」
恋三「いや、募集要項には」
結城「 細かい事を言ってるんじゃないッ! 政治家の秘書だぞ。秘書は食わねど高楊枝だ!」
結城は恋三をキツく睨んで、
結城「・・・オマエは金に困ってるのか」
恋三「いえ。ハイッ! 頑張ります」
この『バイト』は実に厳しい仕事の様である。
続く




