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キッカケ作り

  議員会館の中空(ナカゾラ)で、カラスがハトを追いかけ回してるいる。


十一階の廊下を女事務員(一般職員)が、小冊子を台車に乗せて押して行く。

各議員事務所のポストに小冊子を投函して行く事務員。


門松事務所のドアーが開き、松永が投函書類を持って出て来る。


 松永「ちょっと投函して来ます。電話、よろしくお願いしま~す」


結城の声。


 結城「アイヨー」


応接室では結城が日経新聞を読み終え、両手を大きく上げて欠伸(アクビ)をしている。


 結城「ア~~ア」


恋三は熱いお茶に息を吹きかけ、啜っている。

結城はコーヒーを一口飲んで、


 結城「 ・・・良かったな」

 恋三「は?」

 結城「戸倉の心臓が治って」

 恋三「あ〜あ、・・・はい」

 結城「あのカアチャン、何か言ってたか」

 恋三「あらためて『お礼』に伺いますと」

 結城「お礼に?」


鋭い目で恋三を睨む結城。


 恋三「・・・何か?」

 結城「いや、何でもねえ。ちゃんと『報告』しろよ」

 恋三「えッ? 報告?」

 結城「俺が居ない時もあるからよ」

 恋三「あ〜、勿論ですよ」

 結城「さ~て、残った『カラ券』でも売りに行くか」


恋三は驚いて、


 恋三「えッ! 本当に売りに行くんですか?」

 結城「何かおかしいか?」

 恋三「終わった勉強会のチケットなんて売れるんですか?」

 結城「分かんねえ。・・・ただ」

 恋三「ただ?」

 結城「『きっかけ作り』には成る」

 恋三「キッカケ?」


すると結城が、奇妙な話しを持ち出す。


 結城「おい、そこの新聞掛けに掛かっている日経を持って来い」

 恋三「え? 新聞ッすか」


恋三は束ねられた日経新聞をテーブルの上にに置く。


 結城「いいか、株式欄だけを一週間前から見ろ」

 恋三「はい。・・・」

 結城「まずは、建設株だ」

 恋三「・・・」

 結城「その中で上がり下がりの激しいモノ」

 恋三「・・・あ~あ、コレかな?」

 結城「それから自動車株」

 恋三「はい・・・」

 結城「それからAI関連と精密機器!」

 恋三「・・・」

 結城「じゃ、今日は簡単な『土建屋』から廻ってみるか」

 恋三「ドケンヤですか」


結城はニヤけた顔で恋三を見る。


 恋三「何かおかしいですか」

 結城「いや、なんでもない。愛(ウ)いなヤツよのう。じゃッ、その土建屋サンを『揺さぶり』に行こう」

 恋三「揺さぶる?」

 結城「托鉢だ」

 恋三「 タクハツ?」

 結城「営業兼、販売だよ。この業界じゃ、托鉢って言うんだ。覚えておけ」

 恋三「ああ、そう云う事ですか。あッ、そうだ!」

 結城「何だ」

 恋三「地元で運転中、先生から『こんな名刺』を渡されました」

 結城「こんなメイシ? どんな名刺だ・・・」


恋三は背広のポケットから名刺入れを取り出し、中から先生から預かった名刺を結城に渡す。

結城はその名刺を見て、


 結城「枝野耀蔵? これはオヤジの後援会長の名刺だな・・・」


結城は名刺の裏を見る。

裏書きがしてある。


 結城「・・・」

 恋三「そんな事出来るんですか?」

 結城「うん? ・・・うん。ここに来た陳情は全てやらなくっちゃな。ああ見えてもオヤジは副大臣だ。出来ないものはないと信じている。それに、この名刺の依頼者は博康会の後援会長だ。息子の『裏口入学』ぐらい何とかしてやらねえとな」

 恋三「W大って文豪(門松文豪・先生の息子)さんもW大だったそうですね」

 結城「うん? オメー誰から聞いた」

 恋三「博子さんからです」

 結城「ヒロコ? ふ~ん・・・まあ良い。コレは後で作戦を考えよう。いずれにしても、バッチリ放り込んでやる」


松永が事務室に戻って来る。


 松永「すいません。投函口の所で柿坂先生のミッちゃんと会っちゃって。何か電話有りました?」


応接室から結城の声。


 結城「無いよー。あ、俺達ちょっと出かけて来る。後で電話入れるから」


事務室から松永の声。


 松永の声「キッカケ作りですか? 」


 結城「そうだ」


 松永の声「分かりました。頑張って下さい」


応接室。


 結城「あいよ〜。おい、行くぞ!」

 恋三「えッ、もうですか?」

 結城「バカ野郎、釣りと行商は早く行った方が大物をゲット出来るんだ」

 恋三「ギョウショウですか?」

 結城「そうだ。偉い奴らはスケジュールが詰ってるからな」

 恋三「あ~あ。そう云う事ですか。勉強に成ります」

 結城「おい、券を忘れるなよ。終わっても、『三ヶ月は撒き続ける』んだ。券がホットな内にな。ついでにオマエの顔も売るんだぞ」


松永がいつの間にか応接室に券を一束(五十枚)持って来る。

テーブルに置きながら恋三を見て、


 松永「そのキッカケで、結構売れるんですよ」


恋三はテーブルの上の券を見詰めている。


 結城「何、見惚(ミトレ)れてるんだ。早くカバンに入れろ。今日はそれを全部置いて来るからな」

 恋三「えッ、あ、はい」

 結城「俺は先に行くぞ」

 恋三「あッ、ちょっと!」


恋三は急いでチケットをカバンに押し込む。


 音 「カチャッ!」


事務所のドアーが閉まる音。


恋三が振り向くと結城は居ない。

急いで結城の後を追って事務所のドアーを開ける恋三。

松永が恋三の背中に、


 松永「頑張って下さいね。恋サンしか居ないんだから」

 恋三「え? 野上くんは?」

 松永「野上さんは糖尿の再検査入院ですって」

 恋三「え~え?も〜お? 嘘でしょう・・・」


ドアーがゆっくり閉まる。

                        続く

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